「コーイチ、床なんぞに転がっている場合ではないぞ」ケーイチが呆れたように言う。「そんな事をしている間に、また別の連中が来るかもしれない」
「……一体、何をしに来るんだろう……」
「それは分からない。分からないが、連中はコーイチ、お前を狙っているのは確かだ」
「そんなぁ……」コーイチは悲しそうにつぶやいた。が、急に表情が明るくなった。何かを思いついたようだ。「そうだ! ぼくじゃなくて、兄さんがコーイチって事にしてしまえば良いんだよ! 兄さんならタイムマシンに詳しいし」
「……コーイチ……」ケーイチはむっとした顔をする。「甘えは兄を売るつもりなのか? 兄の身よりも自分の身の方が大切なのか? 連中に何をされるかわからないって言うのに、兄に身代わりになれって言うのか? 子供のころ、お前が嫌いだったピーマンが食卓に上ると食べてやったじゃないか。逆に、お前の好きだったイカリングをやったじゃないか」
「それは、兄さんがピーマンが好きで、イカリングが苦手だったからじゃないか!」
「お前に勉強を教えてやったじゃないか」
「国語を教えてほしいとか、社会を教えてほしいとか言っても、教えてくれたのは算数や理科ばっかりだったじゃないか。それも難しすぎて分からないような事ばっかりをさ。分からないからって言っても、ずっとしゃべっていたじゃないか」
「オレに国語や社会を聞く方が間違っているんだ。お前は兄を理解していない」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いて……」逸子が割って入った。「それに、コーイチさん、お兄様と入れ替わるなんて無理な話よ」
「え? それじゃ、逸子さんはぼくを見捨てるのかい?」
「そうじゃないわ」逸子が諭すように言う。「連中はコーイチさんのアパートに現われたのよ。と言う事は、遅かれ早かれ、コーイチさんが特定されちゃうわ。相手は未来人よ。その気になれば、コーイチさんの特定なんてちょちょいのちょいだわ」
「ちょちょいのちょい……」
「そうだぞ、コーイチ。未来人がどんな科学力を持っているのかは未知数だ。もう今頃は、さささのすすすで特定されているはずだ」
「さささのすすす……」
「その可能性は大きいわ……」
「じゃあ、どうすればいいんだよう…… 諦めろって言うのかい……」
「そうは言わん。そうは言わんが…… ちと覚悟はしておいた方が良いかもな」
「そんなぁ……」
コーイチはすっかり立ち上がれなくなって、ぶつぶつと何やら呟き始めている。
「大丈夫よ、コーイチさん」逸子がコーイチの隣に座って、笑顔を向けた。「科学の力は凄いかも知れないけど、体力はからっきしだわ」
「でも、アツコとか言う娘もいたよ……」
「あれは特別よ」逸子がむっとし顔で押入を見つめた。「あんなのはそうそう居ないわよ」
「じゃあ……」
「ええ、今日は泊まり込みでコーイチさんを護衛するわ」
「え? 泊まる?」コーイチは急にあたふたし始めた。「そ、そんな急な…… 布団一組しかないし…… 枕も一つしかないし…… パジャマもぼく用のしか無いぞ……」
「もう、何を言っているのよ! いやなコーイチさん!」逸子は真っ赤になってコーイチの背中を叩いた。コーイチは壁まで飛んで行った。「泊まり込って言っても、寝ないで見張っているって事よ!」
「そうか、そうだよね……」
ほっとしたような残念なようなコーイチだった。不意にケーイチが立ち上がった。
「よし、そう言うことなら、オレも泊まろう!」ケーイチは二人を見る。「もし連中がタイムマシンの話をしてきたら、オレが相手になってやろう!」
「さすが、お兄様! それが良いですわ! 力にはわたしが、知能にはお兄様が」逸子は隣に戻ってきたコーイチの背中をまた叩いた。コーイチはまた壁まで飛んで行った。「良かったわね、コーイチさん。これで鉄壁よ!」
ケーイチと逸子はきゃいきゃいと喜んでいる。
倒立したような格好で壁に貼り付いているコーイチは、安心したような不安なような笑みを浮かべながら、はしゃぐ二人を見ていた。
つづく
「……一体、何をしに来るんだろう……」
「それは分からない。分からないが、連中はコーイチ、お前を狙っているのは確かだ」
「そんなぁ……」コーイチは悲しそうにつぶやいた。が、急に表情が明るくなった。何かを思いついたようだ。「そうだ! ぼくじゃなくて、兄さんがコーイチって事にしてしまえば良いんだよ! 兄さんならタイムマシンに詳しいし」
「……コーイチ……」ケーイチはむっとした顔をする。「甘えは兄を売るつもりなのか? 兄の身よりも自分の身の方が大切なのか? 連中に何をされるかわからないって言うのに、兄に身代わりになれって言うのか? 子供のころ、お前が嫌いだったピーマンが食卓に上ると食べてやったじゃないか。逆に、お前の好きだったイカリングをやったじゃないか」
「それは、兄さんがピーマンが好きで、イカリングが苦手だったからじゃないか!」
「お前に勉強を教えてやったじゃないか」
「国語を教えてほしいとか、社会を教えてほしいとか言っても、教えてくれたのは算数や理科ばっかりだったじゃないか。それも難しすぎて分からないような事ばっかりをさ。分からないからって言っても、ずっとしゃべっていたじゃないか」
「オレに国語や社会を聞く方が間違っているんだ。お前は兄を理解していない」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いて……」逸子が割って入った。「それに、コーイチさん、お兄様と入れ替わるなんて無理な話よ」
「え? それじゃ、逸子さんはぼくを見捨てるのかい?」
「そうじゃないわ」逸子が諭すように言う。「連中はコーイチさんのアパートに現われたのよ。と言う事は、遅かれ早かれ、コーイチさんが特定されちゃうわ。相手は未来人よ。その気になれば、コーイチさんの特定なんてちょちょいのちょいだわ」
「ちょちょいのちょい……」
「そうだぞ、コーイチ。未来人がどんな科学力を持っているのかは未知数だ。もう今頃は、さささのすすすで特定されているはずだ」
「さささのすすす……」
「その可能性は大きいわ……」
「じゃあ、どうすればいいんだよう…… 諦めろって言うのかい……」
「そうは言わん。そうは言わんが…… ちと覚悟はしておいた方が良いかもな」
「そんなぁ……」
コーイチはすっかり立ち上がれなくなって、ぶつぶつと何やら呟き始めている。
「大丈夫よ、コーイチさん」逸子がコーイチの隣に座って、笑顔を向けた。「科学の力は凄いかも知れないけど、体力はからっきしだわ」
「でも、アツコとか言う娘もいたよ……」
「あれは特別よ」逸子がむっとし顔で押入を見つめた。「あんなのはそうそう居ないわよ」
「じゃあ……」
「ええ、今日は泊まり込みでコーイチさんを護衛するわ」
「え? 泊まる?」コーイチは急にあたふたし始めた。「そ、そんな急な…… 布団一組しかないし…… 枕も一つしかないし…… パジャマもぼく用のしか無いぞ……」
「もう、何を言っているのよ! いやなコーイチさん!」逸子は真っ赤になってコーイチの背中を叩いた。コーイチは壁まで飛んで行った。「泊まり込って言っても、寝ないで見張っているって事よ!」
「そうか、そうだよね……」
ほっとしたような残念なようなコーイチだった。不意にケーイチが立ち上がった。
「よし、そう言うことなら、オレも泊まろう!」ケーイチは二人を見る。「もし連中がタイムマシンの話をしてきたら、オレが相手になってやろう!」
「さすが、お兄様! それが良いですわ! 力にはわたしが、知能にはお兄様が」逸子は隣に戻ってきたコーイチの背中をまた叩いた。コーイチはまた壁まで飛んで行った。「良かったわね、コーイチさん。これで鉄壁よ!」
ケーイチと逸子はきゃいきゃいと喜んでいる。
倒立したような格好で壁に貼り付いているコーイチは、安心したような不安なような笑みを浮かべながら、はしゃぐ二人を見ていた。
つづく
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