コーイチは胸を張った。
おうっ、こちとらぁ、まな板の上の鯉でぇ! 矢でも鉄砲でも持って来やがれってんでぇ!
コーイチは腕をぐぐっと組んで廊下にあぐらをかいてどっかと座り込み、清水林谷印旛沼の三人をぐっと睨みつけた。その様子を見た三人は一歩後ろへ下がった。
どうでぇ、ボクは、その気になりゃぁ、恐えぇんだぜ! コーイチは鼻息を荒くした。
しかし、三人とも含み笑いをしている。
「あらあら……」
清水は口元に手をやり笑っていない目を細め始めた。
「おやおや……」
林谷は両手を広げ肩をすくめ頭を左右に振り始めた。
「やれやれ……」
印旛沼は困ったものだと言う様に頭を軽く掻き始めた。
「えっ?」
コーイチは三人の反応にあわて始めた。コーイチの開き直った強気の態度に三人とも恐れをなして逃げて行くか、許しを請うかすると思っていたのだが…… コーイチは不安そうな顔で反対側の三人を見た。
殺し屋の銃の撃鉄が再び起こされ、死神の鎌が何度も空を切り裂き、手品師の青龍刀が怪しく光った。
突然、手品師はリンゴの最後の一切れの乗った白い皿を宙に放った。落ちてきた皿をつかむと、それは黒いビロードのマントになっていた。手品師はコーイチに向かってにっこりと微笑んだ。コーイチがつられて微笑み返すと、不意にマントをコーイチ目掛けて投げ出した。立ち上がる暇も無くコーイチは頭からマントをすっぽりとかぶってしまった。
コーイチはマントを取ろうともがいたが、マントはびくともしない。それどころか、段々と重くなって来る様だった。
まな板の上の鯉どころか、マントの中のコーイチじゃないか!
コーイチは真っ暗闇のマントの中でさらにもがいた。
「コーイチ君。私の仲間にならないなんて、残念だわ。ノートを使ったのに……」
清水の声がした。
「コーイチ君。僕の仲間にならない事を残念に思うよ。ノートを使ったのにね……」
林谷の声がした。
「コーイチ君。せっかくの国際裏手品師機構の誘いを断るとは、とても残念だ。ノートを使っておきながらねぇ……」
印旛沼の声がした。
コーイチは動きを止めた。なんとなくいやぁな予感を胸によぎらせた。
そしてまた、右手に銃を持ち左手に鎌を持ち背中に青龍刀を背負い、犬歯をむき出しにして下あごをカチカチ鳴らし、白いミニドレスを着た自分の姿を浮かべた。
鯉よりはいいかと思い「やはり皆様のお仲間になります」と返事をしようとしたが、重くなっていくマントに押しつぶされそうになり、声が出せなかった。
うごうごうごとコーイチがもがいていると、三人の声がそろって聞こえてきた。
「さようなら!」
コーイチはまた動きを止めた。心臓の音が耳元で鳴っている。額を伝わる汗が冷たくなっている。息が荒くなる。目を開いても閉じても真っ暗闇だった。
突然、ドラムロールが流れ出した。
「スリー!」
手品師の可愛い声が聞こえた。
銃の撃鉄が起こされる音が二つ鳴った。
「トゥー!」
手品師の可愛い声が再び聞こえた。
鎌をぶんぶん振り回す音と低いぶつぶつと何か唱えている女の声がする。
「ワン!」
手品師の可愛い声が強くなった。
ドラムロールが高まった。わっ、これじゃ、鎌でも鉄砲でもだ!
「ゼロ!」
これは印旛沼の声だった。
ジャン! とシンバルを強く叩く音が響いた。
「どわぁぁぁぁぁぁ!!!」
コーイチは断末魔の叫びを上げた。
つづく
おうっ、こちとらぁ、まな板の上の鯉でぇ! 矢でも鉄砲でも持って来やがれってんでぇ!
コーイチは腕をぐぐっと組んで廊下にあぐらをかいてどっかと座り込み、清水林谷印旛沼の三人をぐっと睨みつけた。その様子を見た三人は一歩後ろへ下がった。
どうでぇ、ボクは、その気になりゃぁ、恐えぇんだぜ! コーイチは鼻息を荒くした。
しかし、三人とも含み笑いをしている。
「あらあら……」
清水は口元に手をやり笑っていない目を細め始めた。
「おやおや……」
林谷は両手を広げ肩をすくめ頭を左右に振り始めた。
「やれやれ……」
印旛沼は困ったものだと言う様に頭を軽く掻き始めた。
「えっ?」
コーイチは三人の反応にあわて始めた。コーイチの開き直った強気の態度に三人とも恐れをなして逃げて行くか、許しを請うかすると思っていたのだが…… コーイチは不安そうな顔で反対側の三人を見た。
殺し屋の銃の撃鉄が再び起こされ、死神の鎌が何度も空を切り裂き、手品師の青龍刀が怪しく光った。
突然、手品師はリンゴの最後の一切れの乗った白い皿を宙に放った。落ちてきた皿をつかむと、それは黒いビロードのマントになっていた。手品師はコーイチに向かってにっこりと微笑んだ。コーイチがつられて微笑み返すと、不意にマントをコーイチ目掛けて投げ出した。立ち上がる暇も無くコーイチは頭からマントをすっぽりとかぶってしまった。
コーイチはマントを取ろうともがいたが、マントはびくともしない。それどころか、段々と重くなって来る様だった。
まな板の上の鯉どころか、マントの中のコーイチじゃないか!
コーイチは真っ暗闇のマントの中でさらにもがいた。
「コーイチ君。私の仲間にならないなんて、残念だわ。ノートを使ったのに……」
清水の声がした。
「コーイチ君。僕の仲間にならない事を残念に思うよ。ノートを使ったのにね……」
林谷の声がした。
「コーイチ君。せっかくの国際裏手品師機構の誘いを断るとは、とても残念だ。ノートを使っておきながらねぇ……」
印旛沼の声がした。
コーイチは動きを止めた。なんとなくいやぁな予感を胸によぎらせた。
そしてまた、右手に銃を持ち左手に鎌を持ち背中に青龍刀を背負い、犬歯をむき出しにして下あごをカチカチ鳴らし、白いミニドレスを着た自分の姿を浮かべた。
鯉よりはいいかと思い「やはり皆様のお仲間になります」と返事をしようとしたが、重くなっていくマントに押しつぶされそうになり、声が出せなかった。
うごうごうごとコーイチがもがいていると、三人の声がそろって聞こえてきた。
「さようなら!」
コーイチはまた動きを止めた。心臓の音が耳元で鳴っている。額を伝わる汗が冷たくなっている。息が荒くなる。目を開いても閉じても真っ暗闇だった。
突然、ドラムロールが流れ出した。
「スリー!」
手品師の可愛い声が聞こえた。
銃の撃鉄が起こされる音が二つ鳴った。
「トゥー!」
手品師の可愛い声が再び聞こえた。
鎌をぶんぶん振り回す音と低いぶつぶつと何か唱えている女の声がする。
「ワン!」
手品師の可愛い声が強くなった。
ドラムロールが高まった。わっ、これじゃ、鎌でも鉄砲でもだ!
「ゼロ!」
これは印旛沼の声だった。
ジャン! とシンバルを強く叩く音が響いた。
「どわぁぁぁぁぁぁ!!!」
コーイチは断末魔の叫びを上げた。
つづく
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