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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 18

2021年11月10日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
 朱音はスマホの時計を見た。それを横から覗きこんだしのぶは溜め息をついた。もうすぐ真夜中。学校の正門前だ。すぐそばの電信柱のうっすらとした街灯の灯りが、妙に淋しさを増す。朱音もしのぶもTシャツにジーンズ姿だ。
「さとみ先輩、来ないわね……」しのぶがつぶやく。「約束したのに」
「先輩は約束はしていないわよ」朱音が言い返す。「先輩のご両親が許してくれなかったのよ」
「でも、百合恵さんとか言う大人の人に頼んでみるって言っていたわ」
「その百合恵さんは忙しい人だとも言っていたじゃない。さとみ先輩の都合がつかなかったからって、文句を言うのは鈴違いだわ」
「それを言うなら、筋違いよ」
「そんな細かい事はどうでも良いじゃない!」
「……おいおい、大きな声を出すんじゃない」
 割って入ったのは松原先生だ。ポロシャツにスラックスだったが、女生徒にきゃあきゃあ言われそうな、三十代後半のなかなかの男前だった。しかし、その本質は数学とオカルト探求に向けられている。
「そろそろ時間になるけど、二年の綾部さとみって生徒は来るのかね?」
「来れたら来ると思います」朱音が答える。「確約では無かったので……」
「これじゃ、また階段の数を確認して終わりですね……」しのぶはつまらなさそうだ。「先輩がいたら、もっと色々と分かると思ったのになぁ……」
 と、どたどたと走って来る音がした。皆がそちらを見た。さとみが走って来たのだ。皆の前で立ち止まると、膝に手を突いて背を丸め、はあはあと乱れた息を整えている。
「……お待たせ。ちょっと、遅く、なっちゃった……」呼吸を整えて顔を上げる。「間に合って、良かったわ」
 途端に、皆が笑い出した。
「ちょっとぉ! 何が可笑しいのよう!」
 さとみはぷっと頬を膨らませる。
「だって、先輩……」しのぶが笑いながら言う。「その恰好、無二屋のポコちゃんじゃないですかあ!」
「先輩、可愛いっ!」朱音が言って地団太を踏む。「わあ、持って帰って部屋に飾りたいぃ!」
 ……わたしは娯楽提供者じゃないわよう! さとみはますます頬を膨らませる。
「まあ、来てくれて嬉しいよ……」気を取り直す様に咳払いをして、真顔になった松原先生が言う。「おおよその話は栗田しのぶから聞いているとは思うんだが……」
「で、先輩、何をしてたんですか?」
 落ち着いた朱音が割って入ってくる。
「ちょっと食事に付き合っていたのよ」
「食事……?」
「百合恵さんが夕食がまだだったからって、レストランに連れて行ってもらったのよ。なんだか居心地良くって長居しちゃったの」
「どこのレストランですか?」
「え~と、『デリッツィオーソ』って言ったかな? イタリア料理のお店だったわ」
「そこって、有名なお店ですよ!」朱音が驚く。「予約で向こう半年は埋まっているって……」
「そうなんだ。わたしは知らなかったわ。百合恵さんの知り合いが経営しているんだって」
「……百合恵さんって、どう言う人なんですか……」
「すぐにここに来てくれるわ。直接訊いたらいいと思う」
「おいおい、そんな話は後にしてだ……」
 先生は割り込んできた朱音に言いかけたまま口を半開きにしてさとみ越しに後方を見つめた。さとみが何事かと振り返ると、百合恵がこちらに歩いて来ていた。
「百合恵さん!」
 さとみは言うと、とことこと百合恵の方に進む。朱音も百合恵を見て口を半開きにしている。
「豆蔵がね、心配しているわ」百合恵が小声で言う。「何だか、いつもより邪気が強いらしいの……」
「邪気、ですか……」
「でもね、豆蔵もみつさんも来てくれるから大丈夫よ」
「……これはこれはこれは」松原先生が割って入って来た。何時の間にか、さとみのすぐ後ろに立っていた。にこにこしながら、百合恵をじろじろと眺めている。「綾部さんの…… お姉様? それとも、まさか、お母様?」
「まあ、おっほっほっほ!」百合恵が笑い出した。「面白い先生ですわねぇ。でもいけませんわ、教師が生徒の関係者に必要以上の好意をお持ちになるのは。それに彼女さんも居らっしゃるようだし……」
「え? あ、はあ……」松原先生は撃沈したようだ。そして、はっと気が付いたように顔を上げた。「どうして、そこまでボクの事を……?」
「百合恵さんは色々と分かるんです」さとみが言う。フォローにも何にもなっていない。「それに、百合恵さんは、わたしの…… ええと、なんて言ったらいいのかなぁ?」
「わたしは、さとみちゃんの友人よ」百合恵は言うとさとみを後ろから抱きしめた。首あたりに百合恵の両腕が当たっていて、ちょっと苦しいさとみだった。「そして、今夜の付添人」
「あなたが百合恵さんなんですね!」朱音が胸の前で両手を組んでぽうっとした顔をしている。しかし、瞳はきらきらとしている。憧れの人に出会った時のようだ。「……素敵ぃ……」
「あのう、そろそろ行きませんか?」しのぶが松原先生の陰から顔を覗かせた。「みんな揃ったんだし……」
「そうだな」松原先生が気を取り直したように言う。「では行こう」
 松原先生を先頭に、その隣にはしのぶ、少し間を開けて後ろに朱音と百合恵とさとみが団子になって続く。松原先生としのぶは、真剣な表情で話をしている。
「あの二人、何を話しているのかしら?」
 百合恵がつぶやく。
「きっと、北階段の事についてだと思います」うるるきらきらした瞳で百合恵を見ながら朱音が答える。「二人とも心霊モードに入ったみたいです……」
「あら、ありがとう」百合恵はにっこりと笑んで朱音を見る。「さとみちゃんから聞いたわ。北階段の事とお二人さんの事。あなたが朱音ちゃんね? 先生と一緒なのが、しのぶちゃん」
「そうです」朱音は夜目にも分かるくらい赤くなっている。「覚えてくれて、嬉しいです……」
「ほほほ……」百合恵は優しく笑うと、朱音の肩を抱いた。朱音はびくんと背筋を伸ばす。「あなたも可愛いわね……」
「はい、ありがとうございます……」朱音は消え入りそうな声で答える。「……わぁ、どうしよう……」
 さとみはそんなやり取りは眼中になかった。と言うのも、豆蔵とみつとが、さとみたちと並んで歩いていたからだ。二人は真剣な表情をしている。さとみは立ち止まった。百合恵は朱音を連れて先へと進む。朱音は百合恵をぽうっとした顔で見ていて、さとみに全く気付いていなかった。さとみは霊体を抜け出させた。

つづく

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