お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

ジェシルと赤いゲート 62

2024年08月08日 | マスケード博士

 皆でぞろぞろと森を歩いている。柔らかな陽射しと澄んだ空気、鳥のさえずり、遠くから和解したベランデューヌとダームフェリアの民たちの笑い声が流れてくる。穏やかな中にあって、マーベラ、ジャンセン、トランの表情は暗く重かった。……マーベラたちのゲートは戻る事が出来るものなのかと言う疑問と不安、さらに、今回の五里霧中の真相……
 そんな中にあって、ジェシルだけは不敵な笑みを浮かべている。戻ったら真相を暴いて関係者たちをギッタンギッタンにグッチャングチャンにしてやろうと心に決めていたからだ。無意識に腰の熱線銃に手を伸ばす。宇宙パトロール捜査官に血が騒いで騒いで仕方がないと言った状態だった。
「……あそこです」
 しばらく歩いたのち、トランが言って前方を指差した。少し開けた場所に、ジェシルたちのと同じ赤いゲートが立っていた。
「ここはダームフェリアの土地だね」ジャンセンが言う。「ぼくたちのはベランデューヌの土地にあったから、やっぱり意図的なものが感じられるなぁ……」
「でも、マスケード博士が関係しているとは限らないわ」マーベラがジャンセンを睨み付けながら言う。「それに、今思ったんだけど、マスケード博士は考古学の人よ。最新の機械になんかに興味は待たないわ」
「なるほど……」
 ジャンセンは言うとトランと共にうなずいた。マーベラはほっとしたような、勝ち誇ったような顔をジェシルに向ける。
「たしかにそれは言える。博士は考古学が服を着ているような人だからねぇ」ジャンセンは言う。「もしこれが古代の機械であったなら、博士は自ら調査に赴くだろうね」
「そうですね」トランがうなずく。「やはり、何者かに脅されているんですよ!」
「……まあ、真相はまだ分からないけどね」
 ジェシルは三人の顔を眺めまわしながら言う。マーベラはむっとして目を細める。マーベラが文句を言おうとする前に、ジェシルはゲートへと進んだ。
「おい、ジェシル!」ジャンセンが慌てたように声をかける。「ずかずかと進むなよ! 小石か何かを抛った方が良いんじゃないか?」
 しかし、ジェシルはジャンセンの言葉を無視して、ゲートの前に立った。
 何の変化もない。
「やっぱりね。わたしたちのゲートは出口専用なんだわ……」
 ジェシルは言うとゲートをくぐり抜けてみせた。ジェシルは抜けた先から三人に振り返る。三人とも呆気にとられている。ジェシルはにやにやしながら再びゲートをくぐり抜けて戻って来た。
「ジェシル……」ジャンセンが言う。「君は誰かが機能を止めたかもって言っていたじゃないか。それなのに、出口専用って……」
「ジャン」ジェシルはジャンセンを見る。「あなた、わたしがここで何か仕出かしたら、歴史が変わってしまうって注意してたわよね?」
「そうだよ。君が熱線銃を撃ちそうだったから危険だと思ったんだ」ジャンセンはマーベラとトランを見ながら言う。二人もうなずいている。「まあ、君はそんな事はしなかったんで、その点ではほっとしているよ……」
 褒められているのか貶されているのか良く分からず、不満を持ったジェシルだったが、トールメン部長に向かって熱線銃の最大値をぶっ放して消滅させることで気持ちを落ち着かせた。
「……歴史が変わってしまうって言うんなら、この時代の人たちにだって可能性があると思うのよ」
「どう言う事?」
「ゲートが入り口も兼ねているとしたら、うっかり入っちゃう人もいるかもしれないじゃない? 実際にあの子、ケルパムはすぐ傍にいたんだし」
「たしかにそうだったね」ジャンセンはうなずく。「マーベラたちも狩猟に来たダームフェリアの民と出会ったんだろう?」
「そうだったわ」マーベラがうなずいて、それからはっと気がついた表情になって、ジェシルを見る。「じゃあ、ゲートは前から立っていたって事?」
「どれくらい前かは分からないけど、そうだと思うわ」ジェシルは腕組みをする。「ここの人たちが先に見つけて、うっかりゲートを通ったとして、ゲートが機能していたらどこかへ転送されちゃうわけでしょ? 歴史が変わってしまうわ」
「そうですね!」トランが真剣な顔で言う。「それは大問題です! そもそもこんなゲートがある事が間違いです!」
「でもさ、ジェシル」ジャンセンが言う。「そこまで歴史に気を遣うって事は、やっぱり考古学界の何かが関わっているって考えていいんじゃないかな?」
「そうね。大っぴらには出来ない何かがあるようね……」
「なによ!」マーベラが声を荒げる。「マスケード博士が絡んでいるって言いたいわけ?」
「どれくらいの割合かは分からないけど、博士と言うか、考古学界が絡んでいるはずだわ」
「考古学会はマスケード博士そのものと言って良いと思います」トランが言う。「だから、博士の関与は否定しきれませんね……」
「トラン!」マーベラがトランを叱責する。「滅多な事を言うものじゃないわ!」
「でも、博士の指示の結果で今ここにこうして居るんじゃない」ジェシルが言う。「やっぱり何がしかの関与はあるわ」
「勝手に決めつけないで!」マーベラはジェシルに迫る。「あなたやトランの言っている事は憶測、妄想だわ! もし関与があっても、マスケード博士は危険な連中に脅されているだけなんだわ!」
「マーベラ……」ジェシルはため息をつく。「わたしたちの言い分と同じくらい、あなたの考えだって、憶測で妄想だと言えるわよ」

 

つづく



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