二人は走り去ったインド人職人の寿司屋台に戻った。コーイチは残っている寿司の一つを摘もうと手を伸ばしたが、洋子はやめた方が良いと言うように頭を左右に振って見せた。コーイチは先ほどの辛さを思い出だし、手を戻した。そこへ洋子は消しゴムの入ったケースを差し出した。コーイチは受け取り、目の高さまで持ち上げ、しげしげと中身を見つめる。
「この消しゴムは、以前に勤務していた海外支社にあったものです」
洋子はコーイチの手に渡った消しゴムを見ながら言った。
「海外支社は消しゴム製造でもしているのかい?」
コーイチの質問に洋子は頭を左右に振った。
「いいえ、普通の業務を行なっています」洋子は不意にコーイチに顔を近づけ、小声で続けた。「・・・ただ、海外支社と言うのは、この消しゴムとある鉛筆とを誰の手にも渡らないように守り抜くための組織が、前身でした」
「じゃあ、悪の組織と戦う正義の味方って事だよね?」コーイチは目をきらきらさせた。「と言う事は、芳川さんはいざと言う時には、コンバットスーツを着るんだね?」
「・・・」洋子は妙なはしゃぎ方をしているコーイチを困ったような顔で見つめた。「コーイチさん、特撮戦隊ものと勘違いしていませんか?」
「・・・すみません・・・」
小さくなったコーイチだった。洋子は大きな深呼吸をして、話を続けた。
「数十年前、たまたま大掃除をした地下倉庫の古びた金庫に、数葉の手紙と共に入っていたのが見つかりました」
「手紙・・・」
「そうなんです」
「で、内容は?」
「消しゴムと鉛筆とに関するものでした」洋子は目を閉じ、手紙の内容を思い出していた。「『消しゴムは書いた者を消し去り、鉛筆は書かれた者を呼び戻す』みたいな内容です。後は、この二品を邪悪な者の手から守るようにと言うものでした」
「・・・」コーイチは腕を組んで天井を見上げた。「そりゃあ、すごい話だね。・・・まるで、どこかの映画みたいだ」
「信じていないんですね」洋子はじろりとコーイチをにらんだ。「だから、話したくなかったんです!」
「・・・すみません・・・」
コーイチはさらに小さくなった。
「でも、信じがたいですよね」洋子は言った。・・・なんだ、やっぱりそう思うんじゃないか。ちょっと不満なコーイチだった。「そこで、この手紙の内容と消しゴムと鉛筆の謎解きが始まりました。まだ海外支社になる前の事だそうです」
「あのさ・・・」コーイチは不思議そうに言った。「社長は、その事を知っていて、そこを海外支社にしたのかい?」
「そうだと社長から直接お伺いしました」
「でも何でまた、そんな所をわざわざ・・・」
「面白そうだから、だそうです。そうおっしゃっていました」
「面白そう、ねえ・・・」・・・You、これ面白いから、海外支社にしちゃいなよ、って感じだろうなあ。コーイチは溜め息をついた。「ま、社長らしいのかな・・・」
「そして、通常業務とは別に、これらを守ると言う業務も加わったんです。万が一と言う事がありえるかもしれませんから」
「それで、『龍玉虎牙神王拳』の継承者の芳川さんが抜擢されたんだ。仕事もてきぱきこなすし、正にうってつけだね」コーイチは笑いながら言った。それから、ふと真顔に戻った。「・・・でも、どうして戻って来たんだい? それに、持っているのは消しゴムだけのようだけど・・・?」
「そうなんです、それが問題なんです」
洋子の顔が曇った。
つづく
いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ
(つらいコンも終わりましたね。舞台無事に行くと良いですね)
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「この消しゴムは、以前に勤務していた海外支社にあったものです」
洋子はコーイチの手に渡った消しゴムを見ながら言った。
「海外支社は消しゴム製造でもしているのかい?」
コーイチの質問に洋子は頭を左右に振った。
「いいえ、普通の業務を行なっています」洋子は不意にコーイチに顔を近づけ、小声で続けた。「・・・ただ、海外支社と言うのは、この消しゴムとある鉛筆とを誰の手にも渡らないように守り抜くための組織が、前身でした」
「じゃあ、悪の組織と戦う正義の味方って事だよね?」コーイチは目をきらきらさせた。「と言う事は、芳川さんはいざと言う時には、コンバットスーツを着るんだね?」
「・・・」洋子は妙なはしゃぎ方をしているコーイチを困ったような顔で見つめた。「コーイチさん、特撮戦隊ものと勘違いしていませんか?」
「・・・すみません・・・」
小さくなったコーイチだった。洋子は大きな深呼吸をして、話を続けた。
「数十年前、たまたま大掃除をした地下倉庫の古びた金庫に、数葉の手紙と共に入っていたのが見つかりました」
「手紙・・・」
「そうなんです」
「で、内容は?」
「消しゴムと鉛筆とに関するものでした」洋子は目を閉じ、手紙の内容を思い出していた。「『消しゴムは書いた者を消し去り、鉛筆は書かれた者を呼び戻す』みたいな内容です。後は、この二品を邪悪な者の手から守るようにと言うものでした」
「・・・」コーイチは腕を組んで天井を見上げた。「そりゃあ、すごい話だね。・・・まるで、どこかの映画みたいだ」
「信じていないんですね」洋子はじろりとコーイチをにらんだ。「だから、話したくなかったんです!」
「・・・すみません・・・」
コーイチはさらに小さくなった。
「でも、信じがたいですよね」洋子は言った。・・・なんだ、やっぱりそう思うんじゃないか。ちょっと不満なコーイチだった。「そこで、この手紙の内容と消しゴムと鉛筆の謎解きが始まりました。まだ海外支社になる前の事だそうです」
「あのさ・・・」コーイチは不思議そうに言った。「社長は、その事を知っていて、そこを海外支社にしたのかい?」
「そうだと社長から直接お伺いしました」
「でも何でまた、そんな所をわざわざ・・・」
「面白そうだから、だそうです。そうおっしゃっていました」
「面白そう、ねえ・・・」・・・You、これ面白いから、海外支社にしちゃいなよ、って感じだろうなあ。コーイチは溜め息をついた。「ま、社長らしいのかな・・・」
「そして、通常業務とは別に、これらを守ると言う業務も加わったんです。万が一と言う事がありえるかもしれませんから」
「それで、『龍玉虎牙神王拳』の継承者の芳川さんが抜擢されたんだ。仕事もてきぱきこなすし、正にうってつけだね」コーイチは笑いながら言った。それから、ふと真顔に戻った。「・・・でも、どうして戻って来たんだい? それに、持っているのは消しゴムだけのようだけど・・・?」
「そうなんです、それが問題なんです」
洋子の顔が曇った。
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