墨美神®︎ 鳳香〜歌川派墨絵師のすみeブログ

大臣賞受賞 墨絵師 樋口鳳香のアート系ブログ
墨で描くかぐわしき眼差しの美神たち〜『墨美神®︎』展覧会情報

【くり返される奇妙な質問について書いてみました】

2025-01-31 11:32:48 | solo Exhibition 樋口鳳香・墨美神®︎展

展示のたびに、いろんな方にご高覧いただいて、

様々な角度からお話を聞かせていただけるのは、ありがたいことです

作品が鏡となり、人によってどう受け止められているか理解できるからです。

画廊に展示する作品は特に、

自分が描きたいものだけを描くのではなく、

時代やお客さまに寄り添って創作するものと思っているので

感想や疑問など、どんなことでも気軽に聞かせていただければと思います。



そんな対話の中で

奇妙な質問だな、と思うことが一つあります。

それは

『ドーサを塗るんですよね?』

という質問です。

「たらし込み技法でもしない限り、塗りませんよ」と応えると、

「でもドーサを塗らないと滲むでしょ?」

と仰います

『滲んでこその水墨画じゃないですか。

にじまなかったら、下絵をなぞるだけの“ただの塗り絵“ですよ』

と思うのですが、、、




推察するに、そういう質問をされる方は

画廊を回り、日本画家に下地処理の話しなど聞いて

相応な知識をもっている絵画愛好家さんだと思います。

残念に感じるのは、絵画愛好家さんであっても

水墨画の醍醐味を分かっている人が少ないという現実です。

水墨画人口の圧倒的数の少なさ、魅力を伝える発信の弱さも原因でしょうが

展示のたびに『ドーサ塗るんですよね』と仰る方が現れます。




「塗りませんよ。墨が滲まなくなるじゃないですか」

「えーっ!ドーサ塗らないんですか!それでこんなにキレイに描けるんですか!」

って大袈裟に驚かれる方もいますが

聞かれる私の方がなんでそこにばかりこだわるのか驚きです(笑)




具体的にお話すると、

ドーサを塗ると水墨画で使う『青墨』は、黄色に寄って発色します。

それが何を意味するかと言うと『=滲まなくなる』という変化です。

専門的な話になりますが、水墨画は青墨を主に使います。

それには理由があります。

青墨とは松の煤を使った松煙墨を言います。

この煤は顕微鏡で見ると粒子が均一でない、大小あるのが特徴です。

その墨を軟水(←大事なポイントです)で薄めることによって、膠と粒子をバラけさせ、

それを生の和紙や布の繊維に、やわらかく染み込ませることによって、

大小の粒子が繊維の奥にランダムに染み込んでいきます。




和紙や布の複雑に入り組んだ繊維の中で、バラバラになった粒子。

そこに光が反射して可視化されるため、青墨の薄墨は立体感を宿すわけです。

『墨に五彩あり』とはそう言う意味もあるわけです。

それに反して、主に書道に使う茶墨(油煙墨)は煤の粒子が均一なため、

くっきりとした墨色が表現できるわけです。



和紙にドーサを塗ると水墨画の生命線である『生の和紙』(布地も同じく)の呼吸を止めてしまいます。

繊維の深くまで耐水性のあるミョウバンの膜が張られて、質感が変化し、

青墨の大小の粒子は、奥行きのない平坦な表面を滑るしか術がなくなります。

だから、和紙や布の繊維に広く絡みついて実現する、

複雑な光とのコラボレーションによる五彩の深みは失われてしまうんです。



きっと「滲んだら困るでしょ?」と言う方々も、

大観の『生々流転』を見て、墨の美しい滲みに感動するだろうし、

等伯の『松林図』の朦朧とした薄墨表現に心を動かすのだと思いますが。

おそらくそうやって訊ねてくる方の多くは東洋画の原点が墨にあるとはもうみじんも思ってなく、

その知識の底辺には西洋画とのハイブリッドを目指した

日本画唯一主義に偏りがちな明治維新後の美術教育があるのかもしれませんね。




話が長くなりましたが、つまり


滲むからこそ水墨画は美しいんです



2025コラージュ





さて、今年の個展はちょうど桜の頃になるようです

ぜひ薄墨桜と墨美神に会いに来てくださいね




個展DM告知用_表



個展【樋口鳳香・墨美神®︎展】
会場:銀座画廊 美の起原
(銀座8丁目4−2 高木屋ビル 1F)
会期:2025.3/28(金)~4/3(木)・日曜休廊
12:00~18:30(最終日16:00閉場)




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