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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 47

2020年04月29日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
 ナナの着替えが終わった。逸子は満足そうだ。
 程良くからだのラインが出た迷彩服の上下に、やや戸惑っているナナだった。
「ちょっと恥ずかしいです……」ナナは言いながら頬を赤くする。「スカートの時とはまた違った感じで……」
「気にしなくっても良いわよ」逸子は言う。「……それにしても、ナナさんってスタイル良いわねぇ…… わたしなんかより、ずっとモデルに向いていそうだわ」
「やめて下さいよう!」ナナはさらに赤くなる。「わたしは普段はだぼだぼの服ばかり着ているので、こんなにぴっちりだと、何も着ていないみたいです……」
「あら、そうなの?」逸子は驚く。「でも、タイムパトロールの制服って、ぴっちり系じゃない?」
「だから、とっても恥ずかしかったんです!」ナナは怒ったように言い出す。「他の女性メンバーたちも同意見でした。上層部に改善を進言したのですが、『このスーツは機能的だから変更は無い。文句があるなら裸で任務に当たれ』と言われちゃいました」
「この時代風に言えば、パワハラ、モラハラ、セクハラの三点セットって所ね」
「そうなんですか。わたしの時代にはそれらは死語になっていますね。男女平等、男女同権になっていますから、もし、男性メンバーが同じような文句を言っても同じ様な回答をされるだけでしょうね」
「それはそれで、困ったものねぇ……」逸子は同情する。「でも、ナナさんはタイムパトロールを辞めちゃったわね」
「そうですね。あんな最低組織に未練はありません」ナナはきっぱりと言う。「大した権限も持たせてくれないし、長官をはじめ上層部は出世と保身ばかりだったし、敵の『ブラックタイマー』と通じているし……」
「長官ねぇ……」逸子は思い出しながら笑った。「机を粉砕してやった後の、情けない顔ったらなかったわねぇ」
「そうでしたね」ナナも笑う。「あんなのに従ってたのかと思うと腹が立ちましたね。いい気味でした」
「じゃあ、わたしたちでコーイチさんを取り返し、『ブラックタイマー』を殲滅しましょう!」
「はい! がんばります!」
 二人はうなずき合った。見つめ合う互いの瞳には、時代を超えた友情がしっかりと芽生えていた。
「……ところで、逸子さんはどんな格好をするんですか?」ナナは逸子がスカートのままなのを見て言った。「その格好で戦うんですか? 色んな意味で危険ですよ……」
「違うわよ」逸子は笑う。「さすがにこの格好じゃあねぇ…… コーイチさんだけなら良いけど」
「ま~た、のろけるんですか?」ナナも笑う。「それじゃ、どうするんですか? 買い物をした服ははわたしが着ているこの服だけでしたけど……」
「あれを着るのよ」
 逸子は一点を指差した。ナナがその指先を追う。そこにはナナのタイムパトロールのスーツがハンガーに吊るされて鴨居に掛けてあった。
「え?」ナナは逸子を見た。ナナは呆れたような驚いたような表情だ。「え?」
「へっへっへ……」逸子はいたずらっぽく笑う。「良いじゃない。わたし、あんな服を着てみたかったのよ」
「でも、あれはわたしが着ていたものですよ。……せめて洗濯くらいしないと……」
「ナナさんのだったら平気、大丈夫よ」
「いえ、そんな事はありません!」
「わたしは気にしないわ」逸子は言うと。鴨居からハンガーごとスーツを下ろした。そして、鼻を近づけた。「……ほうら、全然平気じゃない!」
 ナナは再び恥かしさに真っ赤になる。
「……でも、このスーツはオーダーメイドになってるんです。サイズが合うかどうか……」
「わたしとナナさんって似てるじゃない? だから大丈夫、問題ないわ」
「そうですか……」ナナは諦めたようにため息をついた。「じゃあ、どうぞ着て下さい……」
 逸子はナナに背を向け、うきうきしながらハンガーからファスナーが下がって前開きになった繋ぎ状のスーツを外し、持ち上げた。
「わあ、すごく軽いのね」逸子はスーツの内外を触りながらつぶやく。「これは、今の時代にはない新発見の素材だわね」
 逸子はふんふんと鼻歌を歌いながら、左脚右脚の順でスーツに脚を通す。そして、両脚を開いてずり落ちないようにすると、両手でミニスカートの脇ホックを外し、ぱっとスカートを床に放った。一枚の布になったスカートはひらひらと床に落ちた。それから、スーツのファスナーを腰辺りまで上げる。
 次いで逸子はTシャツを脱いだ。滑らかな背中がナナに向いている。素早く両腕をスーツの腕に通す。それが終わるとファスナーを首元まで引き上げた。
「どう? 女性捜査官の印旛沼逸子よ!」逸子はナナに振り返った。その表情は得意気だ。「思った通りぴったりよ。……ただ、ちょっとだけ腰回りと胸回りがきついかな……」
「それは逸子さんの方が発育が良いって事ですよ……」
 見事なほどにからだのラインが強調されている。確かに腰と胸がはち切れそうだった。それにしてもよく似合っている。
「……逸子さんの方がタイムパトロールに向いていますね」
 ナナは素直に言った。
「あらそう?」逸子は嬉しそうだ。「……このスーツって動き易そうね」
 逸子は言うと、素早く突きと蹴りを繰り出した。風邪を繰る音が凄まじい。
「うん、気に入ったわ!」逸子は大きくうなずいた。「……さ、外で待っているお兄様を呼びましょう!」


つづく


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