お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

妖魔始末人 朧 妖介  60

2010年02月09日 | 朧 妖介(全87話完結)
 階段を駆け上がっている間も妖魔が飛び掛ってくる。しかし、妖介を包む白い揺らめきに触れると霧散した。妖介の後に続くエリは、次々と霧散して行く妖魔を呆れた顔で見ていた。
「妖魔って、一体何を考えているんだろうね!」黒い霧となった妖魔を払いながらエリが叫んだ。「自分から消されに飛び込んで来てるみたい!」
「興奮しきっているんだろう」妖介は立ち止まり、振り返った。犬歯を覗かせ、瞳が銀色に光っている。「クソどもに前後の事など考えられるわけが無い」
「・・・妖介も、興奮してるんじゃないの?」エリは妖介の瞳を見ながら言った。「瞳、光り過ぎ!」 妖介は立ち止まると振り返り、エリを見つめた。瞳がさらに銀色を増した。
「かもな・・・」
 妖介は再び階段を上がって行った。飛び掛ってくる妖魔が妖介にしがみつく。が、すぐに霧散する。エリは妖魔の黒い霧を両手で払いながら続く。
 通路に立った。妖魔どもが、葉子の部屋のドアの前まで通路にひしめき、生臭い臭いと粘着質な音と唸り声とを上げている。妖介は面倒臭そうな表情で、その中を歩く。妖介が触れた妖魔は、女のよがり声に似た悲鳴を上げて霧散した。
「クソども、馬鹿女の真似ををしてやがるぜ」
 妖魔は勝手に霧散し続けた。妖介も霧散させるに任せている。偶に妖介をかわした妖魔がエリに飛び掛かる。エリは三条鞭になった『斬鬼丸』の刀身を振り下ろし、妖魔を霧散させた。
「もう、いやんなっちゃうわ!」
 ドアの前に立つ。ドアの表面に渦巻いている靄が蠢き、一つの大きな靄となって渦巻き始めた。
「見てみろ、エリ」妖介は残忍な笑みを浮かべた。「クソどもが無い知恵を振り絞って、一致団結でもし始めたようだ」
 妖介は両腕を高く差し上げた。白い揺らめきが一際強くなった。そして、その両腕を靄に突っ込んだ。靄が不定形に歪み始めた。幾つもの呻きや悲鳴が入り混じって、靄から流れてきた。
「失せろ、クソども!」
 妖介は両腕を引き抜いた。靄が白く光りながら縮み始めた。一段と激しく光りった後、靄は消えた。ドアは普通の佇まいに戻リ、通路の妖魔の姿も無くなっていた。
 エリがドアノブに手を掛けて引いた。ノブは回るが、ドアは開かない。腰辺りまで左足を上げると、壁に靴底を宛がい、両手でドアノブ握り、足の反動と合わせて全力で引いた。が、びくともしない。幾度試しても変わらなかった。
「・・・ユウジの言ったとおり、開かないね・・・」肩で息をしながらエリはドアノブから手を放した。「これじゃ、お姉さんの様子も何も分からないわ」
「いや・・・」妖介は目を細めてドアを見た。「開かないわけじゃない・・・」
 妖介はドアノブを右手で軽く握った。全身を包む白い炎がさらに揺らめき立つ。そのまま腕をゆっくりと引く。ドアが開き始めた。
「なあんだ! 最初っからやってよねえ!」エリが不満そうな声を出す。「わたしがお馬鹿さんみたいじゃない!」
「そうだな」
 妖介は犬歯を覗かせ、エリを見た。
 ドアが開くごとに生臭い臭いが湧き出てくる。
「わっ、強力ねえ・・・」エリは鼻を押さえた。「どれだけ群れてんだろう・・・」
 ある程度開いたドアの隙間から、妖介が覗き込んだ。エリも肩越しに覗く。
 てらてらとした赤い瘤状のものが無数に見えた。うめき声や雄叫びや悲鳴が聞こえた。
「あれ? 部屋が消えてる・・・?」エリがつぶやく。「それにこれって・・・」
 突然、風が起こり、部屋の中へと妖介たちを引き込もうと荒れ狂った。
 妖介はエリを通路へ突き飛ばした。エリはそのまま通路の柵にしがみついた。顔だけ振り返る。
 ドアが全開になっていた。瘤の赤さが開いたドアから漏れ、引き込もうとする風に逆らい立っている妖介を染め上げた。
「エリ、お前は来るな」妖介が犬歯を剥き出してエリを見た。「そして、覗くな」
 妖介は全身の力を抜いた。途端に風に引き込まれた。妖介は部屋に呑み込まれた。ドアが勢いよく閉まった。
 不意に夜の静寂が戻る。
 エリは背を柵に滑らせながら、ゆるゆると座り込んだ。大きく開いたままの目は閉じる事がなかった。
「あの瘤って・・・」かすれた声でエリがつぶやく。「妖魔のはらわたとそっくりじゃない・・・」


      つづく



web拍手を送る



にほんブログ村 小説ブログへ


にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ

  

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ブラック・ジョーク『名医ハ... | トップ | 宇宙探検隊の冒険 73 ~最... »

コメントを投稿

朧 妖介(全87話完結)」カテゴリの最新記事