気がつくと、俺は光太郎におんぶされていた。状況がよく掴めない。考えをまとめようにも、まだ頭がガンガンする。
「おい、光太郎…。」
「や、やっと、気付いたか…。」
「何で俺、おまえにおんぶされてんだ?」
「た、大変だったんだぜ?いくら声掛けても全然起きないから…。あっちこちゲロ吐きまくるしよ…。よし、やっとついたぜ。ほら . . . 本文を読む
洒落たバーの黒い扉を開けると、ピアノの音が聞こえてくる。奥にはピアノが置いてあり、ピアニストがベートーベンの月光を弾いていた。俺にとってはとても懐かしく感じる曲だった。店の中は客もまばらでカウンターには誰も座っていなかった。俺はカウンターに腰掛けると、メニューを手に取り目に通す。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
せっかちなバーテンダーだ。もう少し間というも . . . 本文を読む
光太郎は突如ビックリした声を出してから、急に押し黙ってしまった。変な奴だ。何か考え事をして複雑な表情を浮かべている。その時、俺の携帯が鳴った。泉からだ。
「もしもし。」
「今日はちゃんと帰ってくるの?」
「うーん、分かんない。」
「何よ、それ…。」
「とにかく今、大事な事を話してる最中なんだ。あとで電話するから…。」
「ちょっと…」
俺は . . . 本文を読む
どこに行く宛てもない俺はただ彷徨い歩き続けた。気付けば自然と新宿に来ていた。欲望と金に塗れた歌舞伎町の匂いが俺は好きなのかもしれない。朝なので通勤するサラリーマンの姿が多い。赤崎もそろそろ新宿に仕事しにくる時間だ。携帯に掛けてみる事にする。電話の緒とは鳴るが、出る気配がない。ひょっとして今日は休みなのか。
「あれ、坂巻じゃねえの?」
ボーっとしながら一番街通りを歩いていると . . . 本文を読む
明日もまた早い時間から仕事だ。こんな朝四時起きの生活がいつまで続くのだろうか。一日の内、ゲーム屋で働き、ビデオ屋の仕事もこなす。どっちつかずの状況で一体、俺はどうなっていくのだろう。先のことを想像すると精神的に暗くなってしまう。
揺れる電車の窓に写っている自分の顔をボーっと眺める。非常にしけた面をしていた。普通のサラリーマンみたいに真っ当な職でも探すとするか…。い . . . 本文を読む
目を覚ますと四時を過ぎたぐらいだった。結構寝た気がしたが、短い時間でうまい具合に熟睡出来たのだろう。これから人と会うのはだるかった。携帯を手に取り、美紀に電話を掛ける。
「もう起きたの?ちゃんと寝たの?」
「おまえの事、考えてたらよく寝られなかったよ。」
「まーたうまいんだからー。でも嬉しいな、すぐに連絡くれて。」
「うん、悪いけどまた仕事がこれから入っちゃったんだ。」
. . . 本文を読む
千絵が俺の体を念入りに洗っている。昨日、家を飛び出したままなのでちょうど良かった。シャワーがとても心地良い。ヘルス嬢だけあって千絵は洗い方も手慣れていた。
「光ちゃん、気持ちいい?」
「ああ、さすがにプロだよな。」
「そういう言い方って、何か嫌だー。」
「ごめんごめん、悪かったよ。」
千絵は機嫌を悪くしたようだが、無理に作り笑いをしている。自分の身銭を出してまで俺に来 . . . 本文を読む
マンションに戻ると明かりが点いている。泉の方が先に帰ってきたようだ。明日から北方の所で仕事を世話になる事をちゃんと話しといた方がいいだろう。
「おかえり、隼人。思ったより早く帰って来れたんだね。」
「ただいま、知り合いからの誘いだったからすぐに仕事決まったんだ。」
「またゲーム屋とか危ないとこの仕事じゃないんでしょうね?」
「…」
「はーやーとっ。」
「はい&helli . . . 本文を読む
気付いたら朝になっていた。あのまま寝てしまったのだろう。今日は北方から仕事の件で連絡がある。結局、アリーナには何も言わずに職場へ行かないという最低の方法をとってしまった。昨日、俺を殴った後輩の神威とかは何て言っているのだろうか。鈴木勝男はあの性格だから俺の事を庇ってくれているかもしれない。
「おはよう、よく寝られた?今、朝食作ってるから待っててね。」
肉を焼いている香ばしい匂いが漂ってくる . . . 本文を読む
ドアのチャイムを押そうとした瞬間、ひかるが飛び出してくる。俺と逢うのがよほど嬉しかったのであろう。マンションの通路だというのに、人目もはばからず抱きついてくる。
「おいおい、ひかり…。まず中に入れてゆっくりさせてくれよ。」
ひかりは俺の頬に自分の頬をくっつけて、ギュッと抱き締める腕に力を入れてくる。仕方ないので、しばらくそのままの状態で我慢する。
「お腹は減 . . . 本文を読む
ほんとに嫌な空気だ。和美は俺の顔を覗きこむようにジッと睨んでいる。
「光太郎さん、あなたのせいで見てよ、これ。」
そう言って和美はつむじを見せるように頭を向け、五百円くらいの大きさの円形脱毛症をワザワザ御丁寧に披露してくる。何かと嫌味な女だ…。
「すごいな、それ…。」
「何よ、その言い方は…。何でこうなったのか分からないの?」
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