「女の子にしがみつかれたくらいで痛がるなんて、日頃どんな生活をしているんだ。基礎がなってないんだよ」
岡島は腰に手を当てて、コーイチを指差した。岡島のヤツ、ちょっとでも優位に立てそうだと、前後の見境なく、すぐに飛びついてくるよな。
「……なんですって!」
痛さのあまり座り込んでしまったコーイチを介抱していた逸子が。岡島を睨みつけながら立ち上がった。それから岡島を指差し、同じくコーイチを介抱している京子の方を向いて言った。
「あれ、なに?」
「ほら、いきなりステージに上がって、わけの分からない事を言って……」
京子が笑いながら言った。逸子も思い出したらしく、笑いながらうなずいた。
「ああ、あの『愛を、ボクの投げた愛を、オ~イェイ、イェイ』って、念仏してた人!」
「そうそう、コーイチ君の同僚で、世界を乱舞する予定の岡島って名前の人よ」
「マルチプレーヤーでもあるんだそうだ」
名護瀬が口をはさんだ。逸子が「あれでぇ?」とつぶやきながら、驚いた顔で岡島を見た。
「ダメよ、冗談を本気にしちゃあ……」
清水が言うと、名護瀬は「すみません!」と言って、また直立不動の姿勢になった。清水さん、結構きつい事言うなぁ……
「それに、場の雰囲気よりも自分の気分を優先させちゃうんだよねぇ。段取りもキライらしいんだ、困った事に……」
林谷も言い出した。そしてぽつりと「それで上手く行くんならいいんだけどねぇ、あれじゃあ……」と付け足した。
「なあんだ、あなたって、いわゆる『困ったちゃん』じゃない! そんな人がコーイチさんに偉そうにするんじゃないわよ!」
そう言うと逸子は、さらにきつく岡島を睨みつけた。
「逸子ちゃん、この人、自分を『困ったちゃん』なんて思ってないわよ」
京子も立ち上がり、岡島を指差した。
「じゃ、なんて思ってるの?」
逸子が聞くと、京子はくすくす笑いながら答えた。
「『あふれ出る自分の才能に困ったちゃん』!」
二人は顔を見合わせて「ねぇ~!」っと声をそろえた後、爆笑した。名護瀬もつられて笑い出した。清水も林谷も口元をゆるめる。西川は笑いをごまかすために何度も咳払いを繰り返した。
「それにしても、あのステージはひどかったわね。まるで子供の発表会、いいえ、子供だって、あなたより上手な子が大勢いるわ。それなのに、何を自慢げにやっていたのかしら。見てるほうが恥ずかしいったらないわ」
「京子さん、そこまで言っちゃ、気の毒よ。この人は、自分が見えていないだけ。でも、見えちゃったら、どうしていいのか分からなくなっちゃうんだろうけど」
「それは言いすぎよ、逸子ちゃん! だってこの人、自分がかっこイイとか、イイ男とか、特別な人間だとか、本気で思ってるんだから。思う分には勝手じゃない? 思わせておいてあげましょうよ」
「でも、恥ずかしいわねぇ……」
「本当、恥ずかしいわねぇ……」
二人はじろじろと岡島を見て、また「ねぇ~!」と声をそろえ、爆笑した。
ちょっとやりすぎじゃないかな…… コーイチは思った。
しかし、京子と逸子は止まりそうになかった。
つづく
岡島は腰に手を当てて、コーイチを指差した。岡島のヤツ、ちょっとでも優位に立てそうだと、前後の見境なく、すぐに飛びついてくるよな。
「……なんですって!」
痛さのあまり座り込んでしまったコーイチを介抱していた逸子が。岡島を睨みつけながら立ち上がった。それから岡島を指差し、同じくコーイチを介抱している京子の方を向いて言った。
「あれ、なに?」
「ほら、いきなりステージに上がって、わけの分からない事を言って……」
京子が笑いながら言った。逸子も思い出したらしく、笑いながらうなずいた。
「ああ、あの『愛を、ボクの投げた愛を、オ~イェイ、イェイ』って、念仏してた人!」
「そうそう、コーイチ君の同僚で、世界を乱舞する予定の岡島って名前の人よ」
「マルチプレーヤーでもあるんだそうだ」
名護瀬が口をはさんだ。逸子が「あれでぇ?」とつぶやきながら、驚いた顔で岡島を見た。
「ダメよ、冗談を本気にしちゃあ……」
清水が言うと、名護瀬は「すみません!」と言って、また直立不動の姿勢になった。清水さん、結構きつい事言うなぁ……
「それに、場の雰囲気よりも自分の気分を優先させちゃうんだよねぇ。段取りもキライらしいんだ、困った事に……」
林谷も言い出した。そしてぽつりと「それで上手く行くんならいいんだけどねぇ、あれじゃあ……」と付け足した。
「なあんだ、あなたって、いわゆる『困ったちゃん』じゃない! そんな人がコーイチさんに偉そうにするんじゃないわよ!」
そう言うと逸子は、さらにきつく岡島を睨みつけた。
「逸子ちゃん、この人、自分を『困ったちゃん』なんて思ってないわよ」
京子も立ち上がり、岡島を指差した。
「じゃ、なんて思ってるの?」
逸子が聞くと、京子はくすくす笑いながら答えた。
「『あふれ出る自分の才能に困ったちゃん』!」
二人は顔を見合わせて「ねぇ~!」っと声をそろえた後、爆笑した。名護瀬もつられて笑い出した。清水も林谷も口元をゆるめる。西川は笑いをごまかすために何度も咳払いを繰り返した。
「それにしても、あのステージはひどかったわね。まるで子供の発表会、いいえ、子供だって、あなたより上手な子が大勢いるわ。それなのに、何を自慢げにやっていたのかしら。見てるほうが恥ずかしいったらないわ」
「京子さん、そこまで言っちゃ、気の毒よ。この人は、自分が見えていないだけ。でも、見えちゃったら、どうしていいのか分からなくなっちゃうんだろうけど」
「それは言いすぎよ、逸子ちゃん! だってこの人、自分がかっこイイとか、イイ男とか、特別な人間だとか、本気で思ってるんだから。思う分には勝手じゃない? 思わせておいてあげましょうよ」
「でも、恥ずかしいわねぇ……」
「本当、恥ずかしいわねぇ……」
二人はじろじろと岡島を見て、また「ねぇ~!」と声をそろえ、爆笑した。
ちょっとやりすぎじゃないかな…… コーイチは思った。
しかし、京子と逸子は止まりそうになかった。
つづく
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