こずみっく・ふぉーとれす

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「鬼滅の刃」に見る「思いの重ね方」(ネタバレ注意)

2019-05-13 01:49:08 | 駄文
 お久しぶりです。長らく書く事もなく、或いは書く事を纏めているうちに幾つかの旬を通り過ぎてしまったわたしのブログですが、今回は少し、「あまりにも出来が良いもの」について語らせてください。

 今回紹介するのは、現在アニメも放映されている「鬼滅の刃」です。長らくクソムリエの一人となるべく、幾つか作品に触れてきた私ですが、兄の紹介を経てこの作品に大きな価値を見出すに至ったため、少しだけこの感動を共有したいと思います。

 「鬼滅の刃」は、そのタイトルの通り、鬼を退治する作品です。炭焼きの少年炭治郎が、鬼に家族を殺害され、妹も鬼になってしまい、彼女を基に戻す方法を求めて鬼を退治する「鬼殺隊」に入隊する、と言うのが簡単なあらすじです。

 五話の時点ではまだ、初仕事すら始まっていないというすさまじいスローペースの作品なのですが、本作はそれにも増して、非常に注目すべき点があります。
 それが、タイトルにある「思いの重ね方」です。
 思いを重ねる、と言う言葉は、私の中ではかなり厳密に意味がある言葉なのですが、簡単に述べてしまうと、「共感」と「余韻」です。つまり、キャラクターに思いを重ねる事、キャラクターが思いを重ねる事、それを受け取る側の中から生じる行き場のない感情、その全てを示すものです。

 本作は鬼退治なのに、なぜ「思いの重ね方」に注目するのか。それは、主人公が「鬼と思いを重ねる」という歪な構造が存在しており、しかも昨今では珍しく「絶対悪が存在するのに被害者」という奇妙な構造をバランス良く組み立て切っているためです。
 例えば、作中では「元号鬼」などと呼ばれる沢山の手を持つ鬼が登場します。この鬼の過去について(ネタバレとなりますが)以下に示します。

 「元号鬼は「兄を食った」鬼であり、主人公の師匠に「囚われた鬼」である」


 という第一義的な説明が出来ます。しかし、彼の実際の思いに触れると、絶対悪であるはずの鬼が、被害者であると同時に人間的な存在であったことが分かってきます。
 あらすじに示したとおり、主人公の妹は鬼となり、一歩間違えれば同じように「兄を食った」鬼となったでしょう。兄弟という関係が二つの詮無い思いと重なります。そして、事情を知らない主人公にとっては、その手に触れて祈りを捧げる事しか出来ませんが、その手に触れる事の「象徴的な意味」に、傍観者である私達が「思いを重ねる」事が出来るのです。

 家族を失い、兄妹は互いに命を賭け、地面に頭を擦り付けて守り合い、それら全てを「失った鬼」と重ね、次には失われた肉体、魂と思いを重ね、それに取り残された優しい人物のもとに、今度は一つの「家族」が生まれる。家族から兄妹へ、兄弟の思いを重ね、師弟の思いを重ね、「家族」を重ねる。絶対悪でありながら否定しきれない鬼と言う存在を通して、重ね積み上げられた思いの余韻に浸ることが出来る。これほど洗練された余韻と思いの重ね方が出来る作品とは、中々出会えないと思います。特に、昨今のアニメーション業界では。
 仕方ないとはいえどうしても短期化してしまうアニメーション業界の「限界」を越え、この作品が世に現れた事、その事実はどれ程意義深い事を私は理解しているつもりです。



 実のところ、芸術の破壊が進む大衆文化と言うものが、私には耐え難いという本音があります。弱っていく芸術は死ぬこともままならない重病の患者のようで、多数による正義によって作られた身勝手な「自由」が、この芸術たちを否定しているという事実に強い憤りを覚えるのです。
 ですが、それは凝り固まった芸術の破壊者でもある。新たな技術が生み出したアニメーションは、文化的な発展期を終え、倦怠期に移行しているように思われます。小説、漫画、アニメーションというものから芸術が失われていったとき、その時にこそ、本当に大衆文化の生み出した蹂躙の問題点が浮き彫りになるでしょう。
 そんな中で、この作品には、(少なくとも多くの部分で)芸術的な弱々しくもネオンよりも美しい灯が灯っていると思うのです。だからこそ、この作品に価値を見出してくれた多くの方々に、感謝の念を抱いてやみません。

 このようなスロースターターながら非常に、非常に意義深い作品に価値を見出し、そしてアニメ化まで注目を続けてくれた原作既読者の方々、本当に、有難う御座います。
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