お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

裏シャーロック・ホームズ その9

2008年10月26日 | 裏ホームズ(一話完結連載中)
「ホームズ、彼が帰って行くよ」
 私は、去って行くジェイクスの後ろ姿を見ながら言った。彼は今回の連続殺人事件の犯人だった。
「良いんだよ、ワトソン」ホームズは巻きタバコを銜え、火をつけた。美味そうに煙を吐き出す。「これで、あの男に『恩』を売った。文句は言わないさ」
「まあ、そうだけど・・・」
 最近、ホームズに依頼される事件の数が多くなって来た。しかも、謝礼は相当額を提示されるのだ。
 これは、産業革命のお蔭で、一般市民からも裕福な者たちが出現し始めたからだった。
 そう言った人々が、めずらしさや好奇心から、些細な事件(やれ、飼っていた猫がいなくなっただの、やれ娘が付き合っている変な男を何とかしてくれだの、と言った、ホームズよりも警察のほうが相応しいと思える、詰まらない庶民的な内容のものばかり)の調査を依頼して来るようになったのだ。
 どれもホームズがまともに取り合わないものばかりだが、謝礼は魅力的だ。そこで、大きな犯罪(ジェイクスのように殺人や、国家の治安に関わるような罪など)を犯した者に、見逃すと言う「恩」を売っておき、このような詰まらない事件の犯人になってもらうようにしたのだ。
 犯人になるとは言え、軽い事件なので、大した罪にはならない。しかも、ホームズが貰った謝礼から保釈金を払って、すぐに釈放してもらっていた。そして、また詰まらない事件の時に、犯人になって貰う。
 このホームズの考えたシステムを、スムースに運営するために、レストレイド警部にも鼻薬少々で一枚加わってもらっているのは、言うまでもない。
 警部も、面倒な事件を扱って成績がぱっとしないよりは、簡易な事件とは言え、犯人がすぐに捕まるほうが成績が上がる。昇給、昇進も早まる。懐には謝礼も入る。イヤとは言わない。むしろ積極的だった。
「ジェイクスには、今抱えている事件の中の、猫泥棒と犬泥棒、皿泥棒に壁の落書犯になってもらおう」ホームズはタバコをもみ消しながら、溜め息をついた。「ワトソン、僕の渾身を懸ける様な事件と言うのは、もう無いかもしれないな」
「そんな事があるもんか、ホームズ! もしも現実で無ければ、私の小説の中だけでも、渾身を懸けてもらうよ」
 私は力強く断言した。
 ホームズには、颯爽と鋭い推理で真相を暴く姿こそが相応しい。たとえ作り話であっても、だ。


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