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ジェシル、ボディガードになる 151

2021年06月27日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルはムハンマイドとハービィの作業を地面に座り込んで見上げていた。
 最初こそ、立ったままで周囲を警戒していたのだが、時間が経っても何も起こらないので、すっかり緊張感が無くなってしまった。いつの間にか座り込み、たまに大きく伸びをし、手にしている熱線銃の銃身を握って、銃のグリップの部分で肩をとんとんと叩いていた。そして、ついには、ごろりと仰向けにの転がってしまった。
 寝転がったまま、作業を続ける二人を見上げている。
「……ねぇ、ムハンマイド!」ジェシルは忙しそうに作業を続けているムハンマイドに、呑気そうな声をかける。「ちょっと訊きたいんだけどさ……」
 しかし、ムハンマイドは答えない。いや、ジェシルの存在を忘れてでもいるかのように作業に没頭している。それがジェシルには面白くなかった。
「ねえ! ムハンマイドってばぁ!」
「……何だよ!」ムハンマイドは面倒くさそうにジェシルを見下ろす。「ボクたちが必死に作業しているのに、君は寝転がっているのかよ! ボディガードはどうなっているんだ?」
「あのさあ」ジェシルはムハンマイドの文句を無視して話をする。「どうして、この星には、花とか虫とか動物とか居ないの?」
「何だよ、そんな事かよ!」ムハンマイドはうんざりする。「言っただろう? この星はボクのもので、ボクが生活しやすいように改良したってさ。ボクに必要なのは静かに研究だ出来る環境だ。それ以外は必要ない」
「でも、それじゃ憩いも慰めも無いじゃない?」
「それは必要なものなのか? ボクは、研究が出来れば、それが憩いと慰めになるんだ」ムハンマイドは言うと、宇宙船をぽんと叩いた。「こいつも、ボクにとっては邪魔でしかない。もちろん、君たちもだ。だから、早いところ終わらせて、いつもの生活に、いつもの環境に戻りたいのだよ」
「あなたって、変人だわ」ジェシルは言うと、ムハンマイドを見上げたまま立ち上がる。「こんな何も無いのが良いななんて、どうかしているわ!」
「何でもかんでも君基準じゃないんだよ! 分かったら、ちゃんとボディガードしていろよ! ボクに何かあったら困るんだろう?」
 ジェシルはぷっと頬を膨らませてムハンマイドを睨む。それから、思い出したように制服の前ファスナーを少し下げ、胸の内ポケットから携帯電話を取り出した。
「何をするつもりだ?」ムハンマイドが呆れたように言う。「通信は出来ないんだぞ」
「でも、この星に来た時、わたしはミュウミュウの件で叔父に電話したわ。と言う事は、通信の入り切りは、あなたがやっているんでしょ?」
「そうだけどさ。でもね、下手をすると通信の電波でこの星の事が知られてしまう」そこまで言って、ムハンマイドは、はっとする。「そうだ! あの電話の件で、シンジケートにこの星の事を知られてしまったんだ! あの後、通信を全て遮断したんだけど、遅かったんだ……」
「何よ! わたしのせいだって言うつもりなの? もともと通信を切っておかなかったあなたのミスじゃない!」そこまで言ってジェシルもはっとする。「あなただって、わたしたちが着陸する前に宇宙船に通信してきたじゃない? それでこの星の事が知られちゃったのよ! わたしのせいじゃなくて、あなたのせいじゃない!」
「いいや、ボクの通信は短いものだった。だから、場所は特定はされない。つまり、ボクの通信が原因ではない。そうであれば、君が長々と電話をしていたせいだ」
「じゃあ、どうして、最初から通信を遮断しなかったのよ?」
「そんな事をしたら、君たちの宇宙船とも通信が出来ないじゃないか? それくらいも分からないのか?」
「じゃあ、電話している時に、電話を止めろとか言ってくれれば良かったじゃない!」
「その時に、殺し屋が来るなんて思わなかっただろう!」
「何を言っているのよ! それじゃ、あの時ああしておけばこうならなかったって言う、三文評論家が得意な結果論じゃない!」
「とにかく、君の責任だ!」
 地上と空中で二人は睨み合う。そこへ、ぎぎぎと音を立てながら、ハービィが睨み合う二人の間に入って来た。音を立てながらムハンマイドとジェシルを交互に見た。
「ムハンマイド」ハービィが顔をムハンマイドに向けて言う。「宇宙船はすでにシンジケートに知られている。だから、宇宙船との往来の出来る異次元空間があれば、どこにでも付いて来れるのではないかと思う。それに、わがはいたちの作戦は何故かシンジケートに知られている。それを考えても、宇宙船自体が見張られていると言えるのではないかと思う。通信がどうとかでは無い可能性の方が大きい。メンバーがそろったので、シンジケートが行動に出たのではないのだろうか?」
「ほうら、どうよ、ムハンマイド!」ジェシルが胸を張る。「違うって言うんなら、反論しなさいよ!」
「でも、それは可能性の一つだ!」
「可能性大な可能性よ! わたしのせいって決めつけられなくなったわね!」
「ふん! ……とにかく通信は永遠に遮断だ!」
 ムハンマイドは言うと、作業に戻った。
「ハービィ、ありがとう……」
 ジェシルの言葉に、ハービィは音を立てて頭を向ける。ジェシルは笑顔をハービィに向けている。
「助かったわ。変な誤解を受けなくて」
「わがはいは、ジェシルを守るのだ」
「おい、ハービィ! メルスマドライバーを出してくれ!」ムハンマイドが言う。「早く修理を終わらせるんだろう? ジェシルなんかと話をしている無駄な時間は無いんだ!」
「かしこまりましてございますです」
 ハービィはムハンマイドの元へと移って行った。
 ジェシルは見えない蹴りと突きとをムハンマイドにぶち込んでいた。ふらふらになって身動きのできなくなったムハンマイドに無情の笑みを浮かべながら、出力を最大にしたメルカトール熱線銃の銃口をムハンマイドの額の真ん中に向け、指を引き金に掛け、ゆっくりと引き絞り始めた時、ミュウミュウが格納庫から走り出てきた。
「ジェシルさん!」ミュウミュウの表情は強張っている。震える指で格納庫の方を差した。「オーランド・ゼムさんが……」
「どうしたの?」ジェシルは空想を止め、倒れそうになったミュウミュウを支えた。「まさか、出たの?」
「はい……」ミュウミュウは弱々しい声で言う。「リタ様のいらした部屋へ行きましたら、例の殺し屋が現れて……」


つづく

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