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コーイチ物語 「秘密のノート」11

2022年08月26日 | コーイチ物語 1 2) 悪夢  
「ぶわっ!!」
 コーイチは息苦しさに布団を跳ね上げた。ぜはぜはと肩で息をする。
 そうか、昨日布団を被ったまま、いつの間にか眠ってしまったんだ。コーイチはノートのあった場所を見た。
 ノートは無かった。……良かった、ノートのヤツ、ボクを本物の布団と思って、別の人の所に行ってしまったんだろう。これで外へ出られるぞ。良かった! 本当に良かった!
 コーイチは時計を見た。目を疑った。まだ四時半だった。そうか、理由はどうあれ、あんな早い時間から寝てしまったんだから、当然と言えば当然か……
「そうだ、会社に行ってみよう!」
 この時間なら先ず一番に出社できるだろう。そうなれば、吉田課長に何かあって会社に一報が入っても、最初に受けるのは自分になる。そうすれば、万が一の事態になっても他の人たちにあわて取り乱した姿を見られないで済む。散々取り乱した後に皆が出社してくるだろうから、落ち着きを取り戻しているはずだ。ボクが吉田課長の悲劇に関与しているなんて、誰も気付くまい。
 コーイチはスーツに着替え、部屋を出た。いつもの電車に乗り、いくつかの乗り換えを経て、会社の入っているビルの前に着いた。
 一階ロビー受付には、いつもの無愛想な守衛が居て、じろりとコーイチを睨む。コーイチは自分のやった事を見抜かれているような気がし、どきんとしたが、無理矢理笑顔を作りながらその前を通り過ぎ、エレベーターに乗り込んだ。大きな溜息をついて十一階のボタンを押す。ドアが閉まりエレベーターが動き出し十一階で停まった。ドアが開きコーイチは廊下を歩く。さすがに誰も居ない。「営業四課」とブロック体の活字シールの張られたドアのノブを回す。ノブは軽く回り、ドアが開いた。
「あれえぇぇ?」
 コーイチは間抜けた声をあげた。吉田課長が課長席に居たのだ。
「なんだあぁぁ?」
 課長もコーイチのほうを見て、負けないほど間抜けた声を上げた。
「課長、ご無事でしたか……」
 コーイチは思わず言ってしまい、あわてて口を両手で押さえた。
「何を訳の分からん事を言ってるんだ。オレはこんなにぴんぴんしているぞ。それよりも、こんなに早く来るなんて珍しい事をして、嵐でも呼ぶ気か? それとも無理矢理早朝残業でも付けるのか? ダメだぞ、お前がそんなに仕事熱心な訳が無いからな」
 相変わらずだな。こんな事なら油性マジックを使って、しっかりと名前を書いてやればよかったな。やっぱりこの人に同情はすべきではなかったな。コーイチはだんだん腹が立ってきた。
 とその時、営業四課のドアが勢いよく開けられた。

      つづく

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