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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 173

2020年11月02日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「では、ケーイチ博士、わたしの考えを具体化してもらえると嬉しいのだがな」
「そう口で言うのは簡単だがな、そうすぐに出来るものではないよ」ケーイチは光に向かって言う。「パラレルワールド全てに影響を与えるとなると、相当なパワーが必要だ。それは理解できるだろう?」
「それを何とかするのが博士の仕事だよ」光の中の声は言う。「理想の歴史は、わたしの頭の中では出来上がっている。いつまでも待てはしないな」
「まあ、あわてるなよ。一番短期間で低コストでローパワーな方法ってやつを考えるから、しばらく待っていてくれよ」ケーイチは言うと、近くにある紙と鉛筆を手元に寄せた。「ちょいと計算とかしなきゃならないんでね。そこに居ても良いが、静かにしていてくれよ」
「どれほどかかるのだ?」
「そうだなぁ…… お前さんが良い子にしていてくれれば、そんなにかからないだろう」
 ケーイチがそう言うと、声は黙った。しばらくケーイチは紙に計算式を書き続ける。その手がふと止まった。ケーイチは光に顔を向ける。
「……あのなぁ……」ケーイチは光に向かって言う。「一つ言いたいんだが……」
「……なんだね? 言われた通り黙っているのだがな」
「それは結構なのだがね、光だよ、その光」ケーイチは目を細める。「まぶしいんだよね。そのせいで、今一つ集中できない。その光を消してくれないかな?」
「……そのためには、わたしが別の場所へ行かねばならない」
「そうしてくれよ。そして、頃合いを見計らって戻ってくれば良いだろう?」
「おいおい……」声は呆れたように言う。「その間に、博士が良からぬ事をしないとは限らないだろう?」
「疑い深いんだな……」ケーイチも呆れたように言う。「オレは悪企みなんか出来る男じゃないよ。研究に没頭したいだけだよ」
「だがな、わたしの居ない間に各方面に連絡をして、わたしを捕らえようとするかもしれない」
「あ、なるほどね!」ケーイチはぽんと手を叩いた。「それは良い手だな。言われるまで気が付かなかったよ。タイムパトロールに連絡して来てもらえば良いのか。なるほどね、良い知恵に感謝するよ」
「ふざけた事を言っていないで、早くすることだ」声にいら立ちが混じりはじめる。「わたしも、いつまでも穏やかではない……」
「分かった、分かった……」ケーイチは言うと笑う。「冗談が過ぎたようだな。でもな、まぶしいのは確かなんだよ。何とかしてくれよ」
「……仕方がない……」
 声は言うと黙った。ケーイチが光を見ていると、何か準備をしているのか、音がしている。それが治まると、光の中に人影が現われた。人影はゆっくりと光の中から出て来る。光を背負っているせいか、逆光で人物全体が薄暗い。その人物は光から出た。光が消えた。
「おい、何だ、そりゃあ!」コーイチは驚くと同時に笑い出した。「わっはっはっはっは! お前さん、ふざけるにも、程ってもんがあるだろうが!」
 そこには男が立っていた。しかし、その顔は覆われていた。ケーイチは思わず作業台に置かれた、計算に使ったナナからもらったノートの表紙を見た。覆っていたのはノートの表紙のキャラクターのお面だった。しかも表紙の絵同様に可愛らしい笑顔のものだった。
「そんなに笑う事も無いだろう……」声は相変わらず機械を通した声だった。お面の口元に装置があるのだろう。「素顔を見せられないものでね」
「だからって、それは無いぞ。それはこの時代に流行っているとか言う『キャプテン・ビューティー』じゃないか! ……って言う事は、お前さん、この時代の人か?」
「それに関しては答える必要は無いだろう。博士は計算を続けて欲しい」
「でもなぁ、そんなお面をしているのがそばにいるとなぁ、やっぱり集中力が落ちちまうよ」
「博士、いいかげんにしてもらおうか」声は笑顔のお面とは対照的に、怒りがにじんでいる。「わたしのも我慢の限界と言うものがある。そんな態度を続けると、仲間たちを戻す気が失せてしまうよ……」
「ほう、そいつは困るなぁ……」ケーイチは言ってお面の男を正面から見つめる。途端に笑い出した。「……にしてもだ、そのお面はダメだよ。わっはっはっは!」
「……ならばもう良い。わたしはここから去るだけだ。そして後悔すると良いだろう。もうお前の仲間たちは戻っては来れないのだからな」
 男はタイムマシンを取り出した。男の背後に光が生じた。
「何だ?」男は生じた光に振り返った。光はタイムマシンのものに違いなかった。「……まだタイムマシンを操作していないのだが」
 やがて光はしっかりとしたものとなった。
 光から出て来たのはチトセだった。むっとした顔で出て来たが、目の前のお面の男を見た途端、爆笑した。
「あっははははは! 何だ、そりゃあ!」
 チトセはお面を指差しながら身をよじる。
「やかましい!」男は怒鳴った。それから気が付いたように言う。「……お前、どうやって戻って来たんだ?」
「オレだけじゃないぞ、お面オヤジ!」
 チトセは言う。
 光の中から、ナナ、アツコ、逸子、タロウ、タケルが出て来た。


つづく

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