「わああああっ! アイィィィィ!」さとみは叫ぶと、みつの下半身にしがみついた。「須藤君! ダメ! 見ちゃダメェェェ!」
「見ちゃダメって言っても……」建一がとまどいながら言う。「さとみちゃんの後ろ姿しか見えないけど……」
「お願い! ちょっとの間だけ、反対を向いていて!」
「わかった」建一は素直に従った。「……いいよ。戻って良い時に声かけて」
「アイ!」さとみは立ち上り、みつをにらむ。「すぐに手を離して! 言うこと聞いてくれないと、舎弟やめさせるわよ!」
みつは、今まで見たことのないさとみの剣幕に圧倒された。思わず、スカートを持っていた手を離した。スカートは元に戻った。
「……何があったのか知らないけれど、アイは、こんなことする人じゃないでしょ?」さとみはほっとしたのか、いつもの笑顔になった。「ダメよ、自分を見失っちゃ」
「……自分を見失うな、と……」
「そうよ。アイも色々とあるんだろうけど、わたしはいつものアイが好き。やりたくないことをやって、傷ついて、少々ヤケになっちゃうこともあるだろうけど、負けちゃダメよ!」
「……さとみ殿……」
みつは、このような恥ずかしいことをしてしまった自分への、さとみからの慰めの言葉として捉えた。心の奥底にずんと響いた。しかし、さとみは、アイのやっている読者モデルの世界でイヤな辛いことがあったのだろうと思い、励ましたのだった。
さとみの優しい眼差しにじっと見つめられ、みつのほほを、つっと涙が伝った。
「……なんとしたこと! 人前で涙とは!」みつは手で涙をぬぐう。しかし、後から後から流れてくる。「……このようなこと、初めてだ、さとみ殿……」
「『さとみ殿』なんて変な言い方しないの!」さとみは優しく叱ると、ハンカチを取り出してみつに渡した。「これで涙を拭くと良いわ。……それに、わたしの呼び方は、いつものように『さとみ姐さん』でいいからね。……須藤君、お待たせ! もうこっち向いて大丈夫よ!」
振り返った建一は、さわやかな笑みを浮かべた。建一は、何がどうなっているのかを聞かず、再びさとみと並んで歩き出した。
みつは、止まらぬ涙にさとみのハンカチを当てながら、二人の後ろ姿を見ていた。
しばらく歩いてから、さとみがてこてことみつの前に戻って来た。
「アイ……」さとみはにっこりと笑む。「わたし、怒ってなんかいないからね。いつも通りのさとみ姐さんと舎弟のアイだからね!」
さとみは、みつのお尻をぺちぺちと叩くと、建一の隣へ駆け戻って行った。
「……さとみ殿……」
建一と並んで歩くさとみの後ろ姿に、みつは深く一礼した。
つづく
「見ちゃダメって言っても……」建一がとまどいながら言う。「さとみちゃんの後ろ姿しか見えないけど……」
「お願い! ちょっとの間だけ、反対を向いていて!」
「わかった」建一は素直に従った。「……いいよ。戻って良い時に声かけて」
「アイ!」さとみは立ち上り、みつをにらむ。「すぐに手を離して! 言うこと聞いてくれないと、舎弟やめさせるわよ!」
みつは、今まで見たことのないさとみの剣幕に圧倒された。思わず、スカートを持っていた手を離した。スカートは元に戻った。
「……何があったのか知らないけれど、アイは、こんなことする人じゃないでしょ?」さとみはほっとしたのか、いつもの笑顔になった。「ダメよ、自分を見失っちゃ」
「……自分を見失うな、と……」
「そうよ。アイも色々とあるんだろうけど、わたしはいつものアイが好き。やりたくないことをやって、傷ついて、少々ヤケになっちゃうこともあるだろうけど、負けちゃダメよ!」
「……さとみ殿……」
みつは、このような恥ずかしいことをしてしまった自分への、さとみからの慰めの言葉として捉えた。心の奥底にずんと響いた。しかし、さとみは、アイのやっている読者モデルの世界でイヤな辛いことがあったのだろうと思い、励ましたのだった。
さとみの優しい眼差しにじっと見つめられ、みつのほほを、つっと涙が伝った。
「……なんとしたこと! 人前で涙とは!」みつは手で涙をぬぐう。しかし、後から後から流れてくる。「……このようなこと、初めてだ、さとみ殿……」
「『さとみ殿』なんて変な言い方しないの!」さとみは優しく叱ると、ハンカチを取り出してみつに渡した。「これで涙を拭くと良いわ。……それに、わたしの呼び方は、いつものように『さとみ姐さん』でいいからね。……須藤君、お待たせ! もうこっち向いて大丈夫よ!」
振り返った建一は、さわやかな笑みを浮かべた。建一は、何がどうなっているのかを聞かず、再びさとみと並んで歩き出した。
みつは、止まらぬ涙にさとみのハンカチを当てながら、二人の後ろ姿を見ていた。
しばらく歩いてから、さとみがてこてことみつの前に戻って来た。
「アイ……」さとみはにっこりと笑む。「わたし、怒ってなんかいないからね。いつも通りのさとみ姐さんと舎弟のアイだからね!」
さとみは、みつのお尻をぺちぺちと叩くと、建一の隣へ駆け戻って行った。
「……さとみ殿……」
建一と並んで歩くさとみの後ろ姿に、みつは深く一礼した。
つづく
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