昨年2019年10月に、東京都美術館で開催された
『第58回 現水展』の受賞作品をいくつかご紹介いたします。
その前に水墨画について、少しお話ししますね。
前回は墨色についてお話したので、今回は『余白』についてです。
水墨画は、和紙の白と墨色で表現する芸術です。
『光と影のアート』と呼んでも佳いでしょう。
原研哉も『空白の意味』の中で等伯の『松林図』を取り上げていますが
多くの日本人が知る等伯の『松林屏風図』は、
和紙の白と、墨色によって茫漠とした松林が表現されています。
画面のほとんどは白場、何も描いていない和紙の部分、
植物からなる和紙が、呼吸をするままに残された部分です。
何もないその空白は、大気のように濃密で、
鑑賞者が入り込む扉となって開き、
見る側の心を朧な墨色の世界に、深い奥行きの松林へと引き込みます。
「白紙も模様のうつなれば心にてふさぐべし」
とは江戸時代の絵画技法書『本朝画法大全』に、
土佐光起によって記された言葉です。
『第58回 現水展』の文部科学大臣賞受賞作品は、
まさに水墨画の醍醐味であるこの『余白』が生かされた作品です。
(写真撮影したものをデータ化しているため、かなりハイキーで
実際の作品の深みが伝わりにくいですがご容赦ください)
水墨画は、余白を何もない「無」と見なすのでなく、
「大気」や「時間」や「何かに向かうエネルギー」や「兆し」
などを表現するものとして、和紙の白を生かして描く芸術なのです。
国宝 松林図屛風 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
『第58回 現水展』文部科学大臣賞 受賞作品「波のシンフォニー」元浜 久子
『第58回 現水展』東京都知事賞 受賞作品「厂道」其田 利舟
〈全国公募展告知〉
※秋に東京都美術館で開催される『現水展』10/7(水)~10/14(水)は全国公募です。
応募作品は、水墨画の技法に絞ったものではありません。
受賞作品をご覧いただいて分かる通り、モチーフも表現方法も自由です。
規定サイズで、主に墨を使っている平面作品であれば、どなたでも参加いただけます。
出品受付は7/1〜7/14です。
応募要項がまだ公式ホームページに上がっていませんが、
お問い合わせフォームか、お電話で連絡を入れれば、事務局から送付されます。
お気軽にお問い合わせくださいませ。
お問合わせフォーム :http://www.sumiart.jp/cgi/form.html