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ジェシル 危機一発! ㊵

2019年12月23日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 目の眩む閃光、耐え難い爆風、天と地が入れ替わったような回転、全身に走る激しい痛み。何が起こったのか分からぬまま、とにかくそこから抜け出すことだけしか考えられなかった。まともに動かないからだを引き摺るようにして、抜け出そうとする。背後から熱風が襲ってきた。熱風は炎を伴っていた。……早く抜け出さなきゃ焼かれる! 気持ちとは裏腹にからだは縛りつけられたように動かない。炎が迫る。爪先が熱い。
「うわっ!」
 ジェシルは叫ぶと、上半身を跳ね起こした。
 先ず耳に入ってきたのは、ざわざわと人の話す声、忙しなく行き交う靴音、規則正しく鳴り続けるアラーム音。
 次には、眩しいほどの光が目に刺さる。それに慣れじっと正面を見つめる。何か嫌なものがいる。さらに目が慣れてくると、その嫌なものはトールメン部長の無表情な顔だった。
「ジェシル、気がついたか……」横から声がする。振り向くと、憔悴しきったビョンドル統括管理官がいた。「まずは一安心だな……」
「……ここは……?」
「パトロール専属の病院だ」答えたのはトールメン部長だった。相変わらず声に抑揚がない。「カルースの車が爆発し、二人ともここに運ばれたのだ。二日前の事だ」
 そうだった! ジェシルは思い出した。家に送ると言ったカルースの車に、あの趣味の悪い車に、乗ろうとした時に車が爆発した! ジェシルが覚えているのはそこまでだった。その後、病院に運ばれ、病室のベッドで寝ていたのだろう。
「うなされてはいたようだが、大丈夫そうだな」トールメン部長はつまらなさそうに言う。「爆発した際、カルースがとっさに君をかばったおかげで、君はそれほど深手は負わなかったようだ」
「カルース……」ジェシルはつぶやいた後、大きく目を見開いた。「じゃ、カルースは? まさか、カルース……」
「オレなら、ここだよ」
 いつものカルースの低い声が聞こえた。それから病室のドアが開き、いつもと変わらない姿のカルースがにやにやしながら入ってきた。手にしているのは「ゼードの店」と印刷された紙袋だった。ジェシルの好物のベルザの実のパイの香りが病室を包む。
「あら、ゼードの店のベルザの実のパイじゃない!」
「おいおい、ジェシル。オレよりパイの方が気になるのかい?」
「だって、仕方ないじゃない。……でも、カルース、あなたはちっとも怪我をしてないじゃない! わたしをかばったんじゃなくて、本当はわたしを楯にしたんでしょ?」
「ひどい事言うなあ。運ばれてきた時はズタズタのボロボロだったんだぜ」
「嘘よ! 何ともなってないじゃない!」
「あ、知らなかったっけ? オレって生まれつき治りが早いんだよ。死にかけるような怪我でも次の日には直っているんだ。人呼んで『不死身のカルース』ってんだ。覚えておきな」 
「もう忘れたわ!」
「ジェシル、それだけ軽口が叩けるのなら、回復も近いだろう」ビョンドル統括管理官が割って入る。「わたしとしても、君の親戚筋に良い報告が出来そうでほっとしている」
「ジェシル、お前さんがここに担ぎ込まれたって知ったお前さんの一族が、そりゃあ大騒ぎをしたんだぜ」カルースが楽しそうに言う。「タルメリックって言う大評議員が、『ジェシルにもしもの事があったら宇宙パトロールを解散させる!』って息巻いちゃってさ、その他、あちこちのお前さんの親戚筋の大物が似たようなことを言ってね、それに耐えかねて宇宙パトロールの最高司令官が辞任したんだ。後任は、このままだとビョンドル……」
「カルース!」ビョンドル統括管理官が咳払いをする。「その話はこの件とは関係のないことだ。……とにかく、カルースの車の爆破の件が重要だ」
「もちろん、出勤する時には爆弾なんてありませんでしたよ」カルースが答える。「それに、ジェシルを車に乗せようなんて、朝の時点で考えもしてなかったですからね」
「そうだな。ジェシルが戻って来ると言うのも、その日まで誰も知らなかったことだしな」
「部長はイヤな顔してましたけどね……」ジェシルはここぞとばかりにトールメン部長を見ながら嫌味を言う。「忘れ物を取り来たのかって言ってました」
 ビョンドル統括管理官がじろりとトールメン部長を睨むが、トールメン部長は表情を変えない。……何だ、つまらない! 泣き叫んで弁解するのかと思っていたジェシルは白けてしまった。
「ところで、カルース」ジェシルはカルースに向き直って言う。「車に乗り込む前に、違和感があるって言ってたじゃない?」
「そうなんだよね。何か感じたんだよ。そうしたら、ボン! だった」
「じゃあ、直前に仕掛けられたのかしら……」
「う~ん、どうなんだろうな。……でも、そう考えるしかないよなあ」
「わたしたちの様子をどこからか見ていて、タイミングよく仕掛けたのかしらね?」
「そうだな。でも、薄気味悪いよなあ。あの薄暗い駐車場のどこかに潜んでいたのかな」
「潜んでいたのは、クェーガー……」
「だとしたら、どこから潜り込んだんだろうね」
「やっぱり、内部に手引きしたヤツがいるのよ」 
「そうなるか…… セキュリティを掻い潜って手引きできるとなると……」
「そうよ」ジェシルはビョンドル統括管理官を見た。「パトロール上層部の誰かさんだわ」


つづく

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