酢女と王様
俺の彼女はとても性格が良く、一緒にいて居心地がいい。
付き合いだして、半年は経っていた。
もっと前から知り合っていたような……。
そう思うぐらい、お互いの波長も合っていた。
わがままな俺は、いつもやりたい放題。だけど、彼女はいつだって笑顔で暖かく見守ってくれている。
俺が会いたいと言えば、すぐにすっ . . . 本文を読む
メルヘン コメディ
よく分からないけど、僕の左手には人を癒す力があるらしい。
ある日、通りすがりの人に言われたんだ。
「すみません。少々お時間よろしいでしょうか?」
そう言って長い黒髪の女性は、突然、僕に話し掛けてきた。そりゃあ、ドキドキしたさ。だって僕は二十七歳にもなって、いまだ女性経験が一度もないんだから……。
学生時代は、いつ . . . 本文を読む
明日は、久しぶりの休みだ。前に彼女の百合子が言っていたもの凄い霊媒師のところへ行く予定だった。
正直その霊媒師とやらを俺は、胡散臭く思っている。百合子は何度も行っているらしいが、何度かその話を聞いた。
「私の前世は、天草四郎時貞の島原の乱の時にいたキリシタンだったみたい。滝に身を投げて自身の潔白を証明したって」
俺の腕枕に頭を乗せながら、いつもこんな事を言っている。霊の . . . 本文を読む
二人の女が両脇にいて、最上階にあるラウンジの『シャトレーヌ』へと向かう。しかも払いはすべて女性陣である。こんな状況を百合子に見られたら、殺されるな……。
地下二階の『アリタリア』は注文していない料理まで鎌足がテーブルに置ききれないぐらいたくさん出してくれ、しかも会計時「ちょうど六千円で結構です」とかなり安くしてくれた。杏子とミミは会計の値段に対しビ . . . 本文を読む
初めて書かされたホラー小説 ホラー
馬鹿の坂本と阿呆の若松と俺で作り上げた風俗店の『ガールズコレクション』。最後の最後で坂本に、渾身の一撃をお見舞いした俺は、少しだけ心のモヤが晴れた気がする。しかしあんな馬鹿を殴ったところで、犠牲になったものは二度と帰ってこない。俺の心だけでなく、百合子は心と体にも傷を負った。
二人の間にできた子供をおろしてしまったという事実は、俺の中 . . . 本文を読む
まだ二月中旬なので、外へ出ると肌寒い。工場内は機械の熱気で暖かいせいか、作業服は非常に薄着である。まるで小学校の時給食で着た割ぽう着のような格好。敷地内だから回りも同じ服装なので構わないが、絶対に街中など歩けるような格好ではない。
「お兄さんはここに来る前、何の仕事をしていたの?」
栗原が歩きながら聞いてくる。
「う~ん…、整体を自分で開業していました」
多分これまでや . . . 本文を読む
またタイミング良く、一人の女性が俺に連絡をくれた。教会の神父の妻、葵である。試合には心配し過ぎて来られなかったという彼女は、こんな俺に逢いたいと正直に言ってくれた。十年間真面目な妻として暮らしてきたが、俺に女としての気持ちを素直に伝えたかったのだろう。
整体を閉めた去年の年末に会ったきり、メールや電話でやり取りをしていただけの俺は、葵と逢いたくて仕方がなかった。逢って思い切り彼女を抱きたかっ . . . 本文を読む
翌日になり、昼まで部屋でゴロゴロして過ごす。
そうだ、昨日の試合の事を自分のブログに書かないと……。
俺はパソコンを起動して、『新宿リュウの部屋 セカンド』を開く。
【負けてしまいました。
二千八年一月十四日。
応援してくれたみなさま、ごめんなさい。負けてしまいました。
写真の花束はサイマリンガルより(新宿クレッシェンドを出版してくれた会社)。
. . . 本文を読む
鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~
悪魔的思想 (恋愛)
運良く小説の賞を授賞し、全国書店にて出版を果たした俺。総合格闘技ディーファからのオファーを受ける形で、約七年半ぶりに現役復帰もした。
準備期間一ヶ月もない状況の中、俺は『神威整体』を締める決意をする。良心的にやってきた整体は、自らの首を絞める結果になっていた。駅前の高額な家賃。様々な形で引かれていく経費や維持費。オマ . . . 本文を読む
詩織さんはリアリティあるからいらないって簡単に言うけど、ちょっと聞いてみるか。そんな簡単にあの会話は外せないんだよ、もっと先を想定して書いたものなんだからさ。
『以前近所のおばさんらに、この作品見せたところ……。
二千十年二月一日。
惨酷過ぎてみてられない。俺の昔を思い出しちゃうからと、泣いてくれた同級生のお袋さんがいたんですね。&hellip . . . 本文を読む
誰かから連絡がなければ、部屋に籠もり執筆作業。そんな日々を過ごしながらいると、三村が突然家を辞め、俺に継げと言い出す。そんな騒動に巻き込まれ、日々悩み、真剣に考えるようになった。
二千十年一月二十六日。原稿用紙で二千百七十八枚。
また一人、男性従業員を家では雇ったようだ。
一月二十七日。原稿用紙で二千三百八十二枚。
駐車場で三村を見掛けたおばさんのユーちゃんは、「何だか車のトラン . . . 本文を読む
冷たい夜風が頬を撫ぜる度、虚しさを感じる。まったく馬鹿な金の遣い方をしたもんだ。
元はといえば、社交辞令と感じたから患者の津田の寿司屋へ行ったのが始まり。ちょっと酒が入り陽気になると、すぐ歌舞伎町時代みたいに図に乗ってしまう。まるで成長していないなあ、俺は…。いや、そうでもないぞ。ワンタイムで切り上げて出てきているんだ。
「はあ…… . . . 本文を読む
俺は詩織さんとのやり取りをしつつ、執筆全開モードに入る。
多い時で、原稿用紙三百枚近く書く日もあった。この時は、もう人間じゃないような生活だ。食事、風呂をする時間など一切なし。睡眠時間も取らず、唯一部屋から出るのがトイレの時ぐらい。しかも一日一回しか行かない。携帯電話が鳴り、女性からの誘いがあると「今すぐ股を開いてやらせてくれるのかよ? それができなきゃ電話すんな!」と怒鳴り . . . 本文を読む
未だ入ってこない『新宿クレッシェンド』の印税。初版で一万部刷ったという出版社の担当編集者は、一年前すでに退職をしていた。この事には別段驚きもしなかった。何故なら彼女の言葉一つ一つに魂を感じた事がまるでなかったからである。
出版社は俺の口座番号すら聞いてこない。
まあ、これ以上こだわっても仕方ないか。何も生まれない。
どんなに傷ついても書く事を辞められない俺。
家の中でも酷い出来事 . . . 本文を読む
さて、これからどうなるやら……。
部屋で一人、ボーっと考え事を夜までしていると、ノックをする音が聞こえる。
「はい」
「あ、龍ちゃん。お風呂、いいお湯だから入っちゃいなさいよ」
甲高い三村の声。今まで散々湯船の風呂栓まで隠しておいて、いきなりこれか。まったく面白い反応をしてくれるものだ。しかも、自分たちが入ったあとの残り湯で俺の機嫌を取っているつもりなので . . . 本文を読む