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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 2

2022年05月25日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 信吾は階段を駈け下りた。何だか「ヤバいもの」と接したと感じ、一刻も早くそこを離れたかったからだ。
 屋上からの階段を下り、最初の踊り場を回った所で、信吾は人とぶつかった。
「うわあっ!」
 ぶつかった信吾は声を上げ、弾き飛ばされた勢いで階段に座り込んでしまった。
「てめぇ……」
 相手が低い声で怒りを表わしている。相手は倒れなかったようだ。信吾は顔を上げた。
「……アイじゃねぇか……」
 信吾はつぶやく。
 信吾がぶつかったのはアイだった。階段に座り込んでいる信吾を仁王立ちで睨み付けている。
「おい、信吾! どう言うつもりだ! 危ねぇじゃねぇか!」
 アイと信吾は顔見知りだった。二人は百合恵のレストランでアルバイトをしていた。アイはホールでの接客係で、信吾は厨房スタッフだった。学校と学年が一緒と言う事で、休憩時間に少し話をするようになっていた。アイは不良との評判が高かったのだが、話してみるとそうでもない。見た目もスタイルの良い美人だし(レストランではアイ目当ての客もいるらしい)、信吾は何となく脈ありな気がしていた。
 しかし、目の前のアイを見ると、間違いだったと思い知らされる。ふと、さゆりが「失せろ!」と一喝した時の顔を思い出した。
「……どう言うつもりって、お前こそ、どうしてここへ?」
 信吾は言って立ち上がる。
「ふん! 女にぶつかってこけるような軟弱男に教える義理はねぇよ」
 アイは信吾を睨みつけたまま悪態をつく。レストランではここまでの様子を見せた事がないので、信吾はやはり不良娘なんだと思う半面、妙に新鮮に思っていた。
「何を呆けた面してんだよ!」アイが信吾を叱る。叱られるのも悪くないかも。信吾は思っていた。「ぶつかって来たくせに、詫びの一言もねぇのかよ?」
「あ、ああ……」信吾は我に返った。「すまなかった。実はさ、屋上で変な事があってさ……」
「変な事?」
「ああ、そうなんだ。それで薄気味悪くなってさ、逃げ出したってわけ」
「何だよ、情けねぇ男だな!」
 アイは言うと、階段を上る。信吾はアイの腕をつかむ。アイは足を止め、信吾に振り返る。
「おい、今言っただろう? なんだか変でヤバそうな雰囲気だったんだよ!」
「ふん!」アイは腕を振って、信吾の手を離した。「わたしはこれから屋上でさぼろうって決めてきたんだよ。今さら変更は出来ないのさ」
「やめとけって!」信吾は必死だ。「オレもヤバかったんだからさ」
「何があったんだよ?」
「何だか分かんないけどさ、着物を着たすんげぇ美人がいてさ、それが消えたんだ」
「はあ?」アイは呆れた顔になる。「何言ってんのか、さっぱり分からねぇな。国語力が無いんじゃねぇ?」
「いや、だから、着物美人が現われて、消えたんだよ」
「夢でも見たんだろ?」
「夢じゃない!」信吾は真顔になる。「ベンチに並んで座ったんだぞ!」
「そうかい……」アイはうんざりした顔をする。「じゃ、そう言う事で良いや。わたしは日光浴をしに行く」
 アイは階段を上り始める。信吾は再びアイの腕をつかむ。そして、頭を左右に振り続ける。
「ダメだって! あれは幽霊みたいだったぞ」
「幽霊……?」アイの動きが止まった。朱音としのぶの影響か、アイも「心霊モード」になった。「詳しく訊かせろよ……」
「詳しくも何も、言った通りだよ。ベンチに寝転がってたら、いきなり冷たくてイヤな臭いのする風が吹いてさ、起き上がったらその着物美人がいた。名前をさゆりって言ってた」
「さゆり?」
「ああ。着物なんかを着ているって変だろ? 今考えれば、昔の女じゃないかと思うんだよな」
「見てすぐに気がつかなかったのかよ?」
「いやあ、すんごい美人でさ。いや、歳はオレたちくらいだから、美少女になるのかなぁ……」
「んな事は、どうでも良いよ! それで? どうしたんだ? 姿見せて消えておしまいか?」
「いや、それだけじゃない。オレに名前を聞いてたよ」
「はぁ? お前の名前を聞かれたのか? 鼻の下伸ばして『ボクは友川信吾です、よろしくお願いします』なんて言ったんだろ? お前、死ぬまでそいつに憑りつかれるぜ」
「いや、そうじゃない」ここまで言われたら、さすがに信吾もむっとする。「名前を聞かれたのはオレじゃない。……確か、綾部、さとみ、とか……」
 アイは信吾の腕を振り払うと階段を駈け上がり、踊り場を曲がって姿を消した。
「おい! アイ! どうしたんだよう! 今言ったじゃねぇか! 屋上はヤバいって!」
 出入り扉の軋む音がした。


つづく


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