お話

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怪談 化猫寺 2

2019年09月25日 | 怪談 化猫寺(全18話完結)
 仁吉は近所の物知りおじじに寺の事を聞いたことがあった。
「あの寺はのう、このじじいがガキの時分から在ってのう、その頃は御立派なご住職がござっしゃってのう、よく、わしらのような読み書きの出来ん者たちを集めて、お話をしてくださってのう、仏様のありがたいお話をして下さるんじゃが、それがとても分かりやすくてのう、とてもとてもありがたいご住職様じゃったのう……」
「で、おじじ。どうして猫がこの寺に棲みつくようになったんだ?」
「それはのう……」仁吉の問いにおじじが答える。「ある日の事、一匹の白猫がふらりと寺に現れてのう。その頃、病で苦しい思いをしていたご住職は、その猫を見て心易うなったようでのう、少しずつじゃが元気を取り戻されてのう……」
 回復した住職は、この猫は仏の使いと民たちに話し、その白猫を大事にした。また、その白猫も住職を気に入ったのか、どこかへふらりと出かけても必ず戻って来るようになった。そして寺に棲みつくようになった。
「……それでのう、その白猫をしろと呼んで、えらく可愛がってのう。ありゃ雌猫じゃったもんでのう、ここらのものは嫁さんを持てぬ仏道者の酔狂と笑っておったものじゃったのう……」
 住職は己が食わずとも、しろだけには食わせていた。しろは、住職が朝のお勤めを本堂でしている間中、本堂の縁側で腰を下ろして前足をぴんと伸ばした行儀の良さで、住職のお経を聞いているように見えた。
「……ありゃあ、絶対お経を分かっている顔だ、なんて言いだす者も居ってのう。穏やかな日々じゃったのう……」
 そんなある日、住職が亡くなった。
 突然の事だった。
 いつも以上に鳴くしろの声に、通りかかった者が気にして寺に入ってみると、本堂に住職が倒れていたのを見つけた。
「とは言え、そのお顔はとても穏やかでのう、さすが立派なご住職様、常日頃おっしゃっていた平常心を、最期の時までお持ちだったと皆で涙してのう……」
「で、おじじよう、しろはどうなったんだ?」
「ご住職が居らんくなっても、ずっとあの寺に居ったのう。わしらもはじめの頃は餌とか置いてやっていたがのう、いつのころからか、それもしなくなってしもうたのう…… たまに鳴く声が聞こえたが、皆も気にしなくなっていったかのう……」
「それじゃ、しろが可哀想だ!」
「じゃがのう、その頃は皆が皆、己が食うので精いっぱいだったでのう…… そんな頃からかのう、猫が少しずつ増えてのう……」
「なんで猫が増えるんだ? 餌もないのによう」
「……さあ、分からんのう。何故じゃろうのう」
 おじじはそこで話を終えた。
 寺の事は分かったが、猫が増えたわけは分からなかった。
 何か隠しているんじゃないか…… おじじの様子に、子供ながらも仁吉は思った。


つづく



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