風のいろ・・・

どんな色?

人間は直視すべきだと思うよ・・・

2023年12月23日 | 羊の群

 

「江戸時代の墨絵や唄等に登場するカラスは、ハシボソカラスといって、昔から田畑を歩き土の中の虫や実を食べて生きていたカラスだったんだ。

しかし東京からすっかり田圃がなくなり、高層ビルが建ち並ぶようになると、ハシボソカラスは餌がとれず姿を消した。

それと入れ替わりにそれより体の大きい、由来森に住むハシブトカラスがこの都会にやってきた。

これが近年トラブルメーカーと悪名高い、都会のカラスの実態というか、歴史なんだ」

 

佐野は突然別の話を始めた。

誰からも嫌われ不気味がられている、真っ黒な姿をしたカラスの話を。

 

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「柔軟な発想と、慎重で用心深い知的動物のハシブトカラスが、何故都会に姿を現すようなったと思う?」

 

「それは彼らの暮らしていた森がなくなったからですか?」

 

「さすがだね、その通りだよ。

人間がカラスを都会に招き入れたことになる。

カラスは正直に生きているだけさ。

僕だってこいつらには迷惑している。

だけど常に問題の底に隠れている真実を、人間は直視すべきだと思うよ」

 

 

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「人が出した生ゴミが原因と言われているけど、即ちそれは都会の餌食がカラスを呼んだ。

それに皮肉にも、都会のビル街が伐採された森の構造に似ているのも要因だ。

肉食のハシブトカラスは、元来高い場所から狙いを定め獲物を捕らえるという習性がある。

それをそのまま生かすのに、高層ビルは森とさして仕組みが変わらない。

彼らは夫婦仲が良く、一生の間つがいを替えず共に子育てをするんだ。

むしろ歪んでしまった人間の失ったものを、このカラスは昔から変わらず守り続けてきた。

変わったのはカラスではなく、人間の方さ」

 

「そうだとしても、これ以上カラスが増え続けていいはずがありませんわ。

確かに人間は愚かなです。

莫大な資金を費やし絶滅寸前の動物を保護したかと思えば、増えすぎた動物は殺すという悪循環を繰り返しました。

こうした自然の摂理を曲げたのは、自分の野心ばかり考えてきた人間側ですわ。

でも、増えすぎた人間を殺すわけにもいきませんでしょう」

 

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「もしもこのカラスが、色とりどりの鮮やかな鳥類だったら見方も同じとは限らない。

黒い容姿に、人間は端から毛嫌いしている節はないだろうか。

ふとそう思うところがあって、つまらないカラスの話などしたんだが、僕はそんな人間のエゴを言いたかったんだ」

 

 

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「羊の群」より

 

 

 

 

 

 

 

 

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運とかチャンスは実力だけとは限らない・・・

2023年12月21日 | 羊の群

 

「まだ若いからかな、生活が荒んでゆくばかりで困っているんだ。

あんなに才能があるのに。

僕はね、今まではなの歌でどれだけ助けられてきたかしれない。

だからこそ、その才能を伸ばしてやりたい、手助けしたいんだ」

 

 

「いくら才能があっても、歌は心が大切ではないかしら。

他人を感動させるのは才能ではなく、その人の生き様が問われるのだと思いますわ。

たとえ苦しい困難な環境があろうとも、選択するのは本人の意志です。

誰のせいでもないと思いますわ」

 

 

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「手厳しい意見だね。

それはそうなんだが運とかチャンスは実力だけとは限らない、不条理や理不尽なこともある。

チャンスは決して平等には訪れてはくれず、実に残酷な場合もある。

はなの場合が、まさしくそうだ」

 

 

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小説「羊の群」より

 

 

 

 

 

 

 

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くたびれた神経に触れた・・・

2023年12月20日 | 羊の群

 

「死ぬつもりであそこへ行ったんだ。多分、そうだったと思うよ。

もう昔のことで今ではすっかり笑い話だけどね。

確かにあの頃の僕は、生きていることに息が詰まりそうだった」

胸の内を明かした。

 

 

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「初めて耳にしたはなの歌は、言いようのない優しい旋律で僕のくたびれた神経に触れた。

それは深い慰めに満ちていて、心の深淵にまで達する安らぎだった。

生まれてきた素のままの自分に戻されていくような、肩から余分な力が抜け落ちていくような。

少しも躊躇わずに泣けた。

止めどもなく泪が零れたあとには、死にたいと思う暗い気持ちが薄らいでいた」

 

 

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「確かに彼女の歌にはそんな力がありますわ。

あの若さで、人の心を瞬時に捉えるテクニックは圧巻です。

そんな脅威とも思える彼女の歌声は、まるで魔法のようですわ」

 

 

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「はなは見ての通りアメリカ人との混血だ。

詳しい事情は知らないが、小さい頃から母子家庭で育ったらしい。

十六の時その母親も亡くなり、単身大阪からこっちに来たんだ。

マスターの古くからの知人の娘ということで、いつの日からあの店で歌うようになった」

何か言いたくない只ならぬ事情があるのか、話の終わりに間延びした言い方をした。

 

 

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小説「羊の群」より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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自分のしたことへのしっぺ返しを・・・いつか人間は

2023年12月16日 | 羊の群

 

「たとえどんな小さな組織にも人間が集まる所には、必ず官僚が生まれ、権力争いが生じる。

権力による派閥ができるんだ。しかも権力は必ず腐敗する。

まるで流れの止んだ濁った泥沼のように。

それはどうにも避けられない人間の本能でもあるかもしれない」

 

 

「泥沼に人は生きられませんわ。

いつかきっと窒息してしまいます。

川のように水は流れて行かなければならないでしょう。

そんな時代はそう長く続きませんわ。

いつか人間は、自分のしたことへのしっぺ返しを受けます」

 

 

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「人間が人間らしく生きるためには、どうしたらいいのでしょう?

自分に正直に生きるって、どういうことなのかしら?」

 

 

 

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小説「羊の群」  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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人間の悲しみ・・・

2023年12月12日 | 羊の群

 

「フランシスコ・サレジオという人も言っていましたわ。

『純粋なものは、天国と地獄とにしかない』と。

ということは、現実のこの世界にはありえないのかもしれませんわね。

完全な純粋なものなど」

 

 

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「パスカルのパンセの一句にもこういうのがあったな。

『人間は天使でもなければ禽獣でもない。

天使になろうとする人間は、かえって禽獣に堕ちる』って。

自分こそが正義と思う人間が、悪魔にもなりうるということだろう。

そんな人間は簡単に他人を差別し裁いてしまう。

そもそも人間の感じてやまない孤独感が厄介なんだ。

孤独が人を恐ろしい犯罪へと誘うが、反対に、他人への優しさにも変われる。

最も扱いにくく処理に困る感覚だ」

 

 

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「犯罪の影には常に人間の悲しみ、疎外感が沈んでいると言われます。

何となくわかるような気がしますけど、私はそんな言い訳卑怯だと思いますわ。

自分の弱さや犯した罪を、他人のせいにするなんて、どうしても納得できませんの。

もっと強く生きるべきで、誰かに甘えるべきではありませんわ」

 

 

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小説「羊の群」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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