影の赤い縁取りが揺れる。
次にどう出て来るのかと、みつと冨美代は険しい表情で身構える。さとみもじっと影を見つめる。豆蔵と虎之助が影によって消されてしまった。これ以上の犠牲は出したくはない。しかし、みつの冨美代も自分を賭してさとみを守ろうとしている。……おばあちゃん、みんなを守って! さとみは心からそう願う。
「むっ!」
声がした。片岡だった。楯や額だけではなく、それらを飾ってあった壁際にある重々しいキャビネットが不安定に揺れながらで浮き上がり始めていた。
「片岡さん!」さとみは叫ぶ。「このままだと片岡さんが危ないです! 逃げて下さい!」
「そうは行きませんよ」片岡は相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、霊体のさとみを見る。「わたしが逃げると、さとみさんの生身がどうなってしまうか」
「その時はその時です!」さとみはきっぱりと言う。「今は片岡さんが心配です!」
「さとみさん、そんな事を言っていられませんよ……」
片岡は両手を伸ばして飛んで来た楯や額を食い止めていたたままなので、顎で前を見るようにとさとみに示した。
さとみが正面を見ると、揺れていた影の動きが止まっていた。みつと冨美代が身構え、影を見据えている。
「さとみ殿、動いてはなりませんぞ!」みつが背中越しに言う。「動けば、さとみ殿が狙われる!」
「左様ですわ!」冨美代も背中越しに言う。「さとみ様は最後にして最大の要でございます! 倒れて頂くわけには参りませんわ!」
「でも……」
「さとみさん」片岡が言う。「皆の想い、無駄にしてはいけませんよ」
キャビネットがさらに浮き上がり、ゆっくりと片岡の方へと迫ってくる。動きの止まった影全体が青白く光り始める。
皆は最後の攻撃だと察し、険しい表情になる。
「おばあちゃん!」さとみは天井を見上げて叫ぶ。「助けて! みんなを助けて!」
キャビネットが片岡に向かって勢いを増した。影から青白く強い光が放たれた。
「おばあちゃん!」さとみは叫ぶ。「助けてよう!」
不意に周囲が金色に輝いた。時が止まったようにさとみには感じられた。
「さとちゃん……」祖母の富の声が聞こえた。さとみは周囲を見回す。しかし、眩しいほどに輝く金色の光で何も見えない。「自分自身を光らせなさい。さとちゃんにはそれが出来るって言ったでしょ?」
「でも、でも……」さとみは祖母の富を探す。しかし、眩しすぎて見つけられない。「おばあちゃんがいないと……」
「言ったでしょ? いつも見守っているって。今はね、さとちゃんのひいおばあちゃんも、ひいひいおばあちゃんも一緒に見守っているわ」
「本当?」
「おばあちゃん、嘘つかない。……あ、ひいおばあちゃんもひいひいおばあちゃんもだってさ」
冨は言うとくすくすと笑う。こんな緊迫した中なのに、さとみの心は穏やかになって行った。
「さとちゃん……」冨の声は優しい。「ちょっと前までだったら、影に対して良い線行けるくらいだったけど、今は、充分立ち向かえるわよ」
「そんな事言われたって、出来る気がしないわよう……」
「自信を持ちなさい! それに、さとちゃんが出来なかったら、誰も出来ないんだよ!」
「そうだぞ、さとみ!」
「お前ならやれる!」
聞いた事の無い二人の年配女性の声がした。
「これって…… ひいばあちゃんとひいひいおばあちゃん?」
「そうだよ、さとちゃん」冨の声がする。「だから、自信を持つんだよ」
周囲の金色が無くなり、キャビネットは片岡に飛び掛かり、青白い光はみつの冨美代に放たれると言う、再び危機的な状況に戻っていた。しかし、それらはスローモーションのようにゆっくりと動いているようにさとみには見えていた。まだみんなを助けられる! さとみは思った。
と、さとみの全身から金色の光が炎のように立ち上った。
つづく
作者呟き:「ああ、明日から仕事かぁ……」と鬱々してしまう俗称を「サザエさん症候群」と言うそうです。サザエさんを観終わると待っているのは仕事の一週間って言う事のようですね。因みに、10年くらい前のアルバムを見ながら団らんしているシーンがったんですが、その頃と今とが変わっていない。「あ~ら、ごめんなさいね、マンガですから」と言う言い訳を視聴者に顔を向けたサザエさんが言った回がありました。サザエさんたちは変わらないのに、観ているこっちはすっかり変わっちまいましたねぇ。
次にどう出て来るのかと、みつと冨美代は険しい表情で身構える。さとみもじっと影を見つめる。豆蔵と虎之助が影によって消されてしまった。これ以上の犠牲は出したくはない。しかし、みつの冨美代も自分を賭してさとみを守ろうとしている。……おばあちゃん、みんなを守って! さとみは心からそう願う。
「むっ!」
声がした。片岡だった。楯や額だけではなく、それらを飾ってあった壁際にある重々しいキャビネットが不安定に揺れながらで浮き上がり始めていた。
「片岡さん!」さとみは叫ぶ。「このままだと片岡さんが危ないです! 逃げて下さい!」
「そうは行きませんよ」片岡は相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、霊体のさとみを見る。「わたしが逃げると、さとみさんの生身がどうなってしまうか」
「その時はその時です!」さとみはきっぱりと言う。「今は片岡さんが心配です!」
「さとみさん、そんな事を言っていられませんよ……」
片岡は両手を伸ばして飛んで来た楯や額を食い止めていたたままなので、顎で前を見るようにとさとみに示した。
さとみが正面を見ると、揺れていた影の動きが止まっていた。みつと冨美代が身構え、影を見据えている。
「さとみ殿、動いてはなりませんぞ!」みつが背中越しに言う。「動けば、さとみ殿が狙われる!」
「左様ですわ!」冨美代も背中越しに言う。「さとみ様は最後にして最大の要でございます! 倒れて頂くわけには参りませんわ!」
「でも……」
「さとみさん」片岡が言う。「皆の想い、無駄にしてはいけませんよ」
キャビネットがさらに浮き上がり、ゆっくりと片岡の方へと迫ってくる。動きの止まった影全体が青白く光り始める。
皆は最後の攻撃だと察し、険しい表情になる。
「おばあちゃん!」さとみは天井を見上げて叫ぶ。「助けて! みんなを助けて!」
キャビネットが片岡に向かって勢いを増した。影から青白く強い光が放たれた。
「おばあちゃん!」さとみは叫ぶ。「助けてよう!」
不意に周囲が金色に輝いた。時が止まったようにさとみには感じられた。
「さとちゃん……」祖母の富の声が聞こえた。さとみは周囲を見回す。しかし、眩しいほどに輝く金色の光で何も見えない。「自分自身を光らせなさい。さとちゃんにはそれが出来るって言ったでしょ?」
「でも、でも……」さとみは祖母の富を探す。しかし、眩しすぎて見つけられない。「おばあちゃんがいないと……」
「言ったでしょ? いつも見守っているって。今はね、さとちゃんのひいおばあちゃんも、ひいひいおばあちゃんも一緒に見守っているわ」
「本当?」
「おばあちゃん、嘘つかない。……あ、ひいおばあちゃんもひいひいおばあちゃんもだってさ」
冨は言うとくすくすと笑う。こんな緊迫した中なのに、さとみの心は穏やかになって行った。
「さとちゃん……」冨の声は優しい。「ちょっと前までだったら、影に対して良い線行けるくらいだったけど、今は、充分立ち向かえるわよ」
「そんな事言われたって、出来る気がしないわよう……」
「自信を持ちなさい! それに、さとちゃんが出来なかったら、誰も出来ないんだよ!」
「そうだぞ、さとみ!」
「お前ならやれる!」
聞いた事の無い二人の年配女性の声がした。
「これって…… ひいばあちゃんとひいひいおばあちゃん?」
「そうだよ、さとちゃん」冨の声がする。「だから、自信を持つんだよ」
周囲の金色が無くなり、キャビネットは片岡に飛び掛かり、青白い光はみつの冨美代に放たれると言う、再び危機的な状況に戻っていた。しかし、それらはスローモーションのようにゆっくりと動いているようにさとみには見えていた。まだみんなを助けられる! さとみは思った。
と、さとみの全身から金色の光が炎のように立ち上った。
つづく
作者呟き:「ああ、明日から仕事かぁ……」と鬱々してしまう俗称を「サザエさん症候群」と言うそうです。サザエさんを観終わると待っているのは仕事の一週間って言う事のようですね。因みに、10年くらい前のアルバムを見ながら団らんしているシーンがったんですが、その頃と今とが変わっていない。「あ~ら、ごめんなさいね、マンガですから」と言う言い訳を視聴者に顔を向けたサザエさんが言った回がありました。サザエさんたちは変わらないのに、観ているこっちはすっかり変わっちまいましたねぇ。
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