「……地下の貯蔵庫は」トランはマーベラを伺いながら話し始める。マーベラはジェシルときゃあきゃあしている。「かなり広かったですね。事前に照明器具が持ち込まれていました」
「博士が準備に手を回してくれたのかねぇ?」ジャンセンはつぶやく。「ぼくの時はそんな事は一度もなかったなぁ……」
「照明を点けると隅々まで明るくなりました。姉さんは、さすがマスケード博士だわって喜んでいましたね」
「それで、君たちは何を探しに来たんだい?」
「隅々まで探索し、何か気がついたものでもあれば回収するようにと言う指示でした」
「大雑把な指示だねぇ。いつもそんな感じなのかい?」
「いえ、いつもは具体的です。だから、珍しい事だなぁとは思いました」トランはマーベラを見る。「……姉さんは、それだけわたしたちを信頼してくれているのよって、張り切っていました」
「まあ、らしい話だね」ジャンセンもマーベラを見る。「お宝ハンターとしても名を馳せているからな、マーベラは……」
「実は、さっきも言いましたけど、姉さんは指定されたものを回収し、ぼくがその他の金目の物を回収していたんです」
「じゃあ、真のお宝ハンターはトラン君って事か」
「ええ、まあ……」トランは照れくさそうに笑む。「でも、姉さんに誉れが期すれば、ぼくはそれで満足ですから……」
「そうかい、そこは麗しい姉弟愛って事にしておこう」ジャンセンは言う。「で、何か見つかったのかい?」
「特には無かったんです」トランは訝しそうな顔で答える。「ジャンセンさんが言ったように、古代マリジャ王国って、かなりの辺境宙域にあって、まだ言語が残されていない時代の王国で、文明らしきものも残されていなかったんです。そんな所に何があるんだろうと、出発前から思っていたんですが、思った通りでした……」
「博士は何を考えていたんだろう……?」ジャンセンはきゃあきゃあ言い続けている二人を見ながらつぶやく。「ひょっとして、もうろくしたとか……」
「いえ、そんな事はなかったですよ。いつも通り、かくしゃくとしていました」
「じゃあ、本当に君たちに期待をしていたのかねぇ?」
「姉さんはそう言って張り切っていましたね」トランはため息をつく。「ぼくも金目のものが無いか探したんですけど、全く見つからなかったんです……」
「無駄足って感じだねぇ……」
「ええ、ぼくもそう思って調査をやめようとしたんです。そうしていたら、姉さんがさらに下の階への通路を見つけたんですよ」
「地下二階って事?」
「そうです。貯蔵庫の隅に荷物がうずたかく積まれたところがあって、それらを退けたら石造りの階段が現われたんです。姉さんは大発見とばかりに飛び込んで行きました」
「槍だの落とし穴だのの罠があるかもしれないじゃないか」ジャンセンはジェシルの屋敷でのことを思い出して言った。「大丈夫だったのかい?」
「まあ、貯蔵庫でしたから、問題はありませんでした」
「それは良かった……」
「それで、地下二階ですが……」トランはまた訝しそうな顔をする。「上の階と同じような広さだったんですけど、物がほとんどなくって、等身大の人型の木型とドアの付いていないドア枠みたいなのがあったんです……」
「木型……?」ジャンセンはきゃあきゃあしている二人を見る。「その木型は、デスゴンの衣装を着ていたのかい?」
「そうです。良くお分かりですね」
「ぼくもジェシルの屋敷の地下でアーロンテイシアの衣装を着けた木型を見つけたんだ」ジャンセンはため息をつく。「ぼくがあちこち調べている間に、ジェシルがそれを着ちゃったんだけどね」
「ぼくの時もそうです……」トランもため息をつく。「せめて何かないかと探っていたら、いきなり姉さんが呼びかけて来て振り返るとデスゴンの衣装を着ていたんです。いつもはケガとかに注意しているから長袖長ズボンなのに、いきなりあんな露出の多い恰好をしたので、ぼくは驚きました」
「と言う事は、やっぱり衣装自体の神性が二人を呼び寄せたって事のようだ」
「その時は、驚きましたが気にはしませんでした。それよりもドア枠が気になりました」
「アズマイック杉の蒸し焼きで、外観は今から数千年前のドア枠って感じで、魔物が好む赤色だったんだろう?」
「そうです。どうしてご存じなんですか?」そう言ってから、トランがはっと気がつく。「ジャンセンさんにも同じ事が……?」
「そうなんだよ」ジャンセンはうなずく。「それを調べると木枠の中身がゼライズ鉱製で、その中に何やら機械が詰め込まれているらしい。これはジェシルの意見なんだけどね」
「じゃあ、過去のものではありませんね!」トランは驚いた顔で答える。「でも、どうしてそんな物が古代マリジャ王国の貯蔵庫に……?」
「同じ疑問をぼくも持った。でもね、その枠に吸い込まれちゃったんだ。……そうしたらここに来ていた」
「ぼくたちもそうです。ドア枠を調べようとしたら、姉さんがいきなり枠の中に踏み込んで…… いきなり吸い込まれ始めたので、ぼくが引き戻そうとしたんですが、結局は二人とも吸い込まれて、ここに来ました」
「君たちが行方不明になったのそれが原因だったんだねぇ」ジャンセンがうなずく。それから、はっとする。「……て事は、今はぼくとジェシルが行方不明って事じゃないか!」
つづく
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