お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」26

2022年08月27日 | コーイチ物語 1 3) コーイチとゆかいな仲間たち 1  
 とぼとぼと駅へと向かう。
 コーイチは周りを見た。
 路面に目を落としたまま黙々と急ぎ足で歩く白髪交じりの男性。自転車をふらふらさせながらこいでいる若い女性。グループになって楽しそうに歩いている女子高生。夜遊びの帰りなのかまぶしそうに目をしょぼつかせながら向こうから歩いてくる若い男性。……ああ、いつもの通勤風景だ。でも、こんな中でもいつもとは違っている人もいるのだろうか、ボクのように…… あんなヘンなノートなんかを拾ってしまったみたいな……
 コーイチはため息をついた。ふと靴下を持って歩いていた事に気が付いた。あのおばさん袋に入れてくれなかったんだ。仕方ないなぁ、ま、いいか、駅のトイレで履いてしまえ。コーイチは靴下をぐるぐると振り回しながら歩いた。
 駅の改札へ向かう長い階段をいつものように階段の端を手すりをつかみながら上る。コーイチは階段の真ん中をすたすたと上って行く人にある種の敬意を持ってしまう。一度試してみたが、次第次第に端へと追いやられ気が付くと手すりをつかんで立っていた。ボクには生涯階段の真ん中を歩くことはできないだろうな。あんなヘンなノートまで拾ってしまうくらいだもんな……
 改札を抜け、いつもの通り一番ホームの後方へと階段を下りた。ホームに立ってからトイレへ行くつもりだったことを思い出した。ま、いいか。どうせ、あんなヘンなノートまで拾ってしまうくらいだもんな…… 
 向かい側のホームには、漫画雑誌を舐めるように読んでいる、つんつるてんの背広を着た黒縁眼鏡の若い太った男が立っていた。
 同じホームの少し離れた所には、隙のないきりっとスーツにスラックス姿のどこから見ても完璧な、もうすぐ三十路っぽいキャリアウーマンが立っていた。
 その横には毎日くたびれきった顔をしている中年の男性が新聞を読みながらぶつぶつ何か言っていた。
 皆いつもと同じだなぁ…… そりゃあ、多少は色々とあるのかもしれないけど、ボクほどの目に遭ってはいないだろう。なにしろ、あんなヘンなノートを拾ってしまったんだもんな……
 コーイチは小さくため息をつくと、ホームに滑り込んできた電車に、いつものように後ろから押し込まれながら乗り込んだ。
 しかし、そんなコーイチの様子をじっと見つめている視線がある事を、コーイチ自身も気が付いてはいなかった。

    つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 「秘密のノー... | トップ | コーイチ物語 「秘密のノー... »

コメントを投稿

コーイチ物語 1 3) コーイチとゆかいな仲間たち 1  」カテゴリの最新記事