銀座平野屋には普段お客様の目にはふれないけれど、素敵なものが数々ございます。
それは江戸からの粋を伝える物であったり、先人の技や美を伝えるものであったり様々です。
その中で銀座平野屋には、先人の技が光る逸品もございます。

前回に続き、江戸の技術を伝える「3つの入れ物」のご紹介です。
✳︎1つ目はこちらから→★
2つ目です。

「鹿革巾着袋」(23.5×26cm)
鹿革で出来た巾着袋です。
実はこの巾着袋。元々は江戸時代の「革羽織」をつぶして作られたものです。
「革羽織」とは、鹿の揉み革(もみがわ)で作られたれた羽織です。
「革半纏(かわばんてん)」ともいいます。
江戸時代中期頃から、町火消や鳶(とび)の親方衆が
燻革(ふすべがわ)で仕立てて防火用としたり、
防寒用として着用されてきました。
表裏の色を変えて、どちらを表にしても着られるように仕立ててあります。
つまり、この革羽織は、江戸時代の革加工の技が結集したものなのです!
✳︎揉み革(もみがわ):なめし皮の表面を削り、もんで柔らかにしたもの。
表面に細かい皺(しぼ)がある。
✳︎燻革(ふすべがわ):松葉などの葉で燻された革

紐を通している白い細い棒状のものは「扱き(こき)」と言います。
牛骨でできています。
『扱き』は「しごく」とも読みますが、
「引き抜くように動かす(=扱く:こく)」ところから
「こき」と呼ばれているようです。

この鹿革巾着の表面です。
皺(しぼ)が見られます。
鹿革は湿気に強く、通気性に優れている一方で、
油分の多い性質為、扱いやすい素材だそうです。
そして滑らかな手触りなので、
昔から鎧などの武具や足袋としてでも使われてきました。
この巾着袋は、湿気を嫌うものを入れる為に作られたのでしょうね。
3つ目です。

「鹿革製叺(しかがわせいかます)」(10.5×7.5cm)
こちらも江戸時代の「革羽織」をつぶして作られた叺です。
✳︎「叺(かます)」についてはこちらをご覧下さい→★
鹿革は油分を多く含んでいるので、水に濡れても油分が失われることがありません。
つまり雨の日も使うことができる素材です。
水気を嫌う煙草を入れるのにちょうどよい素材なんですね。

かぶせを開けた状態の内部です。
こはぜや、スナップ状の裏座などはついていません。

かぶせを開いた外側です。
かぶせの「背」の白い模様のようなものは、
革羽織に描かれた大紋(背中の大柄の紋様)の一部です。
たばこを入れるための叺は、粋を好む人が己のこだわりをもって作られたものです。
江戸の花形職業の町火消が命を預けた革羽織で作られたというのは
持ち主にとって、最大の自慢のネタになったのでしょうね。
↓ちなみにこちらが銀座平野屋が所蔵する革羽織です。
(つぶしたものとは別物です)

銀座平野屋では先代の時代に、この貴重な革羽織で袋物や札入れを作りました。
今回ご紹介の巾着袋と叺は、江戸の加工技術が垣間見られる貴重な品々であり、
銀座平野屋の歴史を語る品々なんですね。