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ドン・キホーテDon Quijote de la Mancha の星占い

2022-02-24 08:30:28 | エッセイ

 1605年、ミゲル・セルバンテスの書いたドン・キホーテが出版され、以来、400年余、押しも押されぬ名著として君臨してきた。一見、滑稽本のように見えるが、当時の文学作品の批評が入っていたり、詩歌がふんだんにちりばめられていたりと、教養がないと読めない。

 私の本棚にちくま文庫のドンキホーテ4冊中3冊並んでいるが、第1巻がない。購入当初、少し読んだ記憶があるからあったのは間違いないが、その後の転居などにより失われたのだろうと思う。少し時間ができたので図書館から第1巻を拝借して読んでみた。すると、第12章に、

「死んだ男はこの山国にある村に住んでいた、お金のある家柄の良い旦那衆で、かつてはサラマンカで長い年月勉強をしていたが、それが終わると生まれた村へ帰ってきたが、なんでもじつによく知っていて、よく本を読んでいるという評判であった。中でも、世間の噂によると星だの、あの空で太陽や月におこることだのの学問を知っていたということで、その証拠には太陽や月の・・・」

・・・

「『今年は大麦をまけ、小麦はまくな。今年は隠元豆をまいたらいい、大麦はいけない。来年はオリーブ油の豊年だ。つぎの三年はただの一滴もとれまい』などと言うようにあの男が教えてくれるとおりにみんな従ったからなんです」

「そういう学問は占星術というんです」と、ドン・キホーテが教えた。

という一節が見つかった。

 サラマンカ大学は、wikiによれば、「マドリードの西北西に位置する都市サラマンカにある大学。現存するスペイン最古の大学であり、オックスブリッジ、パリ大学、モンペリエ大学、トゥールーズ大学、ボローニャ大学などとともに12〜13世紀頃にヨーロッパで設立された中世大学の1つでもある。「知識を欲する者はサラマンカへ行け」と言わしめた。・・・大航海時代には、天文学などに基づいた航海計画が綿密に練られた場所となった。」とのことで、当時の作法に従い、占星術が教えられていたようである。占星術の背景となる学理=編暦法は「天文学などに基づいた航海計画が綿密に練」るために必要な技法だった。コロンブスがスペイン国王の許可・支援によりスペインから船出したが、それとサラマンカ大学が全く無関係だったとは思えない。

 スペインはがちがちのカトリックの国である。ザビエルもロヨラも出身はスペインだ。かつて占星術はキリスト教とぶつかる(天が人間生活を予言するという占星術は神こそが全知全能とするユダヤ・キリスト教に反する)ことからキリスト世界からは排除されていたが、ルネサンスと共によみがえり、がちがちのカトリック国でも普及していたことが窺える。

 ケプラーの「新天文学」の出版、ガリレオの天体望遠鏡による最初の天体観測がともに1609年で、ドン・キホーテの出版が1605年と、ほぼ同年である。読書が相当普及し、それと共に聖書も一般に行き渡るが、占星術書も普及し、科学書も世に現れるという面白い時代だった。中世ヨーロッパでは消えていた占星術がルネサンス期に復活した。文化・科学が普及したところに迷信が生まれる、という話である。その前のもっと生活の糧を得るのに汲々としていた時代には生活の知恵としての迷信めいた教えあったと思うが、それはこの中世以降の迷信とは性格が異なるように思う。

 昨今のコロナ騒動にも相当に迷信めいた話が飛び交っている。迷信がはびこると犠牲が生まれる。学校を閉鎖すれば不幸な若者が生まれ、仕事を失わざるを得ない親も出てくる。コロナは怖い、人と会うな、在宅勤務だ-そのせいで公共交通機関の値上げが検討されている。それで済めばよいが、これで廃線が促進される。また、故郷の年老いた両親の面倒も見られず、寂しく亡くなる、などという話もあるーこれは「コロナはサリン・ガスよりも恐ろしい、空気中、どこにでもに浮かんでいるから広々とした公園の中でもマスクだ」という迷信の犠牲ではないのか? 現代人は占星術を迷信と笑うことができるのだろうか?

(2022.2.24. 星学館)



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