『えっちゃんとカズさん~1話~』
今日は夜勤だ。
仕事は楽ではないし、見合った報酬ではないと感じてはいるが、なんと言うか嫌ではないのだ。
多分自分に合っているのだろうと思う。
「はよーっ」
事務室の中に向かって声をかける。
「あ、えっちゃん、夜勤ね?」
事務長の長田さんがにこやかに言った。
私は両手で頭の上に○を作った。
少しゴリラっぽいなと思った。
更衣室では、同じく夜勤でのバディになるまりっぺが既に着替えを済ませていた。
「お、えっちゃんおはぁ」
「うす」
私も着替えを済ませたら日勤だった安田ちゃん、雅代さんとの申し送り。
私達が担当しているA棟1階は、他のエリアからすると『幾分楽な方』かもしれない。
それでも日によってだいぶドタバタ具合は違う。
さてさて、今日はどんな夜になるだろうか。
カズさんはどうだろう。
私が仕事を割と楽しめているのは、間違いなくこの人のおかげでもあるだろうと思える。
「カズさん今日はどんな感じです?」
申し送り時の確認は、いつもカズさんが一番最後だ。
特に問題行動は起こさないし、もの静かだ。
皆からは『また宇宙と交信してた』と言われているが、カズさんは私にそっと教えてくれた。
「ぼくは走馬燈と会話してる」のだと。
私はなんだかカズさんがえらくお気に入りなのだ。
やがて本当の夜が降る時間が来る。
仕事モードに切り替えつつも、カズさん観察の楽しい時間も始まるのだ。
~つづく?~