「なんて失礼なヤツなんだ、あなたは!」
岡島は立ち上がり、グラスをテーブルの上に置き、名護瀬に右人差し指を突き付けて言った。
「ボクがあなたに何をしたと言うんだ。全く、こういう乱暴な人には困ったものだよ」
「オレにしたんじゃねぇよ。『キョンちゃん』にしたんじゃねぇか、このヴェークァ!」
名護瀬も両手に持っていたワインボトルをドンと音を立ててテーブルの上に置いた。
「あのチャイナ服の娘に何かされたのは、ボクの方だ」
「お前が先に何かしたんじゃねぇのかぁ?」
「な、何を下品な事を言っているんだ」
「下品ななのはお前の顔だぜ。ヴェーーーークァ!」
名護瀬が一際大きな声で言った。周りの人たちが何事かと振り返る。
「おんや~?」急に名護瀬が酔った目を細めて岡島をしげしげと見つめた。「お前、さっきステージに立ってたヤツか?」
「そうだ。酔っ払いのあなたが覚えているくらい、印象的だったろう? ボクの歌と楽器プレイは」
「え?」名護瀬は細めていた目をいっぱいに丸くした。そして、「どわっはっはっはっは!」と哄笑した。
「印象的だぁ? あんな念仏みたいな、うなり声みたいな、メエメエひつじ声みたいなのが歌か? 『愛を愛を』って大安売りの呼び込みか? 楽器プレイだぁ? なりきりド素人のお遊びがか? ……いるんだよなぁ、ちょっと歌えたり弾けたりすると自分は才能があると思い込むヤツが」
「失礼じゃないか! 実際ボクの歌とプレイに感動してファンになった人もいるんだぞ!」
岡島が指差した先には、太目のからだに紫のワンピースを着た営業四課の事務パートの川村静世と、その友人三人(どの娘も似たような体型をしている)が立っていた。彼女達は岡島の方を向いて口々に「岡島君ステキ!」「岡島君カッコイイ!」「岡島君天才!」などと言っていた。……う~む、これは盲信敵岡島信者、いわゆる「盲目的オカヲタ」ってやつなんだろうな…… コーイチは背筋をぞくっとさせた。
「まあ、『タコ食うウニも頭ずきずき』って言うから、誰が誰のファンのなってもかまわねぇが、お前、勘違いするんじゃねぇよ」
「何て事を言うんだ。林谷さんは褒めていたろう(「違う、やめさせたかったんだ」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)? ボクは歌も楽器もできるマルチプレーヤーなんだよ(「それは自画自賛過ぎないか!」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)。もちろん仕事だって、今に出世街道を乱舞するんだ。社長の覚えも良いんだ(「そうだっけ?」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)。ボクにこんな態度を取った事を、そのうち後悔するだろうね」
「そうか、そんなに偉いのか!」名護瀬はいたずら坊主のように目を輝かせて、周りの人たちに向かって叫んだ。「聞きましたか、皆の衆? この人は偉いんですよ! 歌も楽器も出世も全部できるんです!」
そう言うと、岡島に向かって拍手をした。周りの人たちは名護瀬に釣られて拍手をし始め、訳を知らない人たちも巻き込んで、いつしか会場中が拍手で包まれてしまった。歓声も上がっていた。
名護瀬がいつもやる、性質の悪いいたずらだ。岡島、恥ずかしくて堪らないだろうな。コーイチは岡島に同情の眼差しを向けた。
「……あれ?」
思わずコーイチは声を出した。
そこには、拍手されてすっかり得意げな顔をし、さらには薄ら笑いまでも浮かべている岡島がいた。名護瀬はそんな岡島を見て、処置なしと言う顔で、頭を掻いていた。
「……岡島……」
コーイチはため息をついた。
つづく
岡島は立ち上がり、グラスをテーブルの上に置き、名護瀬に右人差し指を突き付けて言った。
「ボクがあなたに何をしたと言うんだ。全く、こういう乱暴な人には困ったものだよ」
「オレにしたんじゃねぇよ。『キョンちゃん』にしたんじゃねぇか、このヴェークァ!」
名護瀬も両手に持っていたワインボトルをドンと音を立ててテーブルの上に置いた。
「あのチャイナ服の娘に何かされたのは、ボクの方だ」
「お前が先に何かしたんじゃねぇのかぁ?」
「な、何を下品な事を言っているんだ」
「下品ななのはお前の顔だぜ。ヴェーーーークァ!」
名護瀬が一際大きな声で言った。周りの人たちが何事かと振り返る。
「おんや~?」急に名護瀬が酔った目を細めて岡島をしげしげと見つめた。「お前、さっきステージに立ってたヤツか?」
「そうだ。酔っ払いのあなたが覚えているくらい、印象的だったろう? ボクの歌と楽器プレイは」
「え?」名護瀬は細めていた目をいっぱいに丸くした。そして、「どわっはっはっはっは!」と哄笑した。
「印象的だぁ? あんな念仏みたいな、うなり声みたいな、メエメエひつじ声みたいなのが歌か? 『愛を愛を』って大安売りの呼び込みか? 楽器プレイだぁ? なりきりド素人のお遊びがか? ……いるんだよなぁ、ちょっと歌えたり弾けたりすると自分は才能があると思い込むヤツが」
「失礼じゃないか! 実際ボクの歌とプレイに感動してファンになった人もいるんだぞ!」
岡島が指差した先には、太目のからだに紫のワンピースを着た営業四課の事務パートの川村静世と、その友人三人(どの娘も似たような体型をしている)が立っていた。彼女達は岡島の方を向いて口々に「岡島君ステキ!」「岡島君カッコイイ!」「岡島君天才!」などと言っていた。……う~む、これは盲信敵岡島信者、いわゆる「盲目的オカヲタ」ってやつなんだろうな…… コーイチは背筋をぞくっとさせた。
「まあ、『タコ食うウニも頭ずきずき』って言うから、誰が誰のファンのなってもかまわねぇが、お前、勘違いするんじゃねぇよ」
「何て事を言うんだ。林谷さんは褒めていたろう(「違う、やめさせたかったんだ」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)? ボクは歌も楽器もできるマルチプレーヤーなんだよ(「それは自画自賛過ぎないか!」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)。もちろん仕事だって、今に出世街道を乱舞するんだ。社長の覚えも良いんだ(「そうだっけ?」喉元まで出かかった言葉をコーイチは飲み込んだ。面倒くさくなりそうだからだ)。ボクにこんな態度を取った事を、そのうち後悔するだろうね」
「そうか、そんなに偉いのか!」名護瀬はいたずら坊主のように目を輝かせて、周りの人たちに向かって叫んだ。「聞きましたか、皆の衆? この人は偉いんですよ! 歌も楽器も出世も全部できるんです!」
そう言うと、岡島に向かって拍手をした。周りの人たちは名護瀬に釣られて拍手をし始め、訳を知らない人たちも巻き込んで、いつしか会場中が拍手で包まれてしまった。歓声も上がっていた。
名護瀬がいつもやる、性質の悪いいたずらだ。岡島、恥ずかしくて堪らないだろうな。コーイチは岡島に同情の眼差しを向けた。
「……あれ?」
思わずコーイチは声を出した。
そこには、拍手されてすっかり得意げな顔をし、さらには薄ら笑いまでも浮かべている岡島がいた。名護瀬はそんな岡島を見て、処置なしと言う顔で、頭を掻いていた。
「……岡島……」
コーイチはため息をついた。
つづく
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