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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 27

2022年05月11日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
 現われたのは、痩せた長身の老人だった。ぶかぶかの紺色のダブルのスーツを着込み、広い額に肩まで伸びた白髪、青白い細面に存在感を示す鷲鼻、鋭い眼光を少しでも弱めようと言うのか、青みがかった薄い色のサングラスをしている。そして、後ろには助手なのか、同じようなスーツを着た若い男性が付いている。
「これは、これは、片岡先生ぃ!」谷山先生は片岡に小走りで駈け寄り、何度も頭を下げている。「急なお呼び出しにもかかわらず、良くいらして下さいましたわぁ!」
「ああ、いえいえ……」片岡は笑顔で応える。太くて優しい声だ。「ちょうど時間もありましてな……」
「……ふん!」アイは谷山先生の様子を見ながら小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。「何なんだよ、あの媚び媚びな態度はよう! あんな爺いによう!」
「でもアイ先輩……」しのぶが「心霊モード」のままのきらきらした瞳で言う。「あの人、とっても雰囲気がありますよ。いかにも霊媒師、霊能力者って感じです」
「そうです」朱音も加わる。「あの雰囲気だと、きっと名のある霊媒師さんですよ」
「見かけ倒しって事もあるんじゃねぇか?」アイは言う。「わたしは、そんな連中を何人も見ているからさ。いかにも強そうに見えて、実際は弱過ぎってヤツをさ」
「それは、アイ先輩が強過ぎるからです!」朱音が言う。「アイ先輩が相手じゃ、みんな弱過ぎ君ですよ」
「にしても、何だか気に入らねぇなぁ……」
 アイの視線に気がついたのか、片岡はアイを見た。優しい笑顔をアイに向ける。アイはあわててそっぽを向いた。片岡はそのまま、さとみを見る。片岡の表情から笑みが消えた。まだ喋っている谷山先生に「ちょっと失礼」と言って脇を通り抜け、真っ直ぐさとみに向かって歩いて来る。アイがそれに気付き、険しい表情でさとみの前に立ち、片岡と向き合った。
「え? 何? どうしたの?」さとみはアイの様子に戸惑う。「アイ、そんな怖い顔をしちゃって?」
「……この爺ぃ、会長を見ています」アイが言うと、近付く片岡に向かって声を荒げる。「おい、会長に何の用だ?」
「まあ! 何と言う口の利き方ぁ!」谷山先生は叫ぶと、アイに向かって駈けて来る。そして、アイの左腕をつかんだ。「あなた、なんて事を言うのぉ! 片山先生にお謝りなさいぃぃぃ!」
「離せよ! うるせぇなぁ!」アイは谷山先生の腕を振りほどき、谷山先生と片岡を交互に睨みつける。「それよりも、この爺ぃ、会長に向かって真っ直ぐ来やがったんだぜ! そっちの方が問題だろうが!」
「まあまあ、アイちゃん……」百合恵が笑みを浮かべながらアイの肩を抱く。「このおじいちゃん(「何て言い草ぁ!」と谷山先生は叫び、百合恵を睨みつける)は、さとみちゃんに危害を加えるような事はないわよ」
「でも、真っ直ぐ会長の所に……」
「それはね、さとみちゃんに感じたからよ。霊のね……」百合恵は言うと、笑んだままの顔を片岡に向けた。「ね? そうでしょ?」
「ははは……」片岡は優しく笑い、百合恵を見る。「……あなたも中々なものですね」
「あら、それって褒め言葉ですの?」
「そう取って頂いて結構ですよ」
「まあ、嬉しい事」百合恵は言いながら、片岡を見る。「……あなたは本物のようですわね。でも……」
「分かっていますよ」片岡は手を上げて百合恵の言葉を止める。「校長室からあふれ出し来るこの邪悪な気は、わたしの知る限り、強力な部類のものです。いや、最強かも知れません」
「だったら、ご無理をなさらない方が宜しいんじゃないかしら?」
「わたし一人ならば、無理でしょうが……」片岡はさとみを見る。「こちらのお嬢さんとなら、何とかなるかもしれません」
「え? わたし?」さとみは驚いた顔で、自分で自分を指差した。「わたしの事、分かるんですか?」
「ええ、分かりますよ」
「片岡先生ぃ!」谷山先生がきんきん声で割って入る。「先生をお呼びしたのはわたくしですわぁ! わたくしを蚊帳の外にしないでもらいたいですわねぇ!」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ」片岡は谷山先生に笑みを見せる。「今日、ここに呼んでいただけたこと、感謝しています」
「あら、そうでしたら、宜しんですのよぉ……」
 アイは朱音としのぶと顔を合わせる。「何でぇ、このおばさん」とアイの唇が動き、「そうですよねぇ」と二人の唇が動く。
「それにしても、お嬢さん……」片岡はさとみに言う。「この辺り、かなり邪悪な霊がたむろしていますねぇ」
「あ、わたし、綾部って言います。綾部さとみです」さとみは言うとぺこりと頭を下げた。「あの、片岡……先生にも、分かりますか?」
「ははは、先生だなんて、やめてください」片岡は笑う。「こちらの谷山さんには再三言っているのですが、先生呼びをやめてくれなくてねぇ……」
「まあ!」谷山先生は顔を真っ赤にする。「でもぉ、わたくし尊敬しておりましてよぉ! ですから、尊敬する方を先生とお呼びしているんですわぁ!」
「じゃあ、尊敬していないから、谷山さんか谷山で良いのか?」アイが横やりを入れる。余程谷山が嫌いなようだ。「じゃあ、これからは尊敬できないヤツは、そう呼ばせてもらう。構わねぇんだろ? 谷山さんに坂本さん!」
 坂本教頭と谷山先生はぎろりと睨みつけてくる。アイはその様子に笑い出す。朱音としのぶも釣られる。松原先生は苦笑している。百合恵は楽しそうだ。基本、百合恵は人のごたごたを見るのが好きなのだ。
「どうしますか、綾部さん?」片岡は周りの喧騒を全く気にせずにさとみに訊く。「すぐに行きますか?」
「あの…… さとみって呼んで下さい。みんなそう呼んでますから。……片岡さん……」
 さとみは言って、片岡を見る。片岡は笑みを浮かべたままうなずいた。
「分かりました、さとみさん」片岡は言うと、さとみをじっと見つめる。「あなたには、強力な方が守っておいでなんですね。おばあ様ですか?」
「はい! わたし、おばあちゃんにいろいろ教わったんです。そして、今も見守ってくれています!」
「それは心強い事です」
「それで、あの……」さとみは顔を曇らせる。「この学校に影のような凶悪な霊がいるんです。知り合いの霊体の豆蔵が言うには、それが力を付けようとしているか、もっと強力で凶悪な怨霊を目覚めさせようとしているか、そのどちらかじゃないかって……」
「ほう、そこまで分かっているのですか」片岡は目を丸くする。「どちらにしても、まだ途中のようですから、今の内なら封じ込めるでしょう」
「わたし、封じ込めなんてした事無いですけど……」
「あの世へ逝ってほしいって願うのと同じですよ」
「そうですか。じゃあ、分かります」
「ははは、さとみさんはわたし以上に強力ですね」
「そんな事ありませんよう!」突然褒められ、さとみは顔を真っ赤にした。「……じゃあ、行きますか?」
「そうですね」
 二人は校長室のドアの前に立った。


つづく

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