「一体、どう言うつもりなのよう!」
女が見えなくなってから、葉子は妖介に詰め寄った。妖介は面倒くさそうな顔で、葉子の手から『斬鬼丸』を乱暴に取り上げた。
「あれじゃ、私がちょっと足りないみたいに思われるじゃないのよう!」
「言ったろう?」妖介は葉子を睨みつけた。銀色がかった瞳がうっすらと光って見えた。「妖魔の見えない者には、お前は『完全にイカレちまった一人女の馬鹿騒ぎ』としか映らないんだよ。オレが居なければ、お前はどこかの病院に連れて行かれているんだぜ」
「あっ!」
・・・本当にそうなんだ。もう決して戻る事の出来ない世界へ踏み込んでしまったんだ。葉子は不意に孤立感を覚えた。・・・妖魔は人じゃないけど、私もそうなんじゃないかしら・・・
「おい」妖介が声をかけてきた。「ぐだぐだと悩んでいるんじゃない。オレは急いでいるんだ!」
歩き出そうとする妖介の腕をつかむ。妖介は思い切り不機嫌な顔で振り返った。妖介をじっと見つめる葉子の目から涙が溢れ出し、頬を伝った。妖介はうんざりした表情になり、舌打ちをした。
「いいか、自覚しろ。そして、受け入れろ。他に道は無い」
妖介の言葉に、葉子は頭を激しく左右に振り続ける。
・・・イヤだ、イヤだ、イヤだ! 元に戻りたい!
嫌味タラタラでも、会社の課長の方がまだマシだわ!
由紀や敦子や真弓だって、時々ケンカをするけれど、何でも話せるいい友達だわ!
でも、こんな事話せやしない! それに、会社こんな形で辞めちゃったら、もう会えないじゃない!
この人だって、私を共に戦う者としか見ていないようで、ちっとも優しくない!
妖介の腕を掴んだ手に力が入る。
「そこでいつまでも泣いていやがれ!」妖介の怒鳴り声がした。葉子の手を叩きつけて掃った。「お前は力はあるが、精神がダメだ。全く役に立たない。使い物にならない。とんだ時間の無駄になってしまった」
妖介は歩き出した。振り返る事は無かった。
葉子はそのまま立ちすくんでいた。
角を曲がり、妖介の姿が消えた。
独りになった。・・・葉子は足元をじっと見つめている。溢れる涙が幾滴も路上に落ち、濡らしている。拭う気にもなれなかった。何事も無かった平凡な日々が、とても貴重で懐かしいものに思えた。
・・・わたしが何をしたのよう! どうしてわたしなのよう! どうしてあんな男が存在してるのよう! どうして、妖魔なんかいるのよう!
葉子は顔を両手で覆った。背を丸め、肩を震わせる。
「お姉さん。葉子お姉さん!」
背後からまだ幼さの残る少女の声がかけられた。葉子は反射的に振り返った。
黒いノースリーブのミニのワンピースを着て、その上から腰の周りに赤い皮製の太めの飾りベルトを締め、膝下までの黒の皮ブーツを穿いた、ほっそりとした中学生くらいの女の子が立っていた。
「そんな格好をしていると・・・」呆気に取られている葉子に皮肉な笑顔を向け、ショートカットの襟足を掻き上げながら言った。「傍からは失恋して人目もはばからず泣いている寂しい女に見えるわよ。葉子お姉さん!」
つづく
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女が見えなくなってから、葉子は妖介に詰め寄った。妖介は面倒くさそうな顔で、葉子の手から『斬鬼丸』を乱暴に取り上げた。
「あれじゃ、私がちょっと足りないみたいに思われるじゃないのよう!」
「言ったろう?」妖介は葉子を睨みつけた。銀色がかった瞳がうっすらと光って見えた。「妖魔の見えない者には、お前は『完全にイカレちまった一人女の馬鹿騒ぎ』としか映らないんだよ。オレが居なければ、お前はどこかの病院に連れて行かれているんだぜ」
「あっ!」
・・・本当にそうなんだ。もう決して戻る事の出来ない世界へ踏み込んでしまったんだ。葉子は不意に孤立感を覚えた。・・・妖魔は人じゃないけど、私もそうなんじゃないかしら・・・
「おい」妖介が声をかけてきた。「ぐだぐだと悩んでいるんじゃない。オレは急いでいるんだ!」
歩き出そうとする妖介の腕をつかむ。妖介は思い切り不機嫌な顔で振り返った。妖介をじっと見つめる葉子の目から涙が溢れ出し、頬を伝った。妖介はうんざりした表情になり、舌打ちをした。
「いいか、自覚しろ。そして、受け入れろ。他に道は無い」
妖介の言葉に、葉子は頭を激しく左右に振り続ける。
・・・イヤだ、イヤだ、イヤだ! 元に戻りたい!
嫌味タラタラでも、会社の課長の方がまだマシだわ!
由紀や敦子や真弓だって、時々ケンカをするけれど、何でも話せるいい友達だわ!
でも、こんな事話せやしない! それに、会社こんな形で辞めちゃったら、もう会えないじゃない!
この人だって、私を共に戦う者としか見ていないようで、ちっとも優しくない!
妖介の腕を掴んだ手に力が入る。
「そこでいつまでも泣いていやがれ!」妖介の怒鳴り声がした。葉子の手を叩きつけて掃った。「お前は力はあるが、精神がダメだ。全く役に立たない。使い物にならない。とんだ時間の無駄になってしまった」
妖介は歩き出した。振り返る事は無かった。
葉子はそのまま立ちすくんでいた。
角を曲がり、妖介の姿が消えた。
独りになった。・・・葉子は足元をじっと見つめている。溢れる涙が幾滴も路上に落ち、濡らしている。拭う気にもなれなかった。何事も無かった平凡な日々が、とても貴重で懐かしいものに思えた。
・・・わたしが何をしたのよう! どうしてわたしなのよう! どうしてあんな男が存在してるのよう! どうして、妖魔なんかいるのよう!
葉子は顔を両手で覆った。背を丸め、肩を震わせる。
「お姉さん。葉子お姉さん!」
背後からまだ幼さの残る少女の声がかけられた。葉子は反射的に振り返った。
黒いノースリーブのミニのワンピースを着て、その上から腰の周りに赤い皮製の太めの飾りベルトを締め、膝下までの黒の皮ブーツを穿いた、ほっそりとした中学生くらいの女の子が立っていた。
「そんな格好をしていると・・・」呆気に取られている葉子に皮肉な笑顔を向け、ショートカットの襟足を掻き上げながら言った。「傍からは失恋して人目もはばからず泣いている寂しい女に見えるわよ。葉子お姉さん!」
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