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妖魔始末人 朧 妖介 79

2010年05月22日 | 朧 妖介(全87話完結)
 蔦が解かれた。エリの両腕が力なく垂れ下がる。目を見開いたまま首がうなだれた。
 妖魔は串刺しのままのエリを頭上高く持ち上げ、息の漏れる声で笑い続けた。
 滴ったエリの血が溜まった瘤の上に他の瘤が群がった。滴り続ける血に向かって伸び上がる瘤もあった。
 妖魔は乱暴に串刺しのエリを振り払った。エリのからだは瘤の上を転がり、葉子の前で止まった。葉子の足も止まる。
 葉子はエリを見た。身動きしないエリとは対照的に、血が傷口から溢れ流れている。 
「・・・葉子、邪魔をする奴はいなくなった」葉子は顔を上げた。妖魔の顔が幸久になっていた。「さあ、それを乗り越えて、俺のところに来てくれ。そして、俺をこいつの中から救い出してくれ・・・」
 葉子は微笑み、頷いた。エリを跨ぎ越す。
 妖魔は槍を大きく拡げて葉子を待つ。
 葉子の降ろした足が、瘤の上に溜まっていたエリの血溜まりを踏んだ。
 葉子は見下ろした。跳ね上がった血がふくらはぎにまで散っている。
 ・・・なに? 何か言ってるわ・・・ 葉子は足を止め、幾度も血溜まりを踏みしめた。そのたびに、踏みしめる足裏から、何か言葉が伝わってくる。
「葉子!」幸久の顔が苛立った声を出す。「さっさとここへ来るんだ!」
 しかし、葉子は顔を上げず、血溜まりを見つめ続けた。
 ・・・誰? わたしは幸久を救わなきゃいけないの・・・ 葉子は伝わってくる言葉の主に心で答えた。・・・妖介? エリ?・・・ 葉子は伝わってくる言葉に思いを巡らせる。・・・
 突然、葉子の両目が大きく見開かれた。妖魔の操りが解けたのだ。
 葉子の目に、改めて血まみれで動かないエリの姿が映った。
「エリ! エリちゃん!」
 葉子は崩れるようにその場に座り込んだ。エリの血が跳ね上がり、葉子の尻と脚とを濡らす。
「エリちゃん! しっかりして!」からだを揺すった。エリは目を見開いたままされるがままだった。「あああ、なんて事!」
 葉子はエリの血にまみれた両手で顔を覆った。肩を震わせている。不意に震えが止まった。
 ・・・お姉さん、妖魔を始末して妖介を助けてあげて。お願い・・・ エリの意識が葉子の全身を駆け上った。そして、途絶えた。
「・・・」
 葉子は立ち上がった。葉子の顔が血に染まっている。黒い瞳が金色に光リ始める。・・・わたしのせいで、妖介もエリも・・・ 
 妖魔を見据える。・・・こんなものに操られていたなんて。わたしはどうしようもない馬鹿女だわ!
 全身から白い揺らめきが立ち始める。・・・許せない! 自分も、妖魔も!
 手にしている『斬鬼丸』が青白く光り始めた。それを懼れるように赤い瘤がざわめく。
『斬鬼丸』から白く輝く刀身が足元に向かって伸びた。足元の赤い瘤に突き刺さる。握る手に力が篭る。
 刀身が刺さったところから赤い瘤が白色に変わり、そこを中心に白色が円形状に拡がって行く。それにつれて、瘤から呻き声や雄叫びが上がる。
「妖魔あ!」
 葉子が叫んだ。その声に瘤全体が恐怖に揺れた。
 金色の瞳が真っ直ぐに妖魔を捉える。
 妖魔は幸久の顔のまま葉子を睨み返した。嘲りの表情が浮かぶ。
「葉子・・・ どうだ? 欲しくはないか?」言うと、股間に隆としたおとこを屹立させた。甲高い笑い声を上げる。「あれだけ俺にぶち込まれ、最高の悦びを刻み付けたんだ。お前が意識しなくても、お前のからだが俺を欲しがっているのさ。今も俺の言い成りになったろう?」
 葉子は足元で動かなくなっているエリを見た。妖魔は勝ち誇ったように息の漏れる笑い声を立てた。しかし、葉子は表情を変える事なく妖魔に視線を戻した。妖魔の笑い声が止んだ。
 葉子は『斬鬼丸』を突き立てたまま、手を離した。『斬鬼丸』は変わらず白い円を作り続けている。葉子はゆっくりと一歩前へ出た。

      つづく




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