不意に意識が戻った。
心臓が止まる! 心臓が強い力で乱暴に鷲づかみされ、握り潰されそうな強い圧迫感のせいで鼓動が急に遅くなった。
指先と爪先が凍る! 血が通わなくなってしまったのか、氷水に浸されたように冷たくなって行った。
瞼が開かない! 指の先も動かせない! 痺れが全身を徐々に覆い始め、動かそうとしても、痙攣を起こしたように細かく震える感覚があるだけだった。
肺が膨らまない! 痺れは肺にまで及んだのか、息を吸う事が出来なくなってしまった。
助けて、助けて、助けて! 開かぬ口ともつれる舌はか細い唸り声しか生まなかった。
喰われる! 喰われてしまう! 目の前に現われた、吊りあがった瞳のない白濁の眼、胸元の亀裂から伸ばされた生臭い雫を滴らせた舌、絡みつかれ、身動きに出来ないまま、頭から骨の砕ける音を立てて噛み千切られる。
温かい・・・ 突然、額に何かが触れた。心も身もゆだねられる、安らぎを与えてくれる温もりだった。ゆっくりとゆっくりと圧迫感も痺れも消えて行った。そして、あの訳の分からない物も・・・
葉子は目を開けた。いつものように少し雨染みの広がった天井があった。いつものようにピンクのカーテン越しに差し込む陽が顔に当たっている。・・・自分のアパート、自分のベッドの上だった。
葉子は昨夜の記憶を辿った。公園、喧嘩の様な場面、棒を持った黒ずくめの男、そして、そして・・・
「目が覚めたか」
聞き覚えのある、低い感情のない男の声がした。葉子は驚いて、声のする方を見ようと上半身を起こした。
「いやっ!」
あわててベッドに倒れこみしっかりと布団をかけた。布団の中で全身を触ってみた。何も着ていなかった。今までこんな格好で寝た事はない。自分で寝たわけじゃないんだ・・・
「気分はどうだ」
葉子の視界に男が入って来た。締まった上半身としなやかな両脚を晒し、腰にバスタオルを巻いただけの姿だった。
「あなたは、あなたは・・・」
葉子は布団から顔だけを出し、震えながら言った。この人に何かされたのかしら・・・ 感情を出さない相手の顔が、ことさら不気味に思えた。
「オレか? オレは朧妖介と言う名だ」
男は葉子に近づいた。
つづく
心臓が止まる! 心臓が強い力で乱暴に鷲づかみされ、握り潰されそうな強い圧迫感のせいで鼓動が急に遅くなった。
指先と爪先が凍る! 血が通わなくなってしまったのか、氷水に浸されたように冷たくなって行った。
瞼が開かない! 指の先も動かせない! 痺れが全身を徐々に覆い始め、動かそうとしても、痙攣を起こしたように細かく震える感覚があるだけだった。
肺が膨らまない! 痺れは肺にまで及んだのか、息を吸う事が出来なくなってしまった。
助けて、助けて、助けて! 開かぬ口ともつれる舌はか細い唸り声しか生まなかった。
喰われる! 喰われてしまう! 目の前に現われた、吊りあがった瞳のない白濁の眼、胸元の亀裂から伸ばされた生臭い雫を滴らせた舌、絡みつかれ、身動きに出来ないまま、頭から骨の砕ける音を立てて噛み千切られる。
温かい・・・ 突然、額に何かが触れた。心も身もゆだねられる、安らぎを与えてくれる温もりだった。ゆっくりとゆっくりと圧迫感も痺れも消えて行った。そして、あの訳の分からない物も・・・
葉子は目を開けた。いつものように少し雨染みの広がった天井があった。いつものようにピンクのカーテン越しに差し込む陽が顔に当たっている。・・・自分のアパート、自分のベッドの上だった。
葉子は昨夜の記憶を辿った。公園、喧嘩の様な場面、棒を持った黒ずくめの男、そして、そして・・・
「目が覚めたか」
聞き覚えのある、低い感情のない男の声がした。葉子は驚いて、声のする方を見ようと上半身を起こした。
「いやっ!」
あわててベッドに倒れこみしっかりと布団をかけた。布団の中で全身を触ってみた。何も着ていなかった。今までこんな格好で寝た事はない。自分で寝たわけじゃないんだ・・・
「気分はどうだ」
葉子の視界に男が入って来た。締まった上半身としなやかな両脚を晒し、腰にバスタオルを巻いただけの姿だった。
「あなたは、あなたは・・・」
葉子は布団から顔だけを出し、震えながら言った。この人に何かされたのかしら・・・ 感情を出さない相手の顔が、ことさら不気味に思えた。
「オレか? オレは朧妖介と言う名だ」
男は葉子に近づいた。
つづく
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