「何よ、偉そうに!」アツコはタロウに向かって口を尖らせる。「あなたなんか、はるか向こうの山まで弾き飛ばしてやるわ!」
「邪魔したわけじゃない」タロウは言う。「二人で乗り込めば、確かに山賊は全滅するだろうけど、コーイチ……さん(呼び捨てにすると二人にぎろりとにらまれ、あわてて付け足した)が、どうなるか考えたか?」
「どうって?」
「悪人が良く使う手で、『こいつの命が惜しければ大人しくしろ』なんて感じで、コーイチさんを利用されてしまうかもしれない」
「ふ~ん……」アツコは言う。「そう言う事もあるかも……」
「もし、連中が逃げ出したとして、ヤツらがばらばらに逃げ出せば、追いかけるのは難しい。だが、ああいうやつらはそんな場合の集合場所を決めている」
「でも、そうなれば、コーイチさんを置いて行っちゃうでしょ?」逸子がにこりと笑んで言う。「わたしたちの目的は、コーイチさんを取り返すことだから、別にいいじゃない?」
「でもね、山賊なんてのは、すぐに体制を整えて、また悪さを繰り返すものさ」タロウは言う。「コーイチさんを取り返して、はい、おしまいで、良いんだろうか?」
「何が言いたいの、タロウさん?」
「どうせなら、コーイチさんも取り戻し、山賊も叩き潰す、ってのが良いと思うんだよね」
「まあ! 勇ましい事!」アツコが笑う。「じゃあ、山賊はタロウに任せるわ。わたしたちはコーイチさん取り返しに全力を挙げるから」
「いや、それは……」タロウがあわてたように言う。「そりゃあ、無理だよ。二人がいるから考えてみようって思ったんだから…… それにさ……」
「それに何よ?」
「いや、良いや……」
「良くないわよ、タロウさん。はっきり言ってよ」
「今は、その、コーイチさん有りきの話なんだけどさ…… その、万が一って事も…… その時は弔い合戦のつもりで二人に大暴れしてもらって……」
「何ですってぇぇぇぇ!」
逸子とアツコは同時に叫んだ。二人の全身からオーラが噴き上がる。
「ボクだって、これが杞憂であってほしいと思っているさ」タロウは表情を変えない。「だから、様子を確認してから、どうするかを考えた方が良い」
「様子を確認って……」
「良いかい、アツコ。まずはコーイチさんの安否確認。それから敵の人数や武器の種類……まあ、この点は二人がいれば何人居ようが何を使って来ようが問題ないと思うから、気にはしていないけどさ」
「わたしたちは最終兵器じゃないわ!」アツコが文句を言う。逸子もうなずく。「それに、コーイチさんに何かあるなんて考えられないわ。うわ~って襲って、コーイチさんを取り返せば良いのよ」
「そうは思うけど、襲いかかった際に、足手まといとばかりに、コーイチさんに万が一な事があったら大変だろう?」
「それは、そうだけど……」不意にアツコは意地悪な目つきになった。「あなた、コーイチさんにやきもち焼いて、そんな事を言っているんじゃないでしょうね?」
「アツコ、変な事を言うなよ!」タロウはむっとする。「ボクはもう逸子さん心が行っているんだ」
「あら、ダメよ、タロウさん」逸子があわてて言う。「ずっと言っているけど、わたしはコーイチさん一筋なんだから、他の誰も入り込めないわ」
「ええ、それは分かっています……」タロウは淋しそうな笑みを浮かべ、逸子を見る。「ボクは逸子さんの喜ぶ顔が見たいんです。それがコーイチさんといる時の逸子さんなら、それで良いんです。ボクは表に立たず裏で動いた方が本領を発揮できるみたいだから……」
「タロウさん……」逸子はタロウの言葉に涙ぐむ。「そこまでわたしの事を思ってくれていたのね…… 分かったわ。わたしはコーイチさんと、うんと幸せになって、あなたに、わたしの喜ぶ顔を見てもらうわね」
「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!」アツコが割って入る。「勝手に話を進めないでよ! わたしだって、コーイチさんと幸せになりたいんだから!」
「勝手な話じゃないわ……」逸子が諭すようにアツコに言う。「わたしとコーイチさんとの真実な愛の話よ……」
「ふざけないで!」
「ふざけてないわ!」
二人はにらみ合う。不穏な風が四方から二ふたりに集まり始める。
「おや、あれは?」
タロウが言って、掘っ立て小屋の方を指差した。逸子とアツコも小屋の方を見た。
一番大きな小屋から、遠目でもわかる、厳つくて大柄な男が出て来た。周りの男たちが頭を下げている。
「あれが、十郎丸ね……」逸子は言いながら、指をぽきぽきと鳴らした。「思い知らせてやるわ…… あっ!」
十郎丸に続いて、青いつなぎを着たコーイチが現われた。
「コ……!」大声で叫びそうになった逸子はあわてて自分の口を押さえた。目から大粒の涙が溢れ、ほほを伝った。「あああ、コーイチさん…… 無事だった…… コーイチさん……」
「ね? 大丈夫だったでしょ?」アツコがタロウに言う。強気な表情をしているが、目に涙を溜め、声が震えている。「言ったとおりでしょ?」
「ああ、そうだね……」タロウは言う。「命はあるようだね。良かったよ……」
「そうと分かれば、後は簡単ね」アツコはにやりと不敵な絵にを浮かべる。「さっきも言ったけど、うわ~って襲って、コーイチさんを取り返せば良いのよ…… ね? 姐さん?」
アツコはそう言うと、逸子を見る。逸子は手の平で涙を拭うと、アツコに負けないくらいに不敵な笑みを浮かべた。
「そうね、お嬢……」
つづく
「邪魔したわけじゃない」タロウは言う。「二人で乗り込めば、確かに山賊は全滅するだろうけど、コーイチ……さん(呼び捨てにすると二人にぎろりとにらまれ、あわてて付け足した)が、どうなるか考えたか?」
「どうって?」
「悪人が良く使う手で、『こいつの命が惜しければ大人しくしろ』なんて感じで、コーイチさんを利用されてしまうかもしれない」
「ふ~ん……」アツコは言う。「そう言う事もあるかも……」
「もし、連中が逃げ出したとして、ヤツらがばらばらに逃げ出せば、追いかけるのは難しい。だが、ああいうやつらはそんな場合の集合場所を決めている」
「でも、そうなれば、コーイチさんを置いて行っちゃうでしょ?」逸子がにこりと笑んで言う。「わたしたちの目的は、コーイチさんを取り返すことだから、別にいいじゃない?」
「でもね、山賊なんてのは、すぐに体制を整えて、また悪さを繰り返すものさ」タロウは言う。「コーイチさんを取り返して、はい、おしまいで、良いんだろうか?」
「何が言いたいの、タロウさん?」
「どうせなら、コーイチさんも取り戻し、山賊も叩き潰す、ってのが良いと思うんだよね」
「まあ! 勇ましい事!」アツコが笑う。「じゃあ、山賊はタロウに任せるわ。わたしたちはコーイチさん取り返しに全力を挙げるから」
「いや、それは……」タロウがあわてたように言う。「そりゃあ、無理だよ。二人がいるから考えてみようって思ったんだから…… それにさ……」
「それに何よ?」
「いや、良いや……」
「良くないわよ、タロウさん。はっきり言ってよ」
「今は、その、コーイチさん有りきの話なんだけどさ…… その、万が一って事も…… その時は弔い合戦のつもりで二人に大暴れしてもらって……」
「何ですってぇぇぇぇ!」
逸子とアツコは同時に叫んだ。二人の全身からオーラが噴き上がる。
「ボクだって、これが杞憂であってほしいと思っているさ」タロウは表情を変えない。「だから、様子を確認してから、どうするかを考えた方が良い」
「様子を確認って……」
「良いかい、アツコ。まずはコーイチさんの安否確認。それから敵の人数や武器の種類……まあ、この点は二人がいれば何人居ようが何を使って来ようが問題ないと思うから、気にはしていないけどさ」
「わたしたちは最終兵器じゃないわ!」アツコが文句を言う。逸子もうなずく。「それに、コーイチさんに何かあるなんて考えられないわ。うわ~って襲って、コーイチさんを取り返せば良いのよ」
「そうは思うけど、襲いかかった際に、足手まといとばかりに、コーイチさんに万が一な事があったら大変だろう?」
「それは、そうだけど……」不意にアツコは意地悪な目つきになった。「あなた、コーイチさんにやきもち焼いて、そんな事を言っているんじゃないでしょうね?」
「アツコ、変な事を言うなよ!」タロウはむっとする。「ボクはもう逸子さん心が行っているんだ」
「あら、ダメよ、タロウさん」逸子があわてて言う。「ずっと言っているけど、わたしはコーイチさん一筋なんだから、他の誰も入り込めないわ」
「ええ、それは分かっています……」タロウは淋しそうな笑みを浮かべ、逸子を見る。「ボクは逸子さんの喜ぶ顔が見たいんです。それがコーイチさんといる時の逸子さんなら、それで良いんです。ボクは表に立たず裏で動いた方が本領を発揮できるみたいだから……」
「タロウさん……」逸子はタロウの言葉に涙ぐむ。「そこまでわたしの事を思ってくれていたのね…… 分かったわ。わたしはコーイチさんと、うんと幸せになって、あなたに、わたしの喜ぶ顔を見てもらうわね」
「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!」アツコが割って入る。「勝手に話を進めないでよ! わたしだって、コーイチさんと幸せになりたいんだから!」
「勝手な話じゃないわ……」逸子が諭すようにアツコに言う。「わたしとコーイチさんとの真実な愛の話よ……」
「ふざけないで!」
「ふざけてないわ!」
二人はにらみ合う。不穏な風が四方から二ふたりに集まり始める。
「おや、あれは?」
タロウが言って、掘っ立て小屋の方を指差した。逸子とアツコも小屋の方を見た。
一番大きな小屋から、遠目でもわかる、厳つくて大柄な男が出て来た。周りの男たちが頭を下げている。
「あれが、十郎丸ね……」逸子は言いながら、指をぽきぽきと鳴らした。「思い知らせてやるわ…… あっ!」
十郎丸に続いて、青いつなぎを着たコーイチが現われた。
「コ……!」大声で叫びそうになった逸子はあわてて自分の口を押さえた。目から大粒の涙が溢れ、ほほを伝った。「あああ、コーイチさん…… 無事だった…… コーイチさん……」
「ね? 大丈夫だったでしょ?」アツコがタロウに言う。強気な表情をしているが、目に涙を溜め、声が震えている。「言ったとおりでしょ?」
「ああ、そうだね……」タロウは言う。「命はあるようだね。良かったよ……」
「そうと分かれば、後は簡単ね」アツコはにやりと不敵な絵にを浮かべる。「さっきも言ったけど、うわ~って襲って、コーイチさんを取り返せば良いのよ…… ね? 姐さん?」
アツコはそう言うと、逸子を見る。逸子は手の平で涙を拭うと、アツコに負けないくらいに不敵な笑みを浮かべた。
「そうね、お嬢……」
つづく
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