2024/12/16 mon
前回の章
喜怒哀楽…、よく人間の感情を表す際に使われる言葉。
喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。
ん、待てよ……。
驚きが無い。
ビックリする…、これも感情だろう。
人間の初めの感情って、何なのだろうか?
生まれた時の事など記憶には無い。
物心ついた頃、俺は何を思った?
笑う……。
これは喜怒哀楽で言えば、喜ぶまたは楽しんでいるからこそ笑う。
親父や叔母さんのピーちゃん、また加藤皐月に対しての怒りや憎悪。
これは怒りのジャンルにすべて収まる。
何故俺は怒った?
例えば加藤皐月を例に考えてみよう。
あの女は俺が高校三年生の頃、うちで働いていたパートの緑、そして近所の馬橋という人妻三人で家に押し掛けてきた。
学生だった俺は、その行動にまず驚いた。
そしてこの騒動の元である親父は、その場から逃げた。
何故か長男の俺が捕まり、人妻三人相手に話し合いをする羽目になった。
三人すべてが自我の応酬。
見ていて本当にみっともない大人だなと感じた。
まずここにいる全員が親父に抱かれ、不倫をしていたという事実。
それを恥じらいもせずに、不倫相手の家へ三人で乗り込んで来た図々しさ。
いい言い方で言えば、勇ましい。
悪い言い方で言えば、ただの馬鹿。
弟の徹也が居間に入って来るなり「おまえらは親父に遊ばれただけの馬鹿なんだよ」と言った。
俺はさすがに失礼だろと諫める。
三人の中でも一番図抜けて自我を出している加藤皐月を見て、女の醜さを知った。
ん、待てよ……。
これらのケースだけでなく、俺が二十九歳の総合格闘技へ試合に出る夜中、家に単身乗り込んできた加藤皐月。
親父が他の女を作り、自分は捨てられちゃうと錯乱していた。
この騒動で寝れず、徹夜で試合へ行った俺は、加藤と親父を憎み恨んだ。
そのあと戸籍上俺ら三兄弟の母親となって、気付けば家に住み着いていた。
加藤皐月に対して、あるのは怒りの感情のみかと思っていた。
違う。
想定外の突拍子もない行動を始めに見せられて、俺はまず驚いたのだ。
驚いてから、その感情は怒りに変わっていった。
違う場面を思い出せ。
怒りでない、逆のケースを。
最近で嬉しかった事は?
しほさんが俺にくれた言葉だろう。
中でも俺の作品を純文学だと言い切り、夏目漱石や太宰治に近いと言ってくれた。
本当に涙が出て嬉しかった。
ただその前に、彼女の言葉に対して、まず俺は驚いていたのだ。
驚いてから、それは嬉しいという感情に変わった。
つまり感情の起因となるもの。
それは驚きから始まり、すべて別の感情へ切り替わっていくのではないだろうか?
後々執筆に生かせるかもしれないな。
着信があり、中学時代からの腐れ縁のゴリからだった。
暇を持て余しているようで、食事の誘い。
息抜きを少しはしろという流れなのかもな。
お蔭様で原稿用紙で四千四枚までいきました!
ワードデータでだと四十字×四十字設定で千二百三十四枚。
何だか縁起のいい並び方っすね。
まだまだ続きますけどね。
でも、当初予定していた四万枚まで一ヶ月ちょいで十分の一まで来ましたね。
昨日は中学時代の腐れ縁であるゴリと焼肉に行きました。
安いんですよ、ここ。
値段の割りに肉もそこそこいい。
また来ますか。
昨日の時点で部屋で『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』を書き、乗りに乗っていると、おじいちゃんから何故か車がパンクしているから修理に行けと言われ、下に降りると弟の子供である甥っ子の然がいたので写真を撮る。
いまいち可愛く撮れなかったなあ……。
高校時代、学校に内緒でアルバイトしていたガソリンスタンド山口油材へ行き、久しぶりに社長の奥さんと色々話しました。
奥さんに、俺の今の心境を伝えると、涙目になりながらも「良かったね~」と言ってくれる。
うん、ある意味ここが俺の社会人の原点でもある。
ここで働けて良かったなあ……。
せっかく外へ出た機会だし、これも時流の流れに沿っていくのも悪くない。
そう思った俺は『岩上整体』時代、本当に良くしてくれた患者の岩沢さんの店『お食事処こしじ』へ一年ぶりぐらいに行ってみた。
ここの女将さん、本当に素敵な人で、俺が『新宿クレッシェンド』で賞を獲った時、大好物のグレンリベットをこんなにプレゼントしてお祝いしてくれたんですよね。
道が混んでいて到着したのは昼の二時。
もう閉店の時間なのに俺を待っていてくれました。
そこでヒレカツ&クリームコロッケ定食を注文。
すると、カレー味のハンバーグや……。
クリームシチューなどまでサービスしてくれました。
本当にここ、温かくて美味しくて安くて最高の店なんですよね。
日々感謝である。
弟…、いや弟だった貴彦の子供である然。
今で一歳半。
俺にとって初の甥っ子。
貴彦と口を利く事は無かったが、子供はまた別の話である。
俺は元々大の子供好き。
然は俺の顔を見ると不思議そうな顔をしながら手を伸ばし、頬を掴んでくる。
無邪気さはすべてを癒してくれる。
俺は然を見掛ける度、あやすようになった。
甥っ子で、こんなにも可愛く感じるのだ。
あの時百合子との子を産んでいたら……。
台所で遊んでいると、背後から叔母さんのピーちゃんが現れた。
「おまえは、然に近付くなっ!」
こんな幼い子の前で、何をいきな怒鳴っているのだろうか?
内緒で養子縁組をした今では、自分の孫。
「然に近付くな。向こうへ行け」
まるで汚いものを手で払うかのような仕草。
殺意が沸いた。
いや、落ち着けよ……。
ようやく平穏な心を取り戻した。
自分でそうみんなに書いたばかりじゃないか。
この人とは合わない。
理論を交わし合う事も無いし、理解などできないのだから。
ピーちゃんは頭がきっとおかしいのだ。
今は小さな然が驚かないよう、俺が引けばいい。
体内に小さな棘が刺さった感じがする。
複雑な心境のまま、俺は階段を上がった。
部屋に戻ると、何故ピーちゃんはあのような態度しか取れないのか考えてみる。
家で働いている訳ではない。
ただ三階のフロアーすべてを使って居るだけ。
やっている事といえば、おじいちゃんの食事の世話くらい。
昼頃まで寝て、昼過ぎになってようやく下へ降りてきて、おじいちゃんと食卓を囲む。
それから夕方までずっと三階に居て、家業の閉店時間六時を過ぎた頃のそっと降りて来る。
おじいちゃんとの食事を作ると、スポーツクラブへ。
帰ってくると夜は居間でテレビを見るだけ。
よく親父と衝突するのは、このタイミングになる。
酒を飲んで帰ってきた親父の虫の居所が悪いと、居間で寛ぐピーちゃんに向かって「テメーは働きもしないで、何そこで偉そうにしてやがるんだ」と怒鳴りつける繰り返し。
暴力へ発展するのが、ピーちゃんが言い返した時。
ウンザリするぐらい同じやり取りをしている。
もう殴られている時に、助けを呼んでも知らない。
兄妹同士、勝手にやり合ってくれ。
しほさんのアドバイスの中で、とにかく人の目に俺の作品が触れるようになってほしいというものがある。
彼女はあまり賛同はしなかったが、今流行りのケータイ小説のサイトへ俺のホラー作品のみを載せてみた。
真面目にずっと文学へ取り組んできたしほさんのような方は、ケータイ小説を嫌悪する。
おそらくこの感情や感覚は、メジャー団体のプロレスラーが、学生プロレスや規模の小さなインディー団体を快く思わないものに近いと思う。
岩上整体時代、患者でFMWのミスター雁之助が来た。
彼の人柄の良さでいい付き合いはできた。
何度彼の興業には招待をされただろう。
しかしそれまでは大仁田厚の作った団体と、色眼鏡で見ていたのは否定できない。
どうもつい脱線してしまうな、俺は……。
以前ケータイ小説の『野いちご』というサイトへ俺のホラー作品『ブランコで首を吊った男』、『進化するストーカー女』、『忌み嫌われし子』の三作品を載せた。
去年の話であるが、三作品とも上位独占だった。
ファンメールというものが、そこそこ届く。
ほとんど中学生か高校生の女の子たちから。
ほとんど気にならなかった。
一人だけ気になった子がいる。
中学生の子で、感想の中に「死のうと思ったけど、岩上先生の小説を読んで、まだ生きてみようと思いました」というものがあった。
思春期の多感な時期と安易な見方もあるが、何故か気になったので俺は連絡をしてみる。
状況を聞くと、彼女はシングルマザーの母親に子一人の生活環境、そこに母の彼氏のような存在がいるようだ。
何度か犯されそうになったと俺に言った。
まだ母親の保護下にいなければ生きていけない現状。
母親にそれを伝えても信じてくれないらしい。
俺はその子へ、本当にどうしょうもなくなったらと携帯電話番号を教えた。
一年になるが、未だその子からの連絡はない。
ミクシィでケータイ小説についての記事を書いてみる。
ケータイ小説は文学なのか?
ケータイ(携帯)小説は文学と呼べるか否か……。
賛否両論なこの問題。
今日はこれについて少し自分の見解と意見を言いたい。
自分の場合は『野いちご』というサイトを使うに当たって二つの目的がある。
一つが、せっかく若い子たちが『活字離れ』と呼ばれる時代に少しでも文字というものに興味を持ち始めている。
ならばそこを中傷でなく、どうして底上げしてやらないのだろうか?というものだ。
『ウィキペディア』によると、「ケータイ小説」は……。
●閲覧者を特定することが難しいことによる投稿・発言内容のモラルの低下。
●主な作者が若年であることに起因する、ネット上の基礎知識や責任感の欠落による頓挫。
●少ない語彙と、携帯電話画面の限られた文字数による表現力の乏しさ。
これらを特徴としてあげている。
他に影響として……。
実際、全国学校図書協議会の調査では、平成十九年の小中学生の一ヶ月の読書の量は調査を始めた昭和三十年から過去最高に増加している。。
しかし女子中学の読む本の上位十位のうち九点が携帯小説であり「ケータイ小説から卒業できない」との現場の教師からの声がある。
小説家、劇作家の筒井康隆はケータイ小説・オンライン小説(小説投稿サイト発)が生まれた背景には読み手が書き手の才能を見抜けなくなっている実際があるとしている。
「表面的に似ていても本質的にレベルの違う作品の区別がつけられず、自分でも簡単に書けると思って(錯覚して)しまった。だからオンライン小説・ケータイ小説が生まれた」と発言している。
また、背景を考えれば当然の流れだとも発言している。
じゃあ、一応賞を獲り、全国書店にて一度は本を出した俺がここに作品を載せたらどうか?
『ウィキペディア』の『川越市』の出身有名人の項目一応俺、作家って載っているからいいでしょ、このぐらい言っても。
それでも表現力の乏しさと言うのだろうか?
せっかく若い世代が『ケータイ小説』とは言え、文字に興味を持っている。
ならば俺の役目は少しでも全体的な底上げをしてみるのもいいんじゃないか。
けなすのって簡単、理解して導いてやるのが大人じゃないのかな……。
もう一つの最大の目的は、小説の推敲目的の為に使っている。
縦書きで書いた文章を横書きにして、スペースの幅の都合で『。』のあとは必ず改行をするようにした。
そしてその改行を何度も空け、おそらく携帯電話という特殊な媒体を使って文字を読むという行為を想定し、一般の小説にはない『時間』という概念を強制的に作る。
またそうする事で、どの場面が間を置くべきなのか分かり、実際の小説の文章の句読点や改行について、いい見直しができた。
つまりケータイ小説が、通常の小説に勝てる部分とは、『時間』というものを強制的に文章に加える事ができるという点のみ。
やっぱ文章は縦書きのを読むから面白いのである。
他に、上記の方法でインターネットへアップすると、一語一句目で確認しながらの行為となるので、誤字脱字、表現の矛盾点などの推敲にもなる。
そんな訳で只今アップしている『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』は特に携帯小説しかおそらく読めないであろう読者たちには別に読んでもらわなくてもいいやと思っていたので、作品にパスワード制限をした。
それまで数字の上でしか確認できないが、数名の人間がこの作品を読んでいるのも分かってはいたが、特に誰一人感想をくれる訳でもないので、読ませる意味合いもないだろう。
これは自己の推敲目的なのだから、これでいいと思っていた。
次の日、こんなコメントが読者からあった。
こんばんは、感想ノートに気付かず、読みっぱなしで申し訳ありませんでした。
閲覧が無くなり残念です。
私はこの作品に出会い、『私って岩上様に比べれば、すぐ飽きらめちゃうな~弱いな~』て思いました。
何でも努力する姿が素晴らしく次々読んでいました。
あたしの人生もたくさん辛いことがありましたが岩上様に比べれば……。
私…、弱いです……。
すぐに死にたいとか考えるタイプなので……。
でもすごく頑張ったら色々な事実現できるんだって勇気付けられました。
最近の楽しみは、鬼畜道を読むことが唯一でした。
うまく文章にできなくて申し訳ありません
とにかく私はお気に入りの作品です。
無理にとは言いません。
閲覧して頂けたら…、是非読ませて下さい。
私のようなファンを忘れないで下さいね。
これからも応援させて下さい。
二千十年二月十日
ゅぅこぶた
初心は書きたいから書く。
でも、以前……。
俺の小説を読んでくれとは言わない。
ただ、読んでくれる人がいれば嬉しい。
多くの人に認められなくても。
たった一人の人が期待してくれるだけで充分だ。
一人もいなくなるまで俺は書き続けよう。
二千七年二月十三日。
まだ『新宿クレッシェンド』が賞を獲る前に書いたこの言葉。
こんなものを俺は書いた。
一人の読者がここまで言ってくれるなら、読ませてもいいだろう。
いや、こういう人にならぜひ読んでいただきたい。
素直に嬉しく感じ、その子へ俺はコメントを残した。
しかし昨日の夕方頃……。
この書き込みは管理者により削除されました。
削除#野いちご
二千十年二月十二日
このように俺の書いたコメントは、野いちごの管理者によって勝手に削除されていた。
作者と読者の会話を土足で踏みにじるようなこの行為。
穏やかだった心境なのが、気分悪いものになる。
喧嘩を売る訳でなく、正直に自分の気持ちを書いた。
コメントがまた野いちごの連中に勝手に消されている……。
この際ハッキリ言っておこう。
野いちごの本部の連中にね。
携帯小説というのも、文字で文章を書いている訳だから文学ではある。
ただおまえたちのやっている行為は、少女たちの交換日記に企業を巻き込んで金を絡ませ、文学というものに目覚めた子たちを変におかしくさせている。
おまえらのやっている行為は援助交際と変わらない。
野いちご、恥を知れ。
人間としての良識を覚えろ。
二千十年二月十三日
岩上 智一郎
以前『擬似母』という作品を執筆時、野いちごから下記のようなメールが届いた。
【カテゴリ:お知らせ ID:60987
タイトル:岩上 智一郎様へ【野いちご】より
発信者:編集部
内容:
こんにちは。野いちご運営スタッフです。
この度、岩上 智一郎様の『擬似母』を野いちごのオススメ作品としてご紹介することになりましたので、ご連絡させていただきました。
六月三十日からの掲載を予定しております。
オススメ作品に掲載される事は、掲載が開始されるまでご内密にお願いいたします。
また、作品が掲載されると沢山の人の目に止まります。
このチャンスを是非生かして下さい。
これからも岩上 智一郎 様の作品をスタッフ一同楽しみにしています。
執筆活動頑張って下さい。
今後とも、野いちごを宜しくお願いいたします。】
その後届いたメール。
【カテゴリ:お知らせ ID:62178
タイトル:岩上 智一郎 様 野いちご運営局です。
発信者:編集部
内容:
いつも【野いちご】をご利用いただきまして誠にありがとうございます。
岩上 智一郎 様の作品「擬似母」につきまして確認させていただきましたところ、百八十ページ以降、詳細な語句を用いての性描写が記載されており、【野いちご】にふさわしくない過激な表現が一部含まれております。
お手数ですが該当部分の修正をお願いいたします。
該当作品は現在ジャンルランキングに掲載されており、たくさんの方の目に触れていますので、何卒ご理解の上、ご協力の程お願い申し上げます。
以上、お手数ですがご確認宜しくお願いいたします。】
これについて作品が完成している訳でもないし、性描写も悪戯に入れている訳でなく物語の進行上必須だから入れています。
なので、パスワード制限を掛けるから、それでいいでしょうか?…と送った。
別に俺は野いちごから金をもらっている訳でもないし、向こうから勝手にお薦めにしてきただけの話。
俺の作品とはまるで関係ない。
数日後メールの返信もなく、野いちごは『擬似母』の指摘した部分を読者には分からないよう、ごっそりと無断で俺の文章を削除していた。
こういった礼儀知らずの連中が『文学』というものに関わるから、おかしくなるのだと感じた。
コメントや感想等見ると、ほとんどが個々の作品のやり取りのし合い。
拙い文章。
これはただの日記じゃないのか?と俺にはとても読めないような作品が多々ある中、別にその行為自体は悪い事ではない。
これは携帯電話を使った交換公開日記と変わらないからだ。
何が悪いのか?
そんなまだ文章のレベルアップもしていないのに、そこへ金になると、あそこに賛同し金を出す大手企業と野いちご運営サイド。
こいつらが癌細胞なのである。
未熟な子供たちが、数百万+書籍化なんて栄誉を掴んでみろ!
完全に思い違いをするぞ?
野いちごとあそこに金を出資している企業。
ハッキリ書こう。
『TSUTAYA』、『TBS』、『毎日新聞社』、『スターツ出版』……。
あんたらのやっている事は、『援助交際』と変わらない。
ただの悪だ。
綺麗事をいくら言葉で積み上げても、文学を冒涜している。
君らのやっている事はただの金目的なだけ。
綺麗事を言っていない分、まだ援助交際のほうがマシかもしれない。
恥を知れ、人間なら。
ちゃんと小説の勉強をしてきた人たちから見れば、ケイタイ小説なんて「あれは文学じゃない」と声を大にして言いたいだろう。
でも、ある意味『ケータイ小説』中毒化した読者たちには、本当の小説の面白さを俺は伝えたい。
話は随分戻る。
まだ岩上整体を開業していた終盤の頃の話。
先日小学時代の同級生藤崎信行と、中学を卒業して以来初めてゆっくり語り合った。
何故そんな事になったかというと、俺が『岩上整体』を閉めようとする前に、立ち寄ってくれたのだ。
この時は非常に多忙だった為、ちゃんと会話もできず、彼はお袋さんと一緒に整体の近くでスナック『十文字』を経営しているらしいので、「今度顔出すよ」と言いながら、二年ほど時が過ぎた。
このままじゃ社交辞令になってしまうなあ……。
そう感じた俺は、彼のいるスナックへ足を運んだ。
久しぶりの再会。
俺たちは酒を飲み、ラーメンを食って、コンビニの前で朝まで笑いながらこれまでの流れを語り合った。
その時、店にいた女に気に入られたのか、俺の携帯番号を教えてほしいと言うので普通に教えた。
帰り際、その女が入口まで見送りに来て「今度一緒に食事行こう」と念を押してくる。
答える代わりに俺は優しく抱き寄せ、キスをしようとした。
「まだ逢ったばかりでしょ? 今日は駄目」
「その言い方だと、今度プライベートならいいのか?」
「馬鹿……」
高校時代の恩師に招かれていたので、その為の料理を前日から作っていた。
スナックで知り合った女からは、毎日のように連絡がある。
しかし、ここ六年間初の執筆全開モードに突入していた俺は、いつも誘いを断っていた。
「今、何をしているの?」
「高校時代の先生に招かれているから、その為の料理を作っている」
「え、食べたーい」
「別に構わんよ。今回は気合い入れて作っているから君は運がいいね。一人分増えるぐらいわけない。一緒に作っておくよ。お店終わったら連絡ちょうだい。渡すから」
しかしこの日、これまでの人生観を変えるような出来事が起きた。
しほさんからの評価である。
俺は部屋に戻り、ボロボロ泣いて、これまでの人生を振り返った。
憎悪で小説を書いていたと思っていた事が、悲しいから、誰かに理解してほしいから書いていた事に気付いてしまったのだ。
二日間で調理時間十二時間を掛けて、料理は完成した。
約束していた飲み屋の女の分もちゃんと作ってある。
昨日のあのタイミングで連絡があり、この時期に知り合う。
何か縁でもあるのかもしれないな……。
そんな事を思いながら先生宅へ向かう。
夜になり、二時を過ぎても女からは連絡がない。
さすがにメールを打った。
《まだ仕事なの? 料理は作ってあるよ 岩上智一郎》
しかし三時になっても連絡はない。
俺は電話を掛けてみるが、無情にもコール音だけが聞こえるだけ。
明け方の四時頃になって飲み屋の女から電話があった。
「体調が本当に悪くて……」
「なら、しょうがないよ。ゆっくり休みな。弁当作ってあるけど、どうするの? いらないなら欲しがる人は結構いるだろうからあげちゃうけど」
「食べたい……」
「じゃあ今日はゆっくり休んで、明日の昼ぐらいにでもまた連絡ちょうだいよ」
「分かった、ありがとう」
しかし翌日夕方の七時になっても連絡がない為、俺は自分で上の写真の弁当を食べた。
以前ならすぐ怒っていたけど、ああ縁がなかったんだな、この子とはと考える自分がいた。
食べ終わったあと、電話があり、昼の仕事が忙しいと詫びていたが、手短に話し、俺はまた執筆モードに入る。
それから何度か電話があるが、未だ俺は縁がないものとして素っ気ない対応を続ける。
今の生活に女は特にいらない。
これは強がりでも何でもなく、書く事に専念したいのだ。
そこまで考えた俺は、自分で考えている事がいかに異常でおかしいという事に気付く。
別に下半身が立たなくなった訳ではない。
未だギンギンになるぐらい性欲はある。
腹が減ったから、整体時代の患者さんのところにでも顔を出すか……。
俺はマグロしか食えないくせに、患者さんの津村さんが働く寿司屋へ行った。
「先生、本当にマグロだけしか食べられないんですね」
「いえ、サラダ巻きも下さい。それも食べれますから」
「海老とか入ってますけど大丈夫ですか?」
「……。匂いをちょっと嗅がせてもらえますか?」
「だったらちょっと味見してみて下さい。それで大丈夫なら注文をすればいいと思いますよ」
うん、大丈夫。
何とか食べられるぞ。
俺はウイスキーを二杯、チェイサー代わりにレモンハイを二杯飲み、たらふく寿司を胃袋に入れた。
それなのに会計は三千円ちょっとにしてくれる。
ありがたいものだ。
また整体を開業しないといけないなあ……。
無職の俺が何を言ってんだが……。
そんな事を思いながら道を歩いていると、呼び込みと目が合う。
お触りパブの店員だった。
「お客さま、どうでしょう? 若い子いますよ」
確かに最近の俺は思考が人間離れしている。
前回、十万ほど持って散財してみたが、ちっとも楽しくない自分に気付いた。
でも、それってヤバくないか?
たまには若い女の乳を吸うのも悪くないだろう。
そう思い、お触りパブに入る。
最初は綺麗な顔立ちの二十三歳の女が席につく。
どうでもいい世間話をし、ウイスキーをストレートのまま飲み干す。
「上に乗ってもいい?」
「好きにしろ」
「じゃあお邪魔します」
女の顔が近づき、俺の唇に触れる。
舌を捻り込んできた。
目の前にドーンと現れる形のいい乳房。
俺は乳首を口に含み、舌で転がしてみた。
頭の中で、何故俺はこんな事しているんだと思っていた。
こんな事をしているぐらいなら、早く帰って作品を書きたいなあ……。
また異常な事を考えている自分がいる。
二人目の女はさらに若く、十九歳だと言う。
女が俺の腿の上に乗ろうとした時、バランスを崩す。
俺は咄嗟に左手で受け止める。
その際触れた女の肩。
まだ若いのに指先から体が悪いというのを感じた。
「おい、おまえ、若いのに運動していないだろう?」
「え、何でですか?」
「かなり血行が悪い。肩凝りもあるだろうし、偏頭痛とかないか?」
「何で分かるんですか?」
「そう感じただけだ。俺の上から降りろ。滅多に診ないけど、ちょっと診てやる。背中をこっちに向けろ」
俺は女の経絡を押していき、徐々に血行の流れを良くしていく。
こんな時、高周波もあれば一発で良くしてやれるんだけどなあ……。
「何か体が温かいですよ?」
「血行を良くしているからだ。肩や首を回してみろ。少しは楽になっているはずだ」
「うわー、何これ? 何でー」
十九歳の女は上半身裸でおっぱいを出したまま、肩や首を笑顔で回している。
暇な店だったが、数名いる客たちは、「こいつら何をしているんだ?」と思っているだろうな……。
こうした施術をしている内に時間が来る。
黒服がニコニコしながら近づいてくる。
「お客さまー、延長どうでしょうか?」
「する訳ねーだろ!」
馬鹿な金の遣い方をしたものだと反省しながら部屋に戻り、また執筆モードに入った。
今日になってまた飲み屋の女から電話がある。
「たまには時間作ってよー」
「悪いけど、無駄な時間は作れない」
「だってさー、あれ以来一度も会っていないんだよ?」
「しょうがないよ。縁がないんじゃないの」
「今度時間作るからさー」
「今ね、俺は最大の執筆モードに入っている訳ね。だから女とかそういうのどうでもいいんだよ。会ったらすぐに股を開いてやらせてくれるのか? それなら時間作るよ」
「もう……」
俺は先日お触りパブに行った時の事を話した。
自分がいかに狂っているのかをそれで説明したかったのだ。
「じゃあさ、来週でいいから時間作れない?」
「来週になったらまた連絡寄こせ。考えとくよ」
「たまにはさ、外の空気吸ったほうがいいよ?」
「それは問題ない。時流に沿って行けば、自然とそうなるものだ。だから俺からはほとんど連絡を誰にもしていないんだ」
「まったく……」
嘘だった。
毎日のように師匠と崇めるしほさんにメールを打っているし、昨日だって中学時代の友人ゴリと無駄な長話をしている。
去年ゴリがauグリーで知り合いになった初めての女たちと、飲み会をしたが、とても一緒に歩けないようなブスだった。
初めて見た瞬間、俺は他人のふりをして、予約してある店に早歩きでスタスタと行ってしまったぐらいである。
絶対に知り合いにこの姿を見られたくなかったのだ。
幸い予約した店は、部屋も別室に取ってある。
飯野君とおぎゃんは苦笑しつつも一緒に歩いていた。
本当に偽善者な二人である。
こういうのも時流の流れだったんじゃないか。
「あの時の岩上は今までで一番酷かったよ」
そうゴリが言うので、俺も言い返す事にした。
「だってさ、最初見た時、俺、稲中に出てくる女みてえって思ってすげー怖かったんだよ」
ゴリは俺の言った『稲中』という部分で思い切り電話口の向こう吹き出して、しばらく笑っていた。
「だから言ったろ? 期待するなって」
「まあ、それはそうだけどさ……」
たまには執筆以外の空気もちゃんと入れて息抜き。
ただ、今の俺に特定の女はいらない。
しつこいけどいい加減な飲み屋の女は、今後相手にするのをやめた。
くだらない有意義な時間を過ごし、家に戻る。
しほさん以外の人からメールが届いていた。
新宿クレッシェンド読みました!
日付二千十年二月十四日
差出人 ぎーたか
新宿クレッシェンドを二~三年前に購入し、読ませて頂きました。
当時馳星周あたりの歌舞伎町小説にハマッていたので、興味を持ち、購入したのです。
歌舞伎町だけに、ハードボイルドな世界……。
例えば狡猾な女・警察・ヤクザなどなどが絡み合う。
そういう男臭い小説を期待していたのですが、岩上先生のはそうでなくて、生活する歌舞伎町の住人…、例えばそれは中野とか高円寺とかの商店街の住人と紙一重で、でもそこに溶け込めない人たち……。
そこに溶け込めない鬱憤を、金や暴力で埋め合わせしようとする。
「何とかしたい」「どうにもならない」「でもどうにかなる」という人の思いをどこか冷めた視線で悲しげに描いている様が印象に残りました。
そしてこの小説は絶対売れない…と。
すみません。
何故なら、人々が期待する「歌舞伎町」ではないから。
「歌舞伎町」はもっと悪が蠢いていて、もっとスケールがデカい、と思い込んでいるから……。
そんな不思議な小説を書いた岩上先生は今何をしているんだろう?
何となくインターネットを探っていたところ、ミクシィでお見かけしました。
作家活動、精力的に行っていらっしゃるんですね。
もし可能でしたらマイミクにでもしてやって下さい。
こんばんは
日付二千十年二月一三日
さくら
岩上先生……。
以前マイミクになっていただいていました「みっちゃん」というニックネームで登録していました。
覚えていませんでしょうか?
新宿クレッシェンドを予約したのに書店の店員が手違いで遅れてやっとこ手に入れたお話をした事、覚えていらっしゃいますか?
パソコンからも試合の入場動画を送ってくださって、優しく接してくださりありがとうございました。
ミクシィ復帰しました。
よろしければマイミクになっていただけますか?
勝手に辞めてまた復帰してマイミク申請なんてふてぶてしいのですが……。
ほぼ同時期に二人の読者からのメール。
共に文面から女性だと分かる。
嬉しいよな、こんな評価してもらって。
うん、少しは小説を書いている意味合いが出てきたって事だ。
今日の昼、腹が減ったなあと食事へ行き、ゆっくり食べていると、KDDI時代の俳優をしている同僚の水原から久しぶりにメールがあった。
俺は現状を伝えると『何か今まで少し病んでいた事も吹っ切れました』とメールをまたくれた。
彼との出会いもすべて縁なのだろう。
車で帰りながら、ここ最近の流れを振り返る。
その時、先の自分の未来が少し見えたような感じがした。
これまでで一番悲しく辛い事が起きるのか……。
でも、おかげで『鬼畜道』の最後の部分が頭の中にリアルに文字が浮かぶ。
うん、こうならないとこの物語は人々の心を揺さぶれないだろう。
たくさんの文字の羅列が頭の中を走り抜けていく。
なるほどな。
この作品の最後ってこう書かなきゃいけないのか……。
泣きそうになったが、道端だったので我慢する。
ちょうどその時、幼い頃苛めていた近所の子といっても、今じゃ立派な大人だが、桶屋のジュンが通り掛かった。
俺を見ると怯えた顔になる。
「よっ! 元気か?」
「は、はい……」
できるだけ満面の笑みを浮かべ、俺は家の中に入る。
絶対に桶屋のジュンの前で、訳も分からず泣ける訳ねえだろうが……。
さて、いきなり『鬼畜道』の最終章から書き始めますか!
夜になり腹が減った俺は近所の家庭用フレンチレストラン『ビストロ岡田』へ行く。
ロールキャベツと鮭クリームコロッケを食べ、カレーライスも食べた。
あとから近所の人が店に来て、『新宿クレッシェンド』の事を話してくる。
何故か賞賛の嵐なので、俺は本心を言った。
「あれはもう俺にとって駄作ですよ。あれしか世の中にまだ出ていないんですよ? あれが俺の作風だなんて思われるのが嫌なんで、賞を獲ったってだけの事実があるだけです」
「何を言ってんの? 本を出す事自体ね……」
ふん、現在俺の執筆している『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』が世に出たら、そんな事言えなくしてやる……。
でも、こうやって喜んでいる人たちが回りにいる事自体、幸せだよな、俺って……。
しばらく寒い夜道を散歩した。
さて、一気に最後の部分をやっちゃいますか!
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