お話

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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 63

2009年02月17日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
「じゃあ、そろそろ、いいですか?」
 洋子はすっと真顔になってコーイチに言った。
 そうだった。これから見知らぬ世界へ行くんだった。逸子さんを助け出し、ピンクのおじいさんから鉛筆を取り返すんだった。でも、こんな横やりが入ってしまうと、せっかくの覚悟が弱まってしまうなあ・・・
 コーイチは谷畑が走り去って行った方を恨みがましく見つめた。
「いいんですね?」
 洋子のダメ押しにふと我に返ったコーイチは、
「まあ、その、何と言うか・・・」
と、あいまいな答えを返した。
「コーイチさん。・・・まさか、また弱気になったんじゃないでしょうね・・・」
 洋子はじろりとコーイチをにらみつけた。思わずコーイチの身がすくむ。
「そ、そんなわけないじゃないか!」心の奥底を見抜かれそうだと思ったコーイチは、わざと大声で明るく言った。「もう一刻も早く行きたいね。そして、さっさと用事を済ませて、とっとと帰って来たいものだよ!」
 洋子は疑り深そうな表情を、急に明るくして言った。
「そうですか。では、もう消しちゃいますね」ニコニコしながら言うと、洋子は消しゴムを紙ナプキンに当てた。「まずは先輩のコーイチさんから・・・」
 動き出そうとする洋子の手をコーイチは押さえた。
「あ、あのさ、こう言うものはさ」笑顔を引きつらせ、上ずった声でコーイチが言った。「まずは後輩からするものじゃないかな?」
「何を言い出すんですか!」洋子はコーイチの手を振り払った。「危険な所へは、先輩が、男性が先に行くに決まっているじゃないですか!」
「それは、あれだよ、女性の持つ偏見みたいなものだと思うよ。それに芳川さんは僕なんかよりもずっと強いし・・・」
「やっぱり行きたくないんですね! 逸子さんがどうなってもいいんですね! それに、ピンクの老人が万が一世界征服を成し遂げたら、コーイチさんのせいですからね! それでいいんですね!」
「それは・・・ 良くない」
「じゃあ、うじうじするのは止めてください! 行くと決めたんですから! いいですか? 立ち止まったら、そこで終わりが来てしまうんですよ!」
「それは、そうだけど・・・」
「あああああ! じれったいっ!」
 洋子は叫ぶと立ち上がり、座っていた長椅子を握り拳で激しく打ち据えた。あっと言う間に長椅子にひびが入り、真っ二つになってしまった。座っていたコーイチは、そのまま床に尻餅をついてしまった。
「もう、こうしちゃいますからね!」
 洋子は紙ナプキンをカウンターの上に広げ直し、消しゴムを握り直すと、書かれた相合傘の天辺から、ごしごしと消しゴムを左右に動かして消し始めた。
「あ、あわわわわわ・・・」洋子の手の動きを見て、コーイチはあわてて立ち上がった。「ちょっと、待ったあ!」
 しかし、コーイチの顔の前に突き出されたのは、相合傘も、洋子の名前も、コーイチの名前も、全てがすっかりと消された紙ナプキン一枚だった。

       つづく

いつも熱い拍手、感謝しておりまするぅ

(公演は順調のようですね。ただロビーに困ったコーナーがあるとか・・・)



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