「逸子さん! ひどいじゃないかぁ!」
光の中でコーイチが言う。
「こうでもしなきゃ、いつまでもあそこに居続けになるでしょ!」
逸子も負けじと言い返す。
「コーイチ……」ケーイチが割って入る。「これも歴史のためなのだよ。結果的には正しい事をしているんだよ」
「その言い方って、怪しい宗教の勧誘みたいでイヤだなぁ……」コーイチは口を尖らせる。「……でも、こうなったら、あれこれ考えるのは止めにするよ」
「うん、お前は小さい時から、諦めが良いというか、流れに逆らわないと言うか…… ほら、まだ幼稚園生の時に……」
「もう良いよ!」
コーイチは少し声を荒げる。逸子の前で変な事を言われたくない。逸子がコーイチの昔話を聞きたそうにしているからだ。話が終わってしまって、逸子はつまらなさそうな顔をする。
「ところでさ、兄さん」コーイチは話題を変える。「ボクたちはどの時間に向かっているんだい?」
「それは、タイムマシンが出来る前だ」ケーイチは当然と言う顔をする。「つまり、トキタニ博士からの混線した電話がかかってくる前だよ」
「ちょっと待ってよ」コーイチが言う。「それだとさ、問題にならないかい?」
「何故だ? タイムマシンが作られる前だぞ。まだ歴史が正しく流れている状態だぞ」
「そうだけどさ……」コーイチはじっとケーイチの顔を見る。「歴史の流れから言ってさ、トキタニ博士からの電話はあるんだろう?」
「あるな。間違いない」
「じゃあ、兄さんは、それにどう対応するんだい?」
「え?」
「え? じゃないよ。兄さんは電話に出るのかい? 出ないのかい?」
「……それは、あれだ……」
「電話にでたら、今と同じ事になっちゃうんじゃないのかい?」
「いや、完全な数値を伝えれば、同じにはならんぞ」
「でもさ、それって、パラレルワールドが出来てしまうって分かっているから、それを発生させないために伝えるんだろう?」
「そうだ。それがオレたちの使命だ」
「でもさ、それはそれで、歴史の書き換えになるんじゃないのかい?」
「え?」
「歴史の行先を知っていて、その流れを変えるって言うのは、歴史の書き替えだろう? それって、正しい歴史になるのかなぁ?」
「じゃあ、電話に出ないよ」
「でもさ、それはそれで、パラレルワールドを引き起こさないための手段なんだろう? それも歴史の書き換えになるんじゃないかなぁ……」
「だがな、このタイムマシンは、正しい歴史の流れを取り戻すために作ったんだぞ」
「じゃあさ、正しい歴史ってなんだい? 兄さんが電話に出る事? 出たんなら正しい数値を言う事? それとも電話には出ない事?」
「何が言いたいんだ?」
「いや、ボクにも分からないんだけどさ、ふっと気になっちゃってさ……」
「それって……」逸子が恐る恐ると言った感じで言う。「歴史の流れが言わせたのかも……」
「歴史の流れ……?」
ケーイチとコーイチを顔を見合わせ、それから二人して逸子の顔を見る。
「……ほら、お兄様が、正しい歴史の流れに意識があるんなら、『さっさと元に戻さんかい!』って、やきもきしているだろうっておっしっゃたじゃない? だから、歴史の流れの意識がコーイチさんを通して語っている、みたいな……」
「ほう……」ケーイチは感心したような表情だ。「まあ、基本的に単純で信じ込みやすいコーイチなら、あり得る話かもな」
「また、そんな事を言う!」
「まあ、とにかくだ、コーイチ、あと何か浮かばないか? 歴史の流れの意識の声として聞かせてもらうよ」
「なんだか薄気味悪いなぁ……」コーイチの顔が曇る。それでも言葉が続く。「……それと関係あるかどうかは知らないけどさ、正しい歴史の命運は、兄さんに掛かっているって事は確かだね」
「何だって! オレに掛かっているだって!」ケーイチは驚く。「そんな事…… あるか…… いや、そうはならない…… いや、なるのかな…… ちょっと待てよ……」
ケーイチはぶつぶつ言っていたが、やがて眼を閉じて黙ってしまった。考え事を始めたようだ。
「コーイチさん……」逸子が青ざめた顔をコーイチに向ける。「どうなっちゃうのかしら…… 不安だわ……」
「ボクだって不安だよ…… 歴史の流れの意識だなんて、逸子さんも怖い事を言うよなぁ……」
「でも、そう思っちゃったんだもん」逸子は言う。「あのさ、そろそろ着いちゃうんじゃない?」
「そうだね……」コーイチはケーイチを見る。まだ考え込んでいる。「……兄さん、どうするんだろう?」
と、ケーイチは突然立ち上がった。きっぱりとして表情で、コーイチの肩に手を置いた。
「そうだ、そうだよ、これしか無い!」ケーイチは言うと、コーイチの肩をばんばんと何度も叩く。「コーイチ! お前は実に良い点を指摘してくれた! 実に良い点だ!」
「でもさ、それは逸子さんが言う、歴史流れの意志気が気付かせてくれたんじゃないのかな?」
「まあ、どっちでも良い事だ。どっちでも良い事だが、内容は実に重要だ」
「そうなんだ……」コーイチは確信に満ちたケーイチを見て安堵の吐息を漏らす。「……それで、どうするんだい? 科学的に考察した結果は?」
「ふっふっふ……」ケーイチは不敵な笑みを浮かべる。「結論はだ、その時の気分で決める」
「は?」コーイチは呆れる。「歴史の命運がかかっているのに、科学的に考察したのに、……その時の気分で決めるって…… そんなぁ……」
「はっはっは! 歴史も時にはハプニングが起きるものさ」
「それだって、予定調和な所があるじゃないか」
「だったら、オレがどうやろうが、問題はないだろう?」
「そんな…… 勝手過ぎないかい?」
「じゃあ、お前が電話に出て『この番号は現在使われておりません』なんて言いてみるか?」
「そ、そんな勇気は無いよ……」
「そう言う事だ。この件はな、どんな行動を取るにしても、勇気がいるのだ」
「でも、気分で決めるなんて……」
「それも勇気がいるのさ。何と言ってもだ、歴史の命運をオレが担うんだからな」
「お兄様、カッコ良い!」
「ちょっと! 逸子さんまで!」
タイムマシンが止まった。
つづく
光の中でコーイチが言う。
「こうでもしなきゃ、いつまでもあそこに居続けになるでしょ!」
逸子も負けじと言い返す。
「コーイチ……」ケーイチが割って入る。「これも歴史のためなのだよ。結果的には正しい事をしているんだよ」
「その言い方って、怪しい宗教の勧誘みたいでイヤだなぁ……」コーイチは口を尖らせる。「……でも、こうなったら、あれこれ考えるのは止めにするよ」
「うん、お前は小さい時から、諦めが良いというか、流れに逆らわないと言うか…… ほら、まだ幼稚園生の時に……」
「もう良いよ!」
コーイチは少し声を荒げる。逸子の前で変な事を言われたくない。逸子がコーイチの昔話を聞きたそうにしているからだ。話が終わってしまって、逸子はつまらなさそうな顔をする。
「ところでさ、兄さん」コーイチは話題を変える。「ボクたちはどの時間に向かっているんだい?」
「それは、タイムマシンが出来る前だ」ケーイチは当然と言う顔をする。「つまり、トキタニ博士からの混線した電話がかかってくる前だよ」
「ちょっと待ってよ」コーイチが言う。「それだとさ、問題にならないかい?」
「何故だ? タイムマシンが作られる前だぞ。まだ歴史が正しく流れている状態だぞ」
「そうだけどさ……」コーイチはじっとケーイチの顔を見る。「歴史の流れから言ってさ、トキタニ博士からの電話はあるんだろう?」
「あるな。間違いない」
「じゃあ、兄さんは、それにどう対応するんだい?」
「え?」
「え? じゃないよ。兄さんは電話に出るのかい? 出ないのかい?」
「……それは、あれだ……」
「電話にでたら、今と同じ事になっちゃうんじゃないのかい?」
「いや、完全な数値を伝えれば、同じにはならんぞ」
「でもさ、それって、パラレルワールドが出来てしまうって分かっているから、それを発生させないために伝えるんだろう?」
「そうだ。それがオレたちの使命だ」
「でもさ、それはそれで、歴史の書き換えになるんじゃないのかい?」
「え?」
「歴史の行先を知っていて、その流れを変えるって言うのは、歴史の書き替えだろう? それって、正しい歴史になるのかなぁ?」
「じゃあ、電話に出ないよ」
「でもさ、それはそれで、パラレルワールドを引き起こさないための手段なんだろう? それも歴史の書き換えになるんじゃないかなぁ……」
「だがな、このタイムマシンは、正しい歴史の流れを取り戻すために作ったんだぞ」
「じゃあさ、正しい歴史ってなんだい? 兄さんが電話に出る事? 出たんなら正しい数値を言う事? それとも電話には出ない事?」
「何が言いたいんだ?」
「いや、ボクにも分からないんだけどさ、ふっと気になっちゃってさ……」
「それって……」逸子が恐る恐ると言った感じで言う。「歴史の流れが言わせたのかも……」
「歴史の流れ……?」
ケーイチとコーイチを顔を見合わせ、それから二人して逸子の顔を見る。
「……ほら、お兄様が、正しい歴史の流れに意識があるんなら、『さっさと元に戻さんかい!』って、やきもきしているだろうっておっしっゃたじゃない? だから、歴史の流れの意識がコーイチさんを通して語っている、みたいな……」
「ほう……」ケーイチは感心したような表情だ。「まあ、基本的に単純で信じ込みやすいコーイチなら、あり得る話かもな」
「また、そんな事を言う!」
「まあ、とにかくだ、コーイチ、あと何か浮かばないか? 歴史の流れの意識の声として聞かせてもらうよ」
「なんだか薄気味悪いなぁ……」コーイチの顔が曇る。それでも言葉が続く。「……それと関係あるかどうかは知らないけどさ、正しい歴史の命運は、兄さんに掛かっているって事は確かだね」
「何だって! オレに掛かっているだって!」ケーイチは驚く。「そんな事…… あるか…… いや、そうはならない…… いや、なるのかな…… ちょっと待てよ……」
ケーイチはぶつぶつ言っていたが、やがて眼を閉じて黙ってしまった。考え事を始めたようだ。
「コーイチさん……」逸子が青ざめた顔をコーイチに向ける。「どうなっちゃうのかしら…… 不安だわ……」
「ボクだって不安だよ…… 歴史の流れの意識だなんて、逸子さんも怖い事を言うよなぁ……」
「でも、そう思っちゃったんだもん」逸子は言う。「あのさ、そろそろ着いちゃうんじゃない?」
「そうだね……」コーイチはケーイチを見る。まだ考え込んでいる。「……兄さん、どうするんだろう?」
と、ケーイチは突然立ち上がった。きっぱりとして表情で、コーイチの肩に手を置いた。
「そうだ、そうだよ、これしか無い!」ケーイチは言うと、コーイチの肩をばんばんと何度も叩く。「コーイチ! お前は実に良い点を指摘してくれた! 実に良い点だ!」
「でもさ、それは逸子さんが言う、歴史流れの意志気が気付かせてくれたんじゃないのかな?」
「まあ、どっちでも良い事だ。どっちでも良い事だが、内容は実に重要だ」
「そうなんだ……」コーイチは確信に満ちたケーイチを見て安堵の吐息を漏らす。「……それで、どうするんだい? 科学的に考察した結果は?」
「ふっふっふ……」ケーイチは不敵な笑みを浮かべる。「結論はだ、その時の気分で決める」
「は?」コーイチは呆れる。「歴史の命運がかかっているのに、科学的に考察したのに、……その時の気分で決めるって…… そんなぁ……」
「はっはっは! 歴史も時にはハプニングが起きるものさ」
「それだって、予定調和な所があるじゃないか」
「だったら、オレがどうやろうが、問題はないだろう?」
「そんな…… 勝手過ぎないかい?」
「じゃあ、お前が電話に出て『この番号は現在使われておりません』なんて言いてみるか?」
「そ、そんな勇気は無いよ……」
「そう言う事だ。この件はな、どんな行動を取るにしても、勇気がいるのだ」
「でも、気分で決めるなんて……」
「それも勇気がいるのさ。何と言ってもだ、歴史の命運をオレが担うんだからな」
「お兄様、カッコ良い!」
「ちょっと! 逸子さんまで!」
タイムマシンが止まった。
つづく
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