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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 65

2009年03月09日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 深い深い、暗い暗い闇。そこは沈黙だけが支配していた。そして、右も左も上も下も無い。ただ、その中を漂っている事だけは分かっている。どこまで行けば出られるのか。一刻も早く抜け出そうと手足を動かす。
 しかし、闇の終わりは来ない。
 答えはまだまだずっと先なのか。いや、ここ自体がもう答えなのかもしれない。ここが、到着地点。これより先は行っても同じ事。進めば進むほど、もう後戻りはできない。きっとそんな場所なんだろう。
 手足の動きを止める。
 それでもからだは漂い続けているようだ。どこかへ運ばれているようだ。
 ・・・どこへ?
 それは分からない。無音の闇の大海の無音のうねりの中で弄ばれる椰子の実の様なこのからだ。行く先を決める事は決して出来ない。いや、椰子の実ならば、どこかの岸にたどり着くだろうが、このからだは果たしてたどり着く事が出来るのだろうか・・・
 ・・・ああ、このまま僕はこの世界でずっと漂い続けなければならないのだろうか。『銀幕版・朧 妖介 妖魔潰しに行く!』が観たかったなあ。でも、逸子さん、お化けや妖怪の類は怖がるからなあ。でも独りで観に行っても何だか寂しいよなあ。だからって芳川さんと観に行ったら、谷畑君がまた泣き出すだろうなあ。彼は何か勘違いをしているからなあ。やっぱり逸子さんと観に行きたいなあ。・・・逸子さん・・・逸子さん?・・・逸子さん! そうだった! 
「ぶああああああ!」
 コーイチは叫びながら身を起こした。・・・ここは? コーイチはきょろきょろとあたりを見回した。
 抜けるような青空。何度も深呼吸したくなるような清々しい空気。程好い暖かさ。はるかに続くなだらかな丘陵には、所々に小さな森があり、地面は敷き詰めたように色とりどりの花々で埋め尽くされている。
「な、な、な・・・」コーイチは立ち上がる。・・・こんな光景、世界遺産の中にも無いぞ。と言うことは、ここは・・・「来たんだ。別次元・・・」
 あまりにものどかな光景にコーイチの頬が自然とゆるむ。が、すぐに厳しい顔に戻った。・・・そうだ、芳川さん! コーイチはもう一度あたりを見回した。姿が見えない。あちこち走り回り洋子を探す。しかし、洋子の姿はどこにも無かった。
「ひょっとして、ここじゃない所に着いてしまったんだろうか・・・」コーイチは心に湧いた不安を口にした。「それに、これじゃ、どこへ行けばいいのか、どうしたらいいのか、さっぱりだ。消しゴムも芳川さんが持っている。となれば、あのピンクのおじいさんが狙うのは、当然芳川さんだ。僕は全く相手にされないんじゃないだろうか。いや、それどころか、ここにこのまま放っておかれる可能性が大きい。・・・ああ、僕はどうしたらいいんだ!」
 コーイチは頭を抱えた。コーイチの脳裏には、この姿勢のまま、骸骨になって行く自分の姿が浮かんでいた。美しいこの景色の中に佇む骸骨製の案山子。頭蓋骨の天辺に、どこから飛んできたのか一羽のカラスが止まり、思いっきり不細工な声で「くゎーっ」と鳴いた。途端骸骨に案山子はがらがらと崩れてしまった。・・・なんて可哀想な僕なんだろう。
 と、その時、小さな笑い声が、女の子が数人でくすくす笑い合っているような声が聞こえてきた。
 ・・・どこから? コーイチは顔を上げ、あたりを見回す。・・・誰もいない。しかし、笑い声は続いている。
「どこを見ているの?」
 笑い声に混じって声がかけられた。可愛らしい少女の声だった。コーイチはまたあたりを見回す。
「ここよ、ここ!」
 からかうような声とくすくす笑い。混乱したコーイチは思わず座り込んだ。・・・ああ、とうとう幻聴がし始めたぞ。もうおしまいだ。僕は案山子だ・・・ コーイチは泣き出しそうになった。
「泣かないで。よ~くまわりを見てちょうだい」
 また声がした。座り込んだままコーイチは言われた通りにした。しかし、分からなかった。
「お馬鹿さんねぇ・・・」
 くすくす笑いがそれに続いた。コーイチは不貞腐れて、そのまま仰向けに寝転んだ。・・・どうせ、僕はお馬鹿さんですよ!
「こっちよ、こっち!」
 耳元で声がした。コーイチは顔を向けた。
「やっと見つけてくれたわね」
「わっ、わっ、わっ!」
 声をかけてきたのは、黄色い花だった。

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(そろそろ記録更新ですね。本人には通過点でしかないでしょうが・・・)



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