「これからどうなるんだ?」
コーイチは手品師の右手と左手とを行き交うステッキを顔を動かしながら追っている。
廊下に立つ手品師は、ステッキの両端を持って胸元に水平に構え、笑顔を浮かべ、音楽に合わせて上半身を軽く左右に振り、白い網タイツに白いブーツを履いた長い脚を交差させながら室内に入って来た。
コーイチは邪魔にならないようにと脇へ除けた。手品師は「あ・り・が・と」と可愛らしい声で言い、コーイチにウインクをした。コーイチは真っ赤になって下を向いてしまった。
不意に手品師は歩みを停め、ステッキから両手を離した。ステッキはゆっくりと垂直に向きを変えて下がり始め、先端が床から少し浮いた状態で停まった。手品師は笑顔を課長に向けながら右腕を頭上高く揚げ、指先をぱちんと鳴らした。
コーイチははっと我に返り、浮いているステッキに気がつき、さらに、課長を見つめながら右腕を差し上げて微笑んでいる手品師に気がついた。
「お・ん・が・く!」手品師は可愛らしい声を張った。軽快な音楽がフェイド・アウトし、少しの間をおいて、ドロドロドロドロ・・・とドラムロールが流れ出した。コーイチは我知らずワクワクしながら成り行きを見守っていた。
「スリー!」
差し上げた右手の人差し指中指薬指の三本を立てて手品師は可愛い声で叫んだ。浮いていたステッキが床をコンコンコンと三度突いた。ドラムロールが強弱を繰り返す。
「トゥー!」
薬指が折り曲げられ人差し指と中指の二本になった。ステッキがコンコンと二度床を突く。ドラムロールが強弱を繰り返しながら、全体の音量を益して行く。
「ワン!」
人差し指一本だけになった。ステッキがコンと床を突いた。さらにドラムロールの音量が増す。
「ゼロ!」
手品師は右腕を振り下ろした。ステッキがぱっと宙高く浮かび上がった。ジャン! とシンバルを強く叩く音が響いた。と同時に、期待に胸ときめかせていたコーイチの顔が引きつった。
殺し屋の握っていた銃の引金が引かれ、ぼすっと言う鈍い音を立てた。サイレンサーの先から紫の煙がほのかに立ち上っている。
吉田課長の額の真ん中に黒っぽい穴が開いていた。課長は手品師に向けた下心丸出しのいやらしい笑顔のまま、撃たれた勢いで椅子に深々と座り込んだ。しばらくすると、半開きの口から白いもやもやしたものが湧き上がって来た。課長の霊魂だ! あんな課長でもこんなにきれいな白色なんだな…… コーイチはそんな感想を抱きながら見ていた。
突然、死神が鎌を大きく振り下ろした。課長の霊魂が真っ二つになった。二つになった霊魂はそれぞれが薄くなって行き、朝日に溶け込むように消えてしまった。
手品師は宙に浮かび上がったステッキをつかみ、さっと一振りした。ステッキは黒い紙に包まれた白菊の花束になった。花束は再び宙に浮かび、座り込んでいる課長の腿の上にそっと載った。
「わっ! わっ! わっ!」
コーイチは叫びながら開いているドアから廊下に飛び出し、エレベーターに向かって走った。
なんてこった! 印旛沼さんも関係してたんだ! 三人そろってボクに何をしようと言うんだ。何か怪しい事の誘い込む気じゃないだろうか? コレストウトスか、ジャークか、それとも印旛沼さんの関係している第三の組織か……
「わっ! わっ! わっ!」
コーイチは叫んだ。エレベーターの前に清水薫子と林谷晋吾と印旛沼陽一が立っていて、コーイチを見つめていた。
「うふふふふ……」
「わっはっはっは……」
「ふわっ、ふわっ、ふわっ……」
三人は笑いながらコーイチの方へ近付いて来た。
つづく
コーイチは手品師の右手と左手とを行き交うステッキを顔を動かしながら追っている。
廊下に立つ手品師は、ステッキの両端を持って胸元に水平に構え、笑顔を浮かべ、音楽に合わせて上半身を軽く左右に振り、白い網タイツに白いブーツを履いた長い脚を交差させながら室内に入って来た。
コーイチは邪魔にならないようにと脇へ除けた。手品師は「あ・り・が・と」と可愛らしい声で言い、コーイチにウインクをした。コーイチは真っ赤になって下を向いてしまった。
不意に手品師は歩みを停め、ステッキから両手を離した。ステッキはゆっくりと垂直に向きを変えて下がり始め、先端が床から少し浮いた状態で停まった。手品師は笑顔を課長に向けながら右腕を頭上高く揚げ、指先をぱちんと鳴らした。
コーイチははっと我に返り、浮いているステッキに気がつき、さらに、課長を見つめながら右腕を差し上げて微笑んでいる手品師に気がついた。
「お・ん・が・く!」手品師は可愛らしい声を張った。軽快な音楽がフェイド・アウトし、少しの間をおいて、ドロドロドロドロ・・・とドラムロールが流れ出した。コーイチは我知らずワクワクしながら成り行きを見守っていた。
「スリー!」
差し上げた右手の人差し指中指薬指の三本を立てて手品師は可愛い声で叫んだ。浮いていたステッキが床をコンコンコンと三度突いた。ドラムロールが強弱を繰り返す。
「トゥー!」
薬指が折り曲げられ人差し指と中指の二本になった。ステッキがコンコンと二度床を突く。ドラムロールが強弱を繰り返しながら、全体の音量を益して行く。
「ワン!」
人差し指一本だけになった。ステッキがコンと床を突いた。さらにドラムロールの音量が増す。
「ゼロ!」
手品師は右腕を振り下ろした。ステッキがぱっと宙高く浮かび上がった。ジャン! とシンバルを強く叩く音が響いた。と同時に、期待に胸ときめかせていたコーイチの顔が引きつった。
殺し屋の握っていた銃の引金が引かれ、ぼすっと言う鈍い音を立てた。サイレンサーの先から紫の煙がほのかに立ち上っている。
吉田課長の額の真ん中に黒っぽい穴が開いていた。課長は手品師に向けた下心丸出しのいやらしい笑顔のまま、撃たれた勢いで椅子に深々と座り込んだ。しばらくすると、半開きの口から白いもやもやしたものが湧き上がって来た。課長の霊魂だ! あんな課長でもこんなにきれいな白色なんだな…… コーイチはそんな感想を抱きながら見ていた。
突然、死神が鎌を大きく振り下ろした。課長の霊魂が真っ二つになった。二つになった霊魂はそれぞれが薄くなって行き、朝日に溶け込むように消えてしまった。
手品師は宙に浮かび上がったステッキをつかみ、さっと一振りした。ステッキは黒い紙に包まれた白菊の花束になった。花束は再び宙に浮かび、座り込んでいる課長の腿の上にそっと載った。
「わっ! わっ! わっ!」
コーイチは叫びながら開いているドアから廊下に飛び出し、エレベーターに向かって走った。
なんてこった! 印旛沼さんも関係してたんだ! 三人そろってボクに何をしようと言うんだ。何か怪しい事の誘い込む気じゃないだろうか? コレストウトスか、ジャークか、それとも印旛沼さんの関係している第三の組織か……
「わっ! わっ! わっ!」
コーイチは叫んだ。エレベーターの前に清水薫子と林谷晋吾と印旛沼陽一が立っていて、コーイチを見つめていた。
「うふふふふ……」
「わっはっはっは……」
「ふわっ、ふわっ、ふわっ……」
三人は笑いながらコーイチの方へ近付いて来た。
つづく
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