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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第六章 備品飛び交う校長室の怪 34

2022年05月18日 | 霊感少女 さとみ 2 第六章 備品飛び交う校長室の怪
 さとみは呆然としていた。
 重く陰湿で殺伐とした空気は消えた。
 今さらのように窓から射し込む陽光が温かい。
 しかし、さとみの心は暗く、凍りついていた。表情も固まったままだ。
 アイの手を掃い、さとみは立ち上がる。床に落ちていたみつの刀と冨美代の薙刀がすうっと消えた。さとみは百合恵を見る。百合恵はさとみの視線に気がついた。
「さとみちゃん……」
 百合恵はつぶやく。さとみはぼろぼろと大粒の涙を流し、百合恵の胸に飛び込んだ。
「わあああああああっっっ!」
 さとみは百合恵の胸で泣いた。百合恵はさとみを抱きしめる。
「みんな、みんな居なくなっちゃったぁぁ!」さとみはわんわんと泣き続ける。「みんな、わたしのせいで!」
「違うわよ、さとみちゃん!」百合恵はさとみの背を優しく撫で続ける。「みんな、さとみちゃんを信じていたからよ! だから、自分を責めちゃダメ!」
「でも、でも…… わたしがもっとしっかりしていたら、みんなは、みんなは……」
 さとみはまた大声で泣き出した。
「……さとみさん」
 片岡の声がした。穏やかな声だ。さとみは泣き止んで、片岡に振り返る。それでも、まだ鼻をすんすんさせ、真っ赤になった眼から流れる涙は止まらない。そんなさとみに片岡は優しい笑みを浮かべて見せた。さとみの心が落ち着いて来る。
「百合恵さんのおっしゃる通りですよ。仲間の皆さんは、さとみさんを信じているのですよ」
「……でも、みんな……」
「さとみさん」片岡はふっと真顔になった。さとみもつられて真顔になる。「皆さんは消えて無くなったわけではありませんよ」
「え……?」
 と、金色の強い光が生じた。さとみは目を細めてその方を見る。祖母の富が立っていた。その左右に富と同じかそれよりも年齢が上の女性が立っていた。皆、着物を着ている。さとみは霊体を抜け出させた。
「おばあちゃん!」さとみは富に駈け寄り縋り付いた。改めて涙が溢れる。「わたし、わたし……」
「まあまあ、泣き虫だねぇ、さとちゃんは」冨は言いながらさとみの背中をとんとんと優しく叩く。「あのおじいさんの言っている事は正しいよ」
「おじいさんって、片岡さんの事?」落ち着いてきたさとみは富を見て言う。「みんな消えて無くなってはいないって言ってたけど……」
「そう言う事だよ、さとみ」富の右に立つ女性が言う。ちょっときつい印象がある。「わたしゃ、富の母親だよ。あんたのひいばあちゃんの静って言うんだ」
「ひいおばあちゃん……」さとみはつぶやき、富の左隣の女性を見る。何となくさとみに似ている。「じゃあ、おばあちゃんが、わたしのひいひいおばあちゃん……?」
「大当たりぃ! わたしは珠子って言うんだよ」珠子は言うと楽しそうに笑う。さとみは呆気にとられ泣いているのを忘れてしまった。「ま、さとみちゃんが無事でまずは何よりだね」
「でも、みんなが……」
「だから、違うって言っただろう?」静が言う。口調がきつい。「消えたんじゃない、連れて行かれたんだよ」
「連れて? 行かれた?」さとみはつぶやいて小首を傾げる。「意味が分からないんですけど……」
「おい、富よ」静が呆れた顔で富を見る。「……この娘、大丈夫なのかい?」
「ほっほっほ、大丈夫ですよ」冨は笑う。「ねえ、おばあ様」
「そうそう、この娘は大丈夫。それとさ、静、お前は言い方がきついんだよ」珠子が楽しそうに言う。「生きている間、そのせいで、どれ程の人を敵に回しちまったのか、忘れちまったのかい?」
「そんな大昔の事を……」
 静はぶつぶつと言いながら向こうを向いてしまった。
「あのう……」さとみは心配そうな顔を富に向ける。「あのままで良いの?」
「良いのよ」冨は笑う。「すぐに機嫌が戻って、けろっとするから」
「そう……」まだぶつぶつ言っている静を見ながらさとみが言う。「……それで、みんなが連れて行かれたって、どう言う事?」
「あの影はね、より強力な霊を呼び覚ますのが役割だったんだよ」富が言う。いつの間にか真顔になっている。「ここは元は刑場だった。恨みの堪りやすい場所だよ。そこに邪気が集まり出した。自然と集まって来たのか、誰かが集めているのかまでは、分かんないんだけどね」
「おばあちゃんでも分からないの?」
「何だか分厚い壁に阻まれているみたいでねぇ」珠子が割って入ってくる。「わたしたち三人がかりでも分からないんだよ」
「そうなんだ……」
「とにかく、そう泣き喚く必要なんざないんだよ」静が割って入ってくる。「みんなを取り戻したかったら、呼び戻されるヤツをあの世に逝かせりゃいいんだ」
「そんな簡単じゃないでしょうに……」冨は呆れた顔で静を見る。それから、さとみに優しい笑顔を向ける。「でもね、さとちゃん。わたしたちはいつでもさとちゃんと一緒だからね」
「そうそう」珠子はうなずく。「今はね、からだを休めなさい。若いからって、無茶は禁物だよ」
「……はい……」
 さとみは言うと、霊体をからだに戻した。百合恵の腕の中だった。
「さとみちゃん、落ち着いたようね」
「はい」さとみは言うと、百合恵から離れ、片岡に向く。「片岡さん、怪我とかないですか?」
「ありませんよ、さとみさんのお蔭ですね」片岡は笑む。「心強いおばあ様方で良かったですね」
「はい」
「さあて……」
 百合恵はため息をついて床を見る。そこには力尽きて風景の一つと化してしまった竜二がいた。さとみはすっかり忘れていた。
「竜二、もうここに居ても意味が無いわ」百合恵が竜二の横にしゃがみ込んで話しかける。「それにね、虎之助ちゃんたちは、さとみちゃんが取り戻してくれるから」
「ええっ!」竜二は立ち上がり、さとみを見る。涙を流しながら頭を下げる。「頼むよ、さとみちゃん! そのためなら、オレ、何でもするからよう!」
 百合恵はくすくす笑いながら、竜二の言葉をさとみに伝えた。
「何にもしないのが、一番よ」
 さとみは言う。ついつい竜二には余計な一言を言いたくなるさとみだった。しかし、竜二は真剣な顔でうなずくと姿を消した。
「とにかく、片付けが必要ですねぇ……」
 片岡が散らかった室内を見回す。
「それ以上に、これからが大変です……」
 さとみは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


つづく



作者呟き:ここしばらく、毎日休みなく投稿を続けています。良く言われる「継続は力なり」の精神で頑張っているんですが、くじけそうになる事もあるんですよねぇ。思わず「継続力なり」って感じてしまう今日この頃です。

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