岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 24(フィールド&裏ビデオ屋編)

2024年09月25日 12時02分26秒 | 闇シリーズ

2024/09/25 wed

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前回の書いてから一ヶ月も経ったのか(笑)

 

 

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1円レートのゲーム屋『フィールド』

中へ入ると両サイドにゲーム台が置かれ、一番奥にカウンターがある

左に4台、右に5台の全部で9台しか置いてない

客は誰もいないようだ

広さは10畳程度かな

「お疲れ様です、北中さん」

出迎える2人の従業員

一人は30代前後の茶髪の細タレ目の線の細い男

もう一人は東南アジア系?

外国人の従業員をここは雇っているのか……

ワールドワンの系列では日本人のみだった

他の店へ遊びに行った時もすべて日本人の従業員のみなので、カルチャーショックを受ける

「明日から早番で入る岩上さんね」

北中が2人に俺を紹介した

「あ、はじめまして、岩上です。よろしくお願いします」

履歴書も何も出してないのに、いきなり明日から仕事……

まあすぐに給料が入るのは嬉しい

「大阪です。よろしくお願いします」

「レクです、よろしく」

東南アジア系の男は外国人独特のイントネーションで話してくる

「早番て、何時頃来ればいいでしょうか?」

「7時だよ」

「え! 朝7時からですか?」

基本ゲーム屋は12時間交代の24時間営業なので驚いた

「7時から昼の3時までだよ」

「8時間なんですか?」

「そうだよ。ここが終わったら下降りてきて、ビデオを2時間手伝ってもらうだよ」

「分かりました……」

早番が7:00〜15:00

中番が15:00〜23:00

遅番が23:00〜7:00

…の3交代制のシフトなのか

今まで2交代制の店でしか働いた事がなかったので、不思議な気分だった

「まあ今日は帰って、明日7時から頼むだよ」

「了解しました。あの…、服装はワイシャツにネクタイで?」

「いや、私服でいいだよ」

確かに中番の従業員である大阪、レクはTシャツにジーパンと非常にラフな格好をしている

「分かりました。それでは明日7時前には伺います」

俺はドアを閉めて、西武新宿駅へ向かった

歌舞伎町に朝7時……

本川越駅から電車で一時間は掛かるとして、朝5時台の電車に乗るようか

こりゃ大変だな……

 

家に戻り、今後の展開を考える

8時間をゲーム屋で働くのはいい

確か機種は『プロ』の時と同じ赤ポーカーだった

レートは1円

過去働いた店とそう大差ないだろう

残り2時間をメロンとかいう裏ビデオ屋で働く……

たかだか2時間であるが、妙に気が重い

ゲーム屋は賭博

裏ビデオはエッチなビデオを売る仕事

まあ時間帯はサラリーマンと似たようなものだ

もう決まったんだから、やるしかないよな

あとになって履歴書とか言われても面倒だから、とりあえず用意しておくか

どちらにせよ明日から俺は新しい生活が始まるのだ

 

起床朝5時

シャワーを浴びて支度を済ます

電車が遅延する可能性も考え、5時半の電車には乗るようにした

2、30分前には職場へ到着していたい

歌舞伎町で働くようになってから自然とついた習慣だった

西武新宿駅へ着くと、一番街通り、セントラル通り、さくら通りを横切り、東通りの一本手前の細い道を左に曲がる

入ってすぐ右手には、プチドールという箱型ファッションヘルスが見えた

この通りの真ん中くらいに位置する第二平沢ビル

『フィールド』のインターホンを押す

少ししてドアがゆっくり開く

 

店内はそこそこ盛況で、5卓ほど席が埋まっている

席数の約半分

「あ、新人だ」

「新しい人だ」

ゲームを打つ客たちが声を掛けてくる

簡単な挨拶を済ませながら奥のカウンターへ向かう

この店、ヤクザ者OKにしているのか?

どう見てもヤクザにしか見えない客たち

ワールドワン時代では考えられない

「はじめまして、店長の小泉です」

「秋葉です」

黒髪キノコカットの細めの男が小泉

俺より5歳は年上だろうと思う秋葉

「岩上です、今日からよろしくお願いします」

少ししてもう一人の早番、山本が入ってくる

俺はホールで客のINとOUTをひたすら繰り返す

出勤して2時間もしない内に客は次々と帰りノーゲストになる

「岩上さんお疲れ様です。うちの店、いつもこんなもんなんですよ」

事務処理を終えた山本が声を掛けてきた

「さっきいた客…、あれって組関係なんですか?」

ここへ来た時抱いた素朴な疑問を聞いてみる

「ええ、バリバリのヤクザですよ。このビルの2階と3階にそれぞれ違う組事務所があるんですよ」

暇ではあるが面倒臭そうな店だな

それが俺が抱いた感想だった

昼の3時まで客が来ない状態が続き、山本とダラダラ無駄話をして時間を過ごす

「岩上さん、今日の日払いです」

山本から一万円札を受け取る

ここ終わったら、地下へ行って裏ビデオの仕事か……

俺はフィールドをあとにして、階段を降りた

 

裏ビデオ屋『メロン』

十畳ほどの広さ

右手に従業員が座るテーブルに椅子

残り三分の二は客スペース

壁ぴったりに長机が設置され、色々なビデオを紹介するファイルが置かれ、筆記用具にメモ用紙

左手奥にはソファー、そしてガラス張りの冷蔵庫があり、中には缶コーヒーや缶のお茶が冷やされている

「おー、とりあえずここへ座るだよ。俺は上行ってくる」

北中は俺が来るなり立ち上がり、外へ出てこうとした

「ちょっと待って下さいよ、北中さん。俺、ビデオの仕事、何も分からないですよ」

「簡単だよ。客が来たらそこのメモ用紙に欲しいもの書くから、ビデオなのか、DVDなのかを見て、そのキャッチホンのメニュー押すと倉庫ってあるだろ? そこへ電話して持ってきてもらうだけだよ」

それだけ言うと、北中は出ていこうとする

「待って下さい! 値段とかそういうのは……」

「ビデオは一本なら2000円、三本5000円、八本で10000円だよ」

確かに壁には値段表が貼ってあった

DVDだと一枚3000円、二枚7000円、四枚で10000円

要は無言で一万円は使えという料金体系なのだろう

「あとここで何時までやればいいんですか?」

「5時までの2時間だよ。ここの分の給料は月末まとめて払うだよ」

それだけ言うと、北中はとっとと店を出ていく

 

みすぼらしい店内

客も来ないので俺は掃除をする事にした

トイレは特に酷い

まったく掃除していない感じだ

ちゃんとした掃除用具も無いので、トイレットペーパーを丸め、床の隅々まで水で濡らし丁寧に拭く

明日来る時は、上のフィールドからおしぼり数本持ってこよう

結局この2時間客はまったく来なく、掃除をして一日が終わる

それにしても本当に汚い店だ

夕方5時になり、北中が上から降りてくる

「おう、お疲れ。今日はもういいぞ、また明日な」

店内をかなり綺麗にしたつもりだが、北中は何も気付かない様子だ

初日はこれで終わるが、ずっとこんな感じなのか……

帰りの電車に揺られながら、先々不安を覚える

 

朝5時起き

熱いシャワーを浴びて、タバコをゆっくり吸った

少ししたら俺は新宿歌舞伎町へ向かう

仕事が終わるのは夕方5時

普通のサラリーマンのような時間帯

ワールドワンの時のよう無限に金が入ってくる訳では無い

こうして俺は一万ちょっとの小銭を稼ぎ、日々の暮らしを消化していく

何故金が無限にあった頃、何も考えず適当に遊んでいたのだろう

競馬に、ミサキのいるキャバクラで豪遊

遊び尽くした俺の手元に残ったのは一台のノートパソコン

もう過ぎてしまった事を今さら後悔したところで、取り返しなど利かない

元々俺は何一つ何も無かった人間である

強くなる事だけに取り憑かれた二十代

確かに強靭な肉体だけは手に入れた

しかし俺も三十代

ここから先は衰えていくばかり

今できる事は用意された職場で日々紳士的に取り組む

それが基本ラインである

先輩の坊主さんから教えてもらったパソコンの知識

俺より達者にできる者など無数にいよう

しかし俺はそれでもパソコンというものに、少しでも食い込んでいきたい

戦いにおいて背中を見たジャンボ鶴田師匠、そして三沢光晴さん

どれだけ途方もない背中なのだろう

俺には遠過ぎた

パソコンにおいても、坊主さんの背中はそれと近いものを実感している

幸い今のゲーム屋フィールドにしても、ビデオ屋メロンにしても暇な店だ

いくらでもパソコンをいじる時間はある

新しい環境へ身をおいて二日目

俺はノートパソコンも常に持ち歩く事にした

 

フィールドに到着するも、店内はノーゲスト

本来ゲーム屋は、客がやればやるほど負けて儲かる商売

還元するOUT率

たくさんの客が入っていれば、無理にキツい設定にする必要性はない

多くの客から少しずつ金を取ればいいのだ

暇な店はどうか?

基本渋い設定にせざるおえないので、客は来ても勝てる確率がどんどん減る

それでもフィールドは、他の普通のゲーム屋では入れないヤクザ系の客が多い

遊べる場所が一般人とは違って少ないヤクザ者たちは、こういった店で金を落としながら時間を潰すしかないのである

俺はパソコンをいじりつつ、山本と他愛ない世間話をして時間を過ごす

チャイムが鳴った

モニターには北仲の顔が写っていた

鍵を開けて中へ入れる

「おう、山本。いつもの」

山本はコーヒーカップにインスタントコーヒー、そして砂糖を十杯入れてからお湯を入れた

「え、山本さん。それ甘過ぎじゃないですか?」

「北中さんはいつもこうなんですよ」

美味そうにコーヒーを飲みながらゲームをする北中を見て、いつ糖尿病になってもおかしくないないと思う

一万円も使わない内に北中は席を立つ

「山本、〆が終わったら下に持ってくるだよ」とだけ言って、メロンへ降りていく

北中が出ていくと山本は大きな溜め息をついた

「どうしたんですか?」

「え、いや…、毎日の事ながら北中さんは本当にセコいなあって……」

本来オーナーなんて身勝手なもの

多少の無理難題は仕方ないものである

「まあまあ…、北中さんがこの店のオーナーだからある程度の事はしょうがないじゃないですか」

「え? 岩上さん、北中さんはオーナーなんかじゃないですよ」

「別にオーナーがいるって事ですか?」

てっきり北中の店だと思っていた分、衝撃は凄かった

「この店のオーナーは金子さんです。北中さんは…、なんて言ったらいいんですかね……」

「番頭みたいなもんですか?」

「いえ、そもそも北中さんはまったくウチと関係無いんですよ」

「……」

フィールドと北中は関係無い

しかしここで働くように持ち掛けたのは北中である

話がよく分からなかった

「岩上さんはまだ二日目だから分からないでしょうけど、この店ってヤクザ者の客多いんですよ。それで金子さんに北中さんが多少は顔利くからとしゃしゃり出てきて……」

「北中さん、面倒見良さそうですからね」

俺の台詞に驚く山本

「岩上さん…、おいおい分かると思うんですけど、北中さん…、あの人、金に関しては悪魔ですから」

「悪魔?」

「はい、本当に金に関しては酷いですよ。岩上さんも北中さんからいくら借りたのか分かりませんが、気を付けて下さい」

何故彼は俺が北中から金を借りたなんて思うのだろうか

真意は分からないが、変に誤解されたくもないので正直に答える

「え? 俺は金なんて借りてないですよ!」

「本当ですか? それは失礼しました。突然北中さん紹介で岩上さんが来たので、てっきり金でも借りているのかなと思いまして」

ゲーム屋の一従業員からここまで言われる北中

分からない事だらけだが、気を付けたほうが良さそうだ

ひょっとしたら山本は、オーナーが金子で名義社長が北中と言いたかったのではないだろうか

山本の話によると、〆用紙を持って来いと言うのは北中がフィールドの各台のINとOUTの比率を見てどの台が出易いかチェックする為

そしてゲーム数を見て、どの台がロイヤル出易いかを調べる為だけだと言う

確かに台の設定を知っていれば、INとOUTの差でどの台が出易いかは分かる

ロイヤルにしてもゲームの回転数で決まるから、メーター画面さえ見れればイージーだ

「これ見て下さいよ」

山本は店内の壁に貼ってあるロイヤルの様々なプリンター用紙を指す

白黒画面の余白にはロイヤルが出た日付け、そして出した客名が書いてある

「これ…、北中さん以外に清水とか迫田とか名前あるじゃないですか」

「はい」

「名前違うの書いているだけで、全部北中さんなんですよ、ロイヤル出してるの」

「これ全部がですか?」

「稀に他の人もありますよ。ほら、ここに山崎さんとか宮部さんとかあるじゃないですか。そういうの除けばほとんど北中さんが出したやつばかりです」

それが事実なら、九割は北中がロイヤルを出している事になる

「オーナーの金子さんは、うまい具合に利用されちゃっているだけなんですよ」

何だか面倒臭そうなところへ放り込まれた

二日目のゲーム屋はそんな印象だった

3時になり、下のメロンへ降りる前にも「岩上さん、北中さん、金に関しては悪魔ですから」とまた言う

 俺はノートパソコンを鞄に仕舞、重い足取りのまま階段を降りた

 

昨日と同じく俺がメロンへ到着すると、北中はすぐ上へ向かった

山本が〆をした店のデータが気になって仕方がないのだろう

テーブルの上に置いてある吸い殻が山のように積もった大きな灰皿

俺はゴミ袋へ捨てると、埃臭い店内の掃除を始めた

背後に人の気配を感じ振り返ると、冴えない小太りの中年サラリーマンが入口にいる

「い、いらっしゃいませ」

客は俺の事などまったく気にせず、椅子へ腰掛けビデオのファイルをパラパラとめくっている

裏ビデオ屋では初めての客

特にする事もないので、ノートパソコンを開いて起動させた

ボリュームを小さくしてパソコンゲームのエイジオブミソロジーを始める

少しして客は立ち上がり、俺の目の前に手書きのメモ用紙を置く

確か受話器の履歴に倉庫があるから、そこへ連絡してビデオを持ってきてもらうんだよな……

「はい」

ぶっきらぼうな感じで電話に出る相手

「え…、えーと……」

「早く! ビデオ? DVD?」

確かビデオならタイトル名、DVDなら番号だから、ビデオだよな?

「ビ、ビデオです」

「早くタイトル言って!」

妙にせっかちだな、コイツ……

「も、漏らしちゃイヤン……」

「はい、あとは?」

「と…、時々でいいの、隣の団地妻3」

卑猥なビデオのタイトルを口に出して話すのが、こんなに恥ずかしいものだとは思いもしなかった

「あとは?」

「く…、クリーニング屋ケンちゃん」

「あとは?」

「以上三本です」

電話はすぐに切れる

俺は値段表を見て客に「五千円になります」と言う

小太りサラリーマンはしわくちゃの一万円札を黙ってテーブルへ置く

引き出しにある財布から、五千円札を取り出し渡す

客は金を受け取ると、奥のソファへ腰掛け冷蔵庫にある缶コーヒーを飲んでいる

10分もせず、倉庫の人間らしき牛乳瓶メガネの太った男が店に来て、テーブルの上に三本のビデオテープを置く

牛乳瓶メガネは帰り際、冷蔵庫から缶コーヒーや烏龍茶の缶を数本バックに入れ、データ黙ってメロンをあとにした

俺は紙袋に三本のテープを入れて客へ渡す

「ありがとうございました」

小太りサラリーマンは黙ったまま店を出た

これがビデオ屋の一連の流れなのか

その後客は誰一人来ないまま二時間が経つ

5時を少し過ぎて北中が降りてくた

北中は数十万の札をテーブルの上に置き、丹念に綺麗な札と汚い札を分けている

「おう、お疲れ。明日も頼むだよ」

そう言って北中は、一番汚い一万円札を俺に手渡してきた

「あー、明日からここに前からいる従業員いるから」

こんな狭く暇な店で二人も従業員が必要なのか?

「分かりました、ではまた明日」

とりあえず返事だけはしておく

これで二日目が終了

何とも言えない不安だけが残る

 

 

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