風のいろ・・・

どんな色?

良心が少しずつ麻痺・・・

2023年12月11日 | 羊の群

 

「男と女が互いに求め合うのは、動物が単に発情するのとは違う。

動物は本能から子孫を残すために営みを育むが、人間の場合は、価値観や人生観という意味が含まれると僕は思うよ。

いや、そう信じたいね」

 

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

 

「現在の性の解放は、情報の氾濫と愛の欠乏からくるものではないかな。

そのため昔あった倫理観や道徳観が崩れ、奥床しさや慎み深さのようなものが嘲笑されるようになった」

 

「愛の欠乏・・・ですか」

 

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

「つまり愛が欠乏している肉体関係は、深く傷付けあうばかりか、精神の崩壊へと向かうということなのかしら。

良心が少しずつ麻痺してしまい、心のつながりが壊れてゆくような。

大切なものを見失ってしまうのですね」

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

「そうだな、例えるなら恋は影で、肉体を求め合う感覚や官能の世界なら、愛は光かな。

つまり精神的世界。

超感覚的なものへと絶えず上昇し続けるもの。

だから恋の命は短く、愛は永遠に続く。

恋は愛の影さ、実在ではない。

所詮僕にもわからないけどね。

今まで誰かを本気で愛したことなどなかったから」

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

小説「羊の群」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

God Bless You ❣

 

 

 

 

 


人間の孤独・・・

2023年12月10日 | 羊の群

 

「男女の関係において『恋』と『愛』とは存在のあり方が違うのではないでしょうか?

恋が、障害において燃え安定において冷めるものなら、愛は、人間の孤独から生み出され、人間の孤独によって育てられてゆくのではないかしら。

とはいえ本当のところは、私にもよくわかりませんわ。

恋と愛の違いだなんてとても難しくて。

ただ一般論として申し上げたまでで恥ずかしいですわ。

それに孤独とは多分、知能の高さや感性の違いによっても、感じる度合いがそれぞれに異なるのでしょうから。

ともすれば、どんなことにも慣れってありますでしょう?

慣れてしまえば孤独だって、そう悪くないかもしれませんわ」

 

 

 

「孤独に慣れなんてあるのかな?

もしあるとするならどれはきっと、感覚の麻痺だろうな」

 

 

 

 

 

小説「羊の群」より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

God Bless You ❣

 

 

 

 

 


孤独への恐怖・・・

2023年12月09日 | 羊の群

 

「まだ二十代半ばで、あんな辛辣な鋭い視点で物事を捉えることができるなんて・・・・」

 

 

・・・・・・

 

 

「そして意外だったな、タイトルが『孤独への恐怖』だなんて。

人が真の孤独を痛感させられるのは、独りでいるときではなく、

むしろ大勢の中にいるときであると言ってのけたのには。

あながち、若い人でもそう思うものなのかと驚いたね」

 

 

・・・・・

 

 

「そんな大層なことではないんです。

フロムというアメリカ人の心理学者が書いた本を読んだ上で、感想を述べたにすぎませんわ。

いわゆる受け売りみたいなものです。

フロムは人間にとって一番強い欲求は『孤独からの脱却の要求』であると言っています。

私は単にその通りだと思ったまでのことですわ」

 

 

・・・・・

 

 

「羊の群」・・・P104~P105

 

 

 

 

 

 

God Bless You 

 

 

 


思考・・・

2023年12月08日 | 羊の群

 

街を行き交う男も女も同じような服を着て、同じ髪型をし、同じ顔を見せていた。

 

まるで思考することを自ら拒んでしまったかのようだ。

 

人間の悩みや心配はどんどん単純化され、人間が生み出した文化はもはや、生きるためのものではなくなりただ便利な方へとばかり傾き、人間の脳を退化させ社会を腐敗させている。

 

まり子もまた考えるのを止めた。

 

だから何だというのだろう

 

 

・・・・・・

 

 

 

こんなくだらないことへ考えが及ぶことにすら腹立たしい。

 

人生を問う哲学は、人間に何の意味ももたらさなかったし、教訓さえ与えてはいない。

 

理想主義達は時代を通り過ぎる風のようなものだ。

 

何故なら、人間の心を永続的に捉えることはできなかったからだ。

 

道標を失った人間は、これから何処へ行き何処へ向かうのだろうか。

 

エンジンの断続音を聞きながら、突然かん高い音を立てて止まる車の中で、眼の前を立ちはだかる信号の赤い点滅をまり子は凝視した。

 

 

 

「羊の群」・・・P101-P102

 

 

 

 

 

 

 

 

God  Bless  You 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この真実を・・・

2023年12月07日 | 羊の群

 

「この真実を君に言うべきか迷っていた。

おそらく君は自分の本当の気持ちに気付いていなかったろうから。

君のそれそれはこれから生きていく上で、辛いだけで、出口もない。

知らなかった方が余程楽だったろう。

でもそれが真実なら逃げないでくれ。

そして乗り越えて本当の自由を手に入れろ。

体面も、形も、他人の目も、自分の邪な欲望から解放されたとき、

そこに答えたあるはずだ。

君になら見つけられるし、到達することができる」

 

小説「羊の群」・・・P88

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

God Bless You