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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第一章 北階段の怪 26

2021年11月18日 | 霊感少女 さとみ 2 第一章 北階段の怪
「あれは、しのぶちゃんだわ」さとみが言う。「職員室に居てって言ったのに……」
「心配になって来ちゃったのよ」百合恵が階段の方を見ながら、意味深な笑みを浮かべる。「単なるオカルト娘ってだけじゃなさそうよね」
「でも、先輩の言いつけを守れないなんて」さとみはぷっと頬を膨らませる。「何かあったらどうするつもりなんだろう」
「まあ、結果的には危険も去ったし、良いんじゃない?」百合恵は笑む。「さあ、からだに戻らなきゃ」
「そうですね……」
 さとみが動こうとした時だ。
「きゃあぁぁぁ!」
 しのぶの悲鳴が響いた。百合恵が走り、さとみとみつと豆蔵が飛ぶ。
 百合恵が三階の階段口に立って見下ろし、懐中電灯で灯すと、しのぶが踊り場に座り込んでいるのが見えた。その横にはぽうっとした表情で立っているさとみがの生身がある。そのさとみの顔の前に黒い影が炎の様にちろちろと揺らめいている。懐中電灯の灯りに浮き出たその影は、周りの闇よりも遥かに濃い黒さで、くっきりと浮き出て見えた。しかも、その黒い影から邪悪な気配が溢れている。
「天誅!」
 みつが刀を振り上げ、百合恵の隣から跳躍し、影に向かって飛びかかった。
 みつの切っ先は影を縦に切り裂く動きをしたが、素通りした。みつは踊り場に転がった。みつは素早く立ち上がり二の太刀を真横に走らせた。しかし、それも虚しく空を斬るだけだった。影は何事も無かったかのようにそこにあった。
「この野郎め! 喰らいやがれっ!」
 豆蔵は懐から小石を二つ取り出し、石礫として素早く二発を撃った。石礫は影に命中した。が、豆蔵めがけて撃ち返されてきた。豆蔵は廊下に転がりながら、寸でのところでかわした。
「ちょっとぉ!」
 さとみは腰に手を当てて黒い影に文句を言う。影は変わらずにさとみの顔の前に漂っている。
「あなた何なのよう! どいてちょうだい!」
 影は、さとみの言葉に反応するように、ゆるゆると動き始めた。
「さとみ殿!」みつが叫ぶ。「こやつは強烈なの邪気を含んでおりますぞ! 安易に挑発をしてはなりませぬ!」
「そうですぜ、嬢様!」豆蔵も声を強める。「あっしの礫をおもちゃ扱いしやがった野郎は初めてですぜ!」
「分かっているけど、しのぶちゃんが心配で……」さとみは言う。「それに、わたしに用事があるんなら、話を聞いてあげなくちゃ」
「そんな優しい相手じゃなさそうよ、さとみちゃん……」百合恵は言うと、階段を一段下りて、さとみの前に立った。「あの影は長吉を操っていた張本人だわ……」
 影は階段をゆらゆらと揺れながら上って来る。
「てやあっ!」
 みつが裂帛の気合いと共に切っ先を影に突き入れた。切っ先が突き抜けて見えていた。途端にみつの眉間に縦皺が寄る。
「……ぬっ!」
 みつは刀を引こうとしたが、がっしりと握られているかのように動かない。突然、影は稲光のような光を発した。光に撃たれたみつは弾かれたように刀から手を離し、踊り場に倒れ込んだ。みつは苦しそうに唸って動けない。不意に影は上昇し始めた。天井近くに達した時、影は突き抜けた切っ先をみつに向けた。みつは悔しそうな表情で影と切っ先を見つめている。影はゆらゆらと揺れている。
「野郎!」
 豆蔵が新たに石礫を影に撃った。が、礫は先ほどと同様に豆蔵に向かって撃ち返された。豆蔵は十手で礫を弾き飛ばす。その間中、刀の切っ先はみつに向いたままだ。
「まずいわ……」百合恵がつぶやく。「あのままじゃ、みつさんは自分の刀にやられてしまう……」
「え?」さとみが驚いて百合恵を見る。「まさか……」
「刀をみつさんに向けて飛ばすつもりよ……」
「ダメぇ!」 
 さとみは叫ぶと階段を駈け下りた。
「あっ! さとみちゃん!」
 百合恵はさとみをつかもうと手を伸ばす。しかし、霊体に触れる事は出来ない。百合恵の手をすり抜けるようにして、さとみは走る。
 踊り場に着くと、みつの前に立って両腕を広げ、天井近くに漂う影を睨みつけた。
「ダメよ! 絶対にダメ!」さとみは声を荒げる。「ここから出て行って! ここは学校よ! 昔はどうだったのかは知らないけど、今は平和な場所なのよ!」
 影は切っ先を向けたまま揺れるのをやめた。このまま刀を撃ち出せば、さとみを貫く事になるだろう。
「さとみ殿……」苦しそうにみつが言う。「そこをどかれよ……」
「ダメよ!」さとみがみつに振り返る。その目から涙が溢れる。「そんな事できないわ! それに、そんな事をしたら……」
「わたしは霊体。さとみ殿はまだ生身がある」みつが力なく笑む。「消えても困らぬのは、わたしです」
「みつさん! そんな事を言っちゃあダメですってばぁ!」さとみは叫ぶと、影を見上げた。「さあ、やりなさいよ! 絶対にみつさんを守って見せるわ!」
 さとみは涙を拭うと影を睨みつける。


つづく

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