「ねえ、あなたたちの乗り物って、どんなヤツなの?」
ジェシルはケレスとミルカをに訊く。
「わたしのもケレスのも、戦闘仕様の小型宇宙船よ」ミルカが答える。ケレスはうなずく。「武器をたくさん搭載しているから、一人乗り用なのよ。……それがどうかしたの?」
「わたしの宇宙艇も一人用」ジェシルはアーセルを背中に乗せた時の事を思い出し、イヤな顔をする。「……我慢すれば、ぎりぎり二人かなぁ」
「わたしたちをこの要塞衛星から脱出させるためですね」ミュウミュウが言う。「乗り物が無いと言うのは厳しいですね……」
「ミュウミュウ……」リタが言う。「実際に必要とされているのは、お前でしょう。ならば、お前だけでも行くと良いでしょう」
「そんな! 姫…… リタ様!」ミュウミュウがリタの前の片膝を突いた。「わたくしはリタ様と一緒でなければどこにも参りません!」
「ミュウミュウ……」リタは涙ぐむ。「あなたが居なければ、わたくしは何も出来ません……」
「はいはいはいはい!」ジェシルが割って入る。むっとした顔でリタを見つめる。「あのね、自分では何も出来ないって宣言してどうするのよ? もう『姫様』じゃないんでしょ? だったら、何でも自分でやるようにして行かなきゃダメよ」
「ジェシルさん!」ミュウミュウが立ち上がり、ジェシルと対峙する。「いきなりは無理です! それに、リタ様は高齢ですし……」
「でもね、一般のおじいちゃんやおばあちゃんは、自分の事は自分でやっているわよ。それに、リタおばあちゃんは、特にからだも悪い所が無さそうだし」
「ジェシルさん!」ミュウミュウがジェシルに詰め寄る。「その呼び方は慎んでください!」
「良いのですよ、ミュウミュウ……」リタが穏やかな口調で言う。「たしかに、お前に頼り過ぎたようですね。これからは、わたくしも出来る事を増やして参りましょう」
「リタ様……」ミュウミュウは再びリタの前に片膝を突く。「何も遠慮なさらず、何なりとお申し付けください……」
ジェシルは苦笑する。ケレスとミルカも困ったと言うように頭を掻いている。
「……あのう……」ジェシルにしがみついているノラがおずおずと片手を上げる。「わたしの乗って来たのは、一般家庭用の宇宙船です。小型ですけど、四人までは乗れます……」
「あら、それは凄いじゃない!」ジェシルが言う。ノラの顔が真っ赤になった。ジェシルにはこの反応が面白い。「じゃあ、ミュウミュウとリタおばあちゃんを乗せてくれる?」
「……それは構いませんけど」ノラはミュウミュウを見る。「一般家庭用ですから、あまり乗り心地は良くないと思います……」
「気にする事はありません」そう言ったのはリタだった。それからミュウミュウを見る。「ミュウミュウも、わたくしに気を遣い過ぎないようにしなさい」
「……畏まりました……」
ミュウミュウは不満気な態で答える。
「それで、ジェシルさん」ノラが言う。「どこまで行くんですか?」
「多分、近場にオーランド・ゼムの宇宙船がいると思うのよね。そこまで行くわ」
リタは、ジェシルの言った「オーランド・ゼム」に反応し、顔をジェシルに向けた。それに気付いたジェシルはリタにウインクして見せる。リタは驚いた表情だったが、すぐに笑みを浮かべた。……リタおばあちゃん、いまだにオーランド・ゼムを慕っているようね。ジェシルの胸の奥が妙にきゅんとなった。そうなると不思議なもので、リタに対して、あれこれと手伝ってあげたくなってしまう。……『姫様』って言われるだけの人徳があるのね。ジェシルは思った。それに比べてわたしは…… とは思わないジェシルだった。
「じゃあ、準備してきますね」
ノラは言うと、ジェシルから離れ、奥の方へと駈けて行った。ノラが手を放すとよろけてしまった。しがみ付かれ慣れをしたのかと思ったが、ケガをしていた事を思い出し、制服の上から傷を触ってみる。痛みは無かった。二、三度軽く跳ねてみた。貴族らしからぬ丈夫なからだだと、ジェシルは思った。
「ジェシル、痛みは無くなったようね」ミルカが言う。「それだけ跳ねられれば心配ないわね」
「タフなヤツだな」ケレスは呆れる。「まあ、わたしと互角に戦ったんだから、タフじゃなきゃ無理か……」
「あら、最強コンビに言われるなんて、素直に喜んじゃうわ」
「あなたが加われば、最強トリオよ」ミルカがジェシルにウインクする。「どうかしら? 三人で宇宙を大暴れしない?」
「ごめんね、出来ないわ」ジェシルは謝る。「わたし、悪を相手に大暴れする方が性に合っているのよね」
「ジェシルさん!」ノラが駆け戻って来た。「準備が出来ました! いつでも出発できます!」
「ありがとう」ジェシルが答える。それから皆に向かう。「……じゃあ、ここを離れましょうか?」
「わたしとミルカは、次の雇われ先に飛ぶよ」ケレスが言う。「連絡があってね。ちょっと遠いが金になる」
「そう言う事」ミルカが笑む。「楽しかったわ。またどこかで逢えると良いわね」
「ケレスさんもミルカさんも無事でいて下さいね……」ノラが泣き出した。ミルカがノラの頭を軽くぽんぽんと叩く。「本当にお世話になりました……」
「リタ様…… で良いのかしら?」ミルカがミュウミュウの顔を見る。ミュウミュウはうなずく。「末永くお元気で。あ、もちろんミュウミュウさんもね」
「わたしも以下同文だ」ケレスが言う。「それでは……」
ケレスとミルカは各々の宇宙船に乗り込み、飛び立って行った。その姿が見えなくなった。
「……さあ、わたしたちも行きましょう」
ジェシルは言う。リタとミュウミュウはノラの先導でノラの宇宙船に乗った。ジェシルも自分の宇宙艇に腹ばいになる。
「やっとミッションコンプリートか……」
ジェシルは発進した。その後をノラが続く。
つづく
ジェシルはケレスとミルカをに訊く。
「わたしのもケレスのも、戦闘仕様の小型宇宙船よ」ミルカが答える。ケレスはうなずく。「武器をたくさん搭載しているから、一人乗り用なのよ。……それがどうかしたの?」
「わたしの宇宙艇も一人用」ジェシルはアーセルを背中に乗せた時の事を思い出し、イヤな顔をする。「……我慢すれば、ぎりぎり二人かなぁ」
「わたしたちをこの要塞衛星から脱出させるためですね」ミュウミュウが言う。「乗り物が無いと言うのは厳しいですね……」
「ミュウミュウ……」リタが言う。「実際に必要とされているのは、お前でしょう。ならば、お前だけでも行くと良いでしょう」
「そんな! 姫…… リタ様!」ミュウミュウがリタの前の片膝を突いた。「わたくしはリタ様と一緒でなければどこにも参りません!」
「ミュウミュウ……」リタは涙ぐむ。「あなたが居なければ、わたくしは何も出来ません……」
「はいはいはいはい!」ジェシルが割って入る。むっとした顔でリタを見つめる。「あのね、自分では何も出来ないって宣言してどうするのよ? もう『姫様』じゃないんでしょ? だったら、何でも自分でやるようにして行かなきゃダメよ」
「ジェシルさん!」ミュウミュウが立ち上がり、ジェシルと対峙する。「いきなりは無理です! それに、リタ様は高齢ですし……」
「でもね、一般のおじいちゃんやおばあちゃんは、自分の事は自分でやっているわよ。それに、リタおばあちゃんは、特にからだも悪い所が無さそうだし」
「ジェシルさん!」ミュウミュウがジェシルに詰め寄る。「その呼び方は慎んでください!」
「良いのですよ、ミュウミュウ……」リタが穏やかな口調で言う。「たしかに、お前に頼り過ぎたようですね。これからは、わたくしも出来る事を増やして参りましょう」
「リタ様……」ミュウミュウは再びリタの前に片膝を突く。「何も遠慮なさらず、何なりとお申し付けください……」
ジェシルは苦笑する。ケレスとミルカも困ったと言うように頭を掻いている。
「……あのう……」ジェシルにしがみついているノラがおずおずと片手を上げる。「わたしの乗って来たのは、一般家庭用の宇宙船です。小型ですけど、四人までは乗れます……」
「あら、それは凄いじゃない!」ジェシルが言う。ノラの顔が真っ赤になった。ジェシルにはこの反応が面白い。「じゃあ、ミュウミュウとリタおばあちゃんを乗せてくれる?」
「……それは構いませんけど」ノラはミュウミュウを見る。「一般家庭用ですから、あまり乗り心地は良くないと思います……」
「気にする事はありません」そう言ったのはリタだった。それからミュウミュウを見る。「ミュウミュウも、わたくしに気を遣い過ぎないようにしなさい」
「……畏まりました……」
ミュウミュウは不満気な態で答える。
「それで、ジェシルさん」ノラが言う。「どこまで行くんですか?」
「多分、近場にオーランド・ゼムの宇宙船がいると思うのよね。そこまで行くわ」
リタは、ジェシルの言った「オーランド・ゼム」に反応し、顔をジェシルに向けた。それに気付いたジェシルはリタにウインクして見せる。リタは驚いた表情だったが、すぐに笑みを浮かべた。……リタおばあちゃん、いまだにオーランド・ゼムを慕っているようね。ジェシルの胸の奥が妙にきゅんとなった。そうなると不思議なもので、リタに対して、あれこれと手伝ってあげたくなってしまう。……『姫様』って言われるだけの人徳があるのね。ジェシルは思った。それに比べてわたしは…… とは思わないジェシルだった。
「じゃあ、準備してきますね」
ノラは言うと、ジェシルから離れ、奥の方へと駈けて行った。ノラが手を放すとよろけてしまった。しがみ付かれ慣れをしたのかと思ったが、ケガをしていた事を思い出し、制服の上から傷を触ってみる。痛みは無かった。二、三度軽く跳ねてみた。貴族らしからぬ丈夫なからだだと、ジェシルは思った。
「ジェシル、痛みは無くなったようね」ミルカが言う。「それだけ跳ねられれば心配ないわね」
「タフなヤツだな」ケレスは呆れる。「まあ、わたしと互角に戦ったんだから、タフじゃなきゃ無理か……」
「あら、最強コンビに言われるなんて、素直に喜んじゃうわ」
「あなたが加われば、最強トリオよ」ミルカがジェシルにウインクする。「どうかしら? 三人で宇宙を大暴れしない?」
「ごめんね、出来ないわ」ジェシルは謝る。「わたし、悪を相手に大暴れする方が性に合っているのよね」
「ジェシルさん!」ノラが駆け戻って来た。「準備が出来ました! いつでも出発できます!」
「ありがとう」ジェシルが答える。それから皆に向かう。「……じゃあ、ここを離れましょうか?」
「わたしとミルカは、次の雇われ先に飛ぶよ」ケレスが言う。「連絡があってね。ちょっと遠いが金になる」
「そう言う事」ミルカが笑む。「楽しかったわ。またどこかで逢えると良いわね」
「ケレスさんもミルカさんも無事でいて下さいね……」ノラが泣き出した。ミルカがノラの頭を軽くぽんぽんと叩く。「本当にお世話になりました……」
「リタ様…… で良いのかしら?」ミルカがミュウミュウの顔を見る。ミュウミュウはうなずく。「末永くお元気で。あ、もちろんミュウミュウさんもね」
「わたしも以下同文だ」ケレスが言う。「それでは……」
ケレスとミルカは各々の宇宙船に乗り込み、飛び立って行った。その姿が見えなくなった。
「……さあ、わたしたちも行きましょう」
ジェシルは言う。リタとミュウミュウはノラの先導でノラの宇宙船に乗った。ジェシルも自分の宇宙艇に腹ばいになる。
「やっとミッションコンプリートか……」
ジェシルは発進した。その後をノラが続く。
つづく
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