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大怪獣オチラ 伍

2007年10月14日 | 大怪獣 オチラ(全六話完結)
 田中の出した結論はこうだった。
「オチラは人類の生活環境の安定した場所を攻撃する」
 つまり、オチラは清潔で衛生的な環境を嫌い破壊すると言う説である。田中はこの説をオチラの被害で入院している恩師の佐藤博士に伝えた。佐藤博士は田中の説に賛意を示し、公表を薦めた。
 田中は説を小論文の形のまとめ、オチラの被害後は細々と不定期に発行していた「朝田新聞」に発表した。
 この日本語で書かれた小論文を読んだ海外の在日特派員たちは、人類はオチラに勝つとの見出しを掲げ、我れ先にと自国へ伝えた。そのためにこの説はたちどころに世界を駆け巡る事となった。
 清潔さや衛生面への不満は確かにあるが、それでオチラの恐怖から逃れられるのであれば、選択するに値するものとして人々は田中説を喜んで迎えた。主要国の対オチラの軍事的行動を批判したデモ隊も、武器なしでオチラを封じ込められると田中説を旗印として活動に拍車をかけた。
 しかし、それら主要国は、田中説は間違っており、清潔さや衛生面を犠牲にしたところでオチラには何ほどの影響も与えないと言う、生物学界の重鎮ヤンゲルホーヘン博士の説を採用し反論をした。
 だが、ヤンゲルホーヘン博士は、単に、一日本人の若造が重鎮の自分を差し置いて注目されたのが気に入らないと言う理由だけで自説を捏造した事が発覚し、主要国は直ちにヤンゲルホーヘン博士の説を撤回し田中の説を取り入れた。そして、デモ隊との交渉の結果、軍事的行動を慎む旨を約束し、デモ隊も解散を宣言した。
「オチラ・カトリックス」は、神オチラを地中に封じ込めるような説を唱えた田中とそれを支持する者たちへの暗殺命令を「オチラの盾」に出した。
 だが、「オチラの盾」の成員も含め多くの信者たちは、人によって封じ込められる存在が神なのかとの疑問、また、教団内部の権力争いへの失望などから、棄教する者たちが増加し、暗殺命令は頓挫した。「オチラ・カトリックス」はこの後、ヘガテモリフェーラ一世が対抗勢力の一派に暗殺されたのを期に急速に衰退していった。
 人々は田中の説を受け入れたが、清潔さや衛生面をどれほど犠牲にすればよいのかは判然としていなかった。説の提唱者の田中自身も、破壊程度の少ない地域のそれらに一定の基準が確認できない事を素直に認めていた。そのため、某先進国はオチラの被害のない発展途上国を手本しようと使節団を送り込んだ。
 だが、使節団の差別意識むき出しの横柄な態度に立腹した発展途上国側は使節団を拘束し処刑した。この事件を契機に発展途上国陣営は団結し一切の使節団の入国を拒否し、先進国陣営との対立を深める事となった。
 そこで人々は個人の判断を頼らざるを得なくなった。
 ある者は衣服を洗わない、ある者は風呂に入らない、糞尿を道路に撒く者が現れたり、家の中にごみを溜め込む者もいた。オチラが現れると、その地域の住民たちは清潔すぎると非難され、人類の敵とまで罵られた。メディアは快適な不潔さやぎりぎりの不衛生な生活様式などを提案し始め、徐々に人々がそのような環境に慣れて行くよう促し始めた。

次回「大怪獣オチラ 六」の結末を待て!

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