「……どうして……」男は驚いて、力無くつぶやく。「こんな事が……」
「はははは!」チトセは笑う。「おい、お面オヤジ! お前はオレを甘く見てたんだよ!」
「うむ、そう言う事だな」チトセの言葉にケーイチはうなずく。「言っただろう? チトセはオレの優秀な助手だって」
「……どう言う事だ?」
「オレはな、チトセにタイムマシンを持たせていたんだよ。改良して小型化したものをさ」ケーイチは言う。「チトセは優秀だから、使い方なんか一発で覚えたよ。それだけじゃない。事前にここを設定しておいたんだ。だから、どこへ行っても戻って来られるってわけさ」
「そう言う事だよ、お面オヤジ」チトセが言う。「それだけじゃない。ケーイチ兄者は他の幾つかの場所も設定してくれていたんだ。その中にオバさんたちの居るエデンの園もあったんだ。お前はオレを放り出すとすぐに居なくなったけどさ、山賊の兄者や仲間から受け身を教わっていたから、お前の当て身なんざ効かなかったんだよ。オレはわざとやられた振りをしたんだ」
「ふざけた真似を……」
「そう怒るなよ。で、お前が居なくなってすぐにエデンの園に行ってみた。本当にみんな倒れていて、びっくりしたよ。まあ、オバさんの一人が大いびきをかいていたから、お前の言ってた睡眠ガスは本当だって分かったけどね」チトセはアツコをちらちらと見た。大いびきをかいていたのはアツコらしかった。「……それで、いつも持ち歩いている丸薬をみんなの口に入れてやったんだ。あれって、水が無くっても口の中で溶けて飲み込めるんだ。しばらくしたら、みんな目を覚ました」
「じゃあ、博士が下らない事をだらだらと話していたのは……」
「そうだ、チトセがみんなを連れて戻って来ると思ったから、時間稼ぎをしたのさ」
沈黙が流れる。お面の男はケーイチとチトセを交互に見た。お面の下には、さぞ忌々しいと言った表情があるのだろう。ナナが一歩前に出る。
「そして、話を聞いたのよ……」ナナが悲しそうに言う。「もう、お面を取ってよ、テルキさん……」
皆はじっとお面の男を見つめた。タケルが一歩前に出た。
「……お前は先輩じゃないよな?」タケルの声は震えている。「そのお面を外すと、全くの別人なんだよな?」
笑顔のお面がタケルに向いた。タケルはその姿を見て半泣きな顔になった。直感的にお面の人物が分かったのだろう。男はお面をゆっくりとはずした。
「テルキ先輩……」タケルはつぶやくと、その場に膝を付いた。「……そんな……」
「テルキさん……」ナナがつぶやく。「何が目的でこんな……」
「お前ぇ……」アツコはテルキをにらみ付ける。「ふざけやがってぇ……」
逸子はアツコの肩に手を置いた。そのおかげで、噴き上がりそうなアツコのオーラは抑える事が出来た。アツコは我に返って、ふっと息をついた。
「アツコ、暴れてはダメよ」逸子はアツコの背後から言う。肩に置かれた手に力が入る。「まずは話を聞かなくちゃ」
「まあ、諦めるんだな、テルキさんとやら……」ケーイチが言う。「こうなった以上、もうどうにも出来ないだろう」
「……ふん……」テルキはケーイチを見た。「仕方がないな。タケルから聞いた話で計画を立ててみたのだが、ケーイチ博士がこんなに世慣れしているとは思わなかったよ。想定外だ」
「ははは、オレは世慣れなんかしてないさ。人と接するより研究の方がずっと好きだからね。実際、この世界に来た当初は、周りで何が起きているのかに全く関心が無かったよ」
「じゃあ、何故だ?」
「それはチトセのおかげだよ」ケーイチは言う。「オレの手伝いをしている間、色々と話をしてくれてさ。それで、支持者の事を知ったのさ。それで考えた。支持者の目的は何だろうってね。もちろん、研究の合間にちょこっとだけだがね」
「さすがお兄様、凄いですわ!」逸子が感心したように言う。「それで、どう考えたんです?」
「タイムマシンと歴史に関して何かありそうだと考えた。そう考えたら、ここへ来るかもしれないとも考えた。その際に何かあったらすぐ逃げ出せるようにと思ってチトセにタイムマシンを持たせたんだ」
「と言う事は、お兄様はタイムマシンは持っているんですか?」
「いや、持っていない。移動中の、あのふわふわ感が好きじゃなくってね」
「でもそれじゃ、お兄様は逃げられませんわ」
「あっ、そうか…… そうだよね」
ケーイチは言うと笑った。逸子はやれやれと言う表情をする。……こんな所がコーイチさんに似ているのよね、やっぱり兄弟ね。逸子は思った。
「わたしは、ずっと研究ばかりしているものだと思っていました……」ナナが驚いた様に言う。「全然気が付きませんでした……」
「まあ、実際は研究ばかりだったからね」ケーイチはうなずく。「オレが一番接していたのはチトセだった。タケル君もナナ君もタロウ君も、オレとの接触は少ない。気付かなくて当然さ。良くチトセが言っていたよ。『ケーイチ兄者は人数に入っていないみたいだぞ』ってね。別にそれに対してどうこうは思っていないから気にしないでくれ。むしろ、研究に没頭出来て好都合な状況だったよ」
「そうか……」テルキは言ってタケルを見た。「一人一人の事をタケルに聞いた時、博士は研究ばかりで自分たちに関心が無いとか言っていたのは、タケルの思い込みだったのか……」
「そう言う事になるかな」ケーイチは笑む。「それよりも何よりも、お前さんはチトセを過小評価してしまった事が致命傷だったな。この子は利口だよ。オレの後継者にしたいくらいだ」
「……テルキさん、もう諦めて下さい」ナナが言う。「タイムパトロールに逮捕権はありませんが、テルキさんの行なったことは内規違反になります」
「そうだよなぁ……」テルキは苦笑する。「ナナは上の連中とも親しいし、こりゃあ、逃げられそうもないか……」
「先輩!」タケルが大声で言う。「どうしてこんな事をしたんだよう! ボクは先輩を尊敬していたんだよう!」
「タケル……」テルキは涙でぐちょぐちょになったタケルの顔を見た。「歴史にはな、しなくても良い過ちや悔いがあるものだ……」
と、その時、出入口の方で音がした。それに続いてどたどたと走る音がした。皆が一斉に音のする方を見た。
何とか出入口を開ける事の出来たコーイチが、紙切れを持って走って来た。
「兄さん、大変だ!」勢い込んだコーイチだったが、皆がそろって自分を見ているので、思わず足が止まってしまった。コーイチは目を大きく見開き、口をぱくぱくさせている。「え? え?」
突然、テルキが動き、コーイチの背後に回るとコーイチを押さえ込んだ。コーイチを人質にした格好になった。
「みんな動くな!」
テルキは鋭い口調で言う。
つづく
「はははは!」チトセは笑う。「おい、お面オヤジ! お前はオレを甘く見てたんだよ!」
「うむ、そう言う事だな」チトセの言葉にケーイチはうなずく。「言っただろう? チトセはオレの優秀な助手だって」
「……どう言う事だ?」
「オレはな、チトセにタイムマシンを持たせていたんだよ。改良して小型化したものをさ」ケーイチは言う。「チトセは優秀だから、使い方なんか一発で覚えたよ。それだけじゃない。事前にここを設定しておいたんだ。だから、どこへ行っても戻って来られるってわけさ」
「そう言う事だよ、お面オヤジ」チトセが言う。「それだけじゃない。ケーイチ兄者は他の幾つかの場所も設定してくれていたんだ。その中にオバさんたちの居るエデンの園もあったんだ。お前はオレを放り出すとすぐに居なくなったけどさ、山賊の兄者や仲間から受け身を教わっていたから、お前の当て身なんざ効かなかったんだよ。オレはわざとやられた振りをしたんだ」
「ふざけた真似を……」
「そう怒るなよ。で、お前が居なくなってすぐにエデンの園に行ってみた。本当にみんな倒れていて、びっくりしたよ。まあ、オバさんの一人が大いびきをかいていたから、お前の言ってた睡眠ガスは本当だって分かったけどね」チトセはアツコをちらちらと見た。大いびきをかいていたのはアツコらしかった。「……それで、いつも持ち歩いている丸薬をみんなの口に入れてやったんだ。あれって、水が無くっても口の中で溶けて飲み込めるんだ。しばらくしたら、みんな目を覚ました」
「じゃあ、博士が下らない事をだらだらと話していたのは……」
「そうだ、チトセがみんなを連れて戻って来ると思ったから、時間稼ぎをしたのさ」
沈黙が流れる。お面の男はケーイチとチトセを交互に見た。お面の下には、さぞ忌々しいと言った表情があるのだろう。ナナが一歩前に出る。
「そして、話を聞いたのよ……」ナナが悲しそうに言う。「もう、お面を取ってよ、テルキさん……」
皆はじっとお面の男を見つめた。タケルが一歩前に出た。
「……お前は先輩じゃないよな?」タケルの声は震えている。「そのお面を外すと、全くの別人なんだよな?」
笑顔のお面がタケルに向いた。タケルはその姿を見て半泣きな顔になった。直感的にお面の人物が分かったのだろう。男はお面をゆっくりとはずした。
「テルキ先輩……」タケルはつぶやくと、その場に膝を付いた。「……そんな……」
「テルキさん……」ナナがつぶやく。「何が目的でこんな……」
「お前ぇ……」アツコはテルキをにらみ付ける。「ふざけやがってぇ……」
逸子はアツコの肩に手を置いた。そのおかげで、噴き上がりそうなアツコのオーラは抑える事が出来た。アツコは我に返って、ふっと息をついた。
「アツコ、暴れてはダメよ」逸子はアツコの背後から言う。肩に置かれた手に力が入る。「まずは話を聞かなくちゃ」
「まあ、諦めるんだな、テルキさんとやら……」ケーイチが言う。「こうなった以上、もうどうにも出来ないだろう」
「……ふん……」テルキはケーイチを見た。「仕方がないな。タケルから聞いた話で計画を立ててみたのだが、ケーイチ博士がこんなに世慣れしているとは思わなかったよ。想定外だ」
「ははは、オレは世慣れなんかしてないさ。人と接するより研究の方がずっと好きだからね。実際、この世界に来た当初は、周りで何が起きているのかに全く関心が無かったよ」
「じゃあ、何故だ?」
「それはチトセのおかげだよ」ケーイチは言う。「オレの手伝いをしている間、色々と話をしてくれてさ。それで、支持者の事を知ったのさ。それで考えた。支持者の目的は何だろうってね。もちろん、研究の合間にちょこっとだけだがね」
「さすがお兄様、凄いですわ!」逸子が感心したように言う。「それで、どう考えたんです?」
「タイムマシンと歴史に関して何かありそうだと考えた。そう考えたら、ここへ来るかもしれないとも考えた。その際に何かあったらすぐ逃げ出せるようにと思ってチトセにタイムマシンを持たせたんだ」
「と言う事は、お兄様はタイムマシンは持っているんですか?」
「いや、持っていない。移動中の、あのふわふわ感が好きじゃなくってね」
「でもそれじゃ、お兄様は逃げられませんわ」
「あっ、そうか…… そうだよね」
ケーイチは言うと笑った。逸子はやれやれと言う表情をする。……こんな所がコーイチさんに似ているのよね、やっぱり兄弟ね。逸子は思った。
「わたしは、ずっと研究ばかりしているものだと思っていました……」ナナが驚いた様に言う。「全然気が付きませんでした……」
「まあ、実際は研究ばかりだったからね」ケーイチはうなずく。「オレが一番接していたのはチトセだった。タケル君もナナ君もタロウ君も、オレとの接触は少ない。気付かなくて当然さ。良くチトセが言っていたよ。『ケーイチ兄者は人数に入っていないみたいだぞ』ってね。別にそれに対してどうこうは思っていないから気にしないでくれ。むしろ、研究に没頭出来て好都合な状況だったよ」
「そうか……」テルキは言ってタケルを見た。「一人一人の事をタケルに聞いた時、博士は研究ばかりで自分たちに関心が無いとか言っていたのは、タケルの思い込みだったのか……」
「そう言う事になるかな」ケーイチは笑む。「それよりも何よりも、お前さんはチトセを過小評価してしまった事が致命傷だったな。この子は利口だよ。オレの後継者にしたいくらいだ」
「……テルキさん、もう諦めて下さい」ナナが言う。「タイムパトロールに逮捕権はありませんが、テルキさんの行なったことは内規違反になります」
「そうだよなぁ……」テルキは苦笑する。「ナナは上の連中とも親しいし、こりゃあ、逃げられそうもないか……」
「先輩!」タケルが大声で言う。「どうしてこんな事をしたんだよう! ボクは先輩を尊敬していたんだよう!」
「タケル……」テルキは涙でぐちょぐちょになったタケルの顔を見た。「歴史にはな、しなくても良い過ちや悔いがあるものだ……」
と、その時、出入口の方で音がした。それに続いてどたどたと走る音がした。皆が一斉に音のする方を見た。
何とか出入口を開ける事の出来たコーイチが、紙切れを持って走って来た。
「兄さん、大変だ!」勢い込んだコーイチだったが、皆がそろって自分を見ているので、思わず足が止まってしまった。コーイチは目を大きく見開き、口をぱくぱくさせている。「え? え?」
突然、テルキが動き、コーイチの背後に回るとコーイチを押さえ込んだ。コーイチを人質にした格好になった。
「みんな動くな!」
テルキは鋭い口調で言う。
つづく
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