お習字でやるように、水墨画も墨を硯(すずり)で擦って使います。
と言っても、墨も硯も使ったことのないというお友だちは案外多いのではないでしょうか。
私が小学校に水墨画を教えに行った時、
みんなのお習字箱の中の墨は、新品のまま箱に収まっていました。
聞けば「墨汁を使うため、墨を擦ったことがない」と。
なのに、墨を一度も擦ったことのないはずの硯は、
固くなった墨汁が何層も積み重なって、ガビガビになっていました。
硯の深く沈んだ部分は『墨池(ぼくち)』『海』などと呼ばれます。
それに対比して、墨を擦る平らな部分を『墨堂(ぼくどう)』『丘』『陸』などと呼びます。
硯は、他の部位にも名称があるので、調べてみると面白いでしょう。
さて、ガビガビになった硯はぬるま湯につけて、
柔らかなスポンジでやさしく洗ってあげてください。
墨は、煤(すす)と膠(にかわ)でできているとお話しました。
タンパク質である膠は乾燥すると固まり、熱を加えると溶ける性質があるからです。
硯の『丘』の部分は、
目には見えませんが、その表面はおろし金のような凸凹になっています。
その凸凹を鋒鋩(ほうぼう)と言います。
その鋒鋩が墨とやさしく摩擦し合って、粒子の細かな墨が擦れるのです。
なので、洗うときは研磨剤や、硬いスポンジなどは、使わないでください。
筆も、墨が乾いて鋼鉄の杭のように固くなっているのをいくつも見ました。
固くなった筆は水に浸して、時間をかけて少しずつほぐしてあげてください。
水墨画は筆一本で幅広のグラデーションも、
細い一本の線も描くことができます。
そのため筆の状態、特に穂先の状態をとても大切に考えます。
筆を長く、良い状態をキープして使うにはお手入れが大切です。
お習字では考えられないかもしれませんが、
水墨画の場合は、創作中も、筆はこまめに水で洗うことが
美しい墨色を表現するのに欠かせません。
道具が整ったところで、
さあ、ぜひ水墨画を試してみてください。
と、今日は実践的なお話でした。
次回は『夏休みの自由研究に水墨画を!』の総括として、
そもそも芸術ってなんだろう、という疑問に触れてお話します。

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