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墨美神®︎ 鳳香〜歌川派墨絵師のすみeブログ

大臣賞受賞 墨絵師 樋口鳳香のアート系ブログ
墨で描くかぐわしき眼差しの美神たち〜『墨美神®︎』展覧会情報

夏休みの自由研究に『水墨画』を!〈その5・硯と筆〉

2019-08-20 11:52:16 | すみe-ART

お習字でやるように、水墨画も墨を硯(すずり)で擦って使います。

と言っても、墨も硯も使ったことのないというお友だちは案外多いのではないでしょうか。

私が小学校に水墨画を教えに行った時、

みんなのお習字箱の中の墨は、新品のまま箱に収まっていました。

聞けば「墨汁を使うため、墨を擦ったことがない」と。

なのに、墨を一度も擦ったことのないはずの硯は、

固くなった墨汁が何層も積み重なって、ガビガビになっていました。



硯の深く沈んだ部分は『墨池(ぼくち)』『海』などと呼ばれます。

それに対比して、墨を擦る平らな部分を『墨堂(ぼくどう)』『丘』『陸』などと呼びます。

硯は、他の部位にも名称があるので、調べてみると面白いでしょう。



さて、ガビガビになった硯はぬるま湯につけて、

柔らかなスポンジでやさしく洗ってあげてください。

墨は、煤(すす)と膠(にかわ)でできているとお話しました。

タンパク質である膠は乾燥すると固まり、熱を加えると溶ける性質があるからです。



硯の『丘』の部分は、

目には見えませんが、その表面はおろし金のような凸凹になっています。

その凸凹を鋒鋩(ほうぼう)と言います。

その鋒鋩が墨とやさしく摩擦し合って、粒子の細かな墨が擦れるのです。

なので、洗うときは研磨剤や、硬いスポンジなどは、使わないでください。



筆も、墨が乾いて鋼鉄の杭のように固くなっているのをいくつも見ました。

固くなった筆は水に浸して、時間をかけて少しずつほぐしてあげてください。

水墨画は筆一本で幅広のグラデーションも、

細い一本の線も描くことができます。

そのため筆の状態、特に穂先の状態をとても大切に考えます。

筆を長く、良い状態をキープして使うにはお手入れが大切です。

お習字では考えられないかもしれませんが、

水墨画の場合は、創作中も、筆はこまめに水で洗うことが

美しい墨色を表現するのに欠かせません。



道具が整ったところで、

さあ、ぜひ水墨画を試してみてください。



と、今日は実践的なお話でした。

次回は『夏休みの自由研究に水墨画を!』の総括として、

そもそも芸術ってなんだろう、という疑問に触れてお話します。


sumitools.jpg



#樋口鳳香 #水墨画 #夏休み自由研究 #夏休みの宿題 #日本の伝統文化 #日本の文化 #墨絵師
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夏休みの自由研究に『水墨画』を!〈その4・和紙〉

2019-08-20 11:51:32 | すみe-ART

水墨画は、硯(すずり)で擦った墨と、水とを、筆に含ませて、和紙に描いていきます。

水を多く使うことで、学校で学ぶお習字の墨色とは違って

墨の濃淡を表現することができます。

墨の濃淡は滲みによって、美しく表現できます。

この滲みを表現するのに欠かせないのが和紙の存在です。

滲み具合も、墨色も、どの紙に描くかによって変化します。

紙は、その人が求める作風によって使い分けます。



「書道で使う紙と違うのですか?」と聞かれることがあります。

特に書道用、水墨画用と分けて考えることはありませんが、

粒子が細かくクリアな濃墨が表現できる油煙墨を使う書道の場合、

墨の滑りの良い紙を使うことが多いです。

特に学校の授業で使っている紙は、

感触で言えば表面がツルツルとしていて、滲みにくい紙です。

水墨画は、墨の滲みの美しさを活かして表現する芸術です。

そのため多くの作家さんは、滲みの良い紙を使います。

一般的に学校のお習字で使う紙とは、違うものです。



和紙は、植物からできています。

主だったものには、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)、麻(あさ)などがあり、

それらの植物の繊維を細かく砕いたものに

トロロアオイなどから取れる粘りのある液体を加えて、漉きます。

(トロロアオイについては、日本で最後の生産者が廃業したことが近年ニュースになりました。
ぜひ深く調べて欲しい題材です)

紙漉きの様子はテレビなどで見たことがあるのではないでしょうか。

簡単に書きましたが、1枚の和紙ができるには、

植物を育てるところから始まるので、とても長い時間と工程が必要とされます。



和紙の断面を顕微鏡で拡大すると、細かい植物の繊維が複雑に重なり合っています。

墨が滲むのは、和紙を構成する繊維に隙間があるからです。

その隙間に薄墨が滲んで行って、作為的には表現できない墨の宇宙が表現できます。

和紙によって表現される計算できない滲み、

その印象が鑑賞者の心を揺さぶるのです。



今日はここまでにします。


抽象イメージ1




#樋口鳳香 #水墨画 #夏休み自由研究 #夏休みの宿題 #日本の伝統文化 #日本の文化 #墨絵師
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夏休みの自由研究に『水墨画』を!〈その3・墨の続き〉

2019-08-19 12:20:26 | すみe-ART

墨のことを、もう少しお話します。

墨には松の枝などを燃やして取る煤(すす)を原料にした『松煙墨(しょうえんぼく)』と

菜種油など油を燃やして取った煤(すす)を原料にした『油煙墨(ゆえんぼく)』があります。

『松煙墨』は少し青みがかった色をしているため『青墨』とも呼ばれています。

水墨画で使うのは、この『松煙墨』、つまり『青墨』です。

お友だちの皆さんがお習字で使っているのは『油煙墨』です。




煤は炭素の微粒子ですが、この2種類の墨の原料となる煤の粒子には違いがあります。

油煙で取れる煤の粒子は細かく、均一な大きさをしています。

松煙で取れる煤の粒子は油煙より大きめで、その大きさも均一でなく大小のムラがあります。

そのため、濃墨で書くお習字の文字は『油煙墨』の方が滑りが良く、艶のある文字を書くことができます。



水墨画はその名の通り、水をたっぷり使って、墨の濃淡の美しさを表現します。

水墨画で用いる『松煙墨』=『青墨』は、粒子に大きさのムラがあるため、

作品が仕上がった時、墨の濃淡の表現だけでなく、光の当たり方によって、見る角度によって、

墨の粒子が導く立体感と、深みを感じることができるのです。



水墨画は墨一色で表現されるのに、いろんな色を感じることができる。

「墨に五彩あり」などと言われますが

実は化学的にも裏付けされた部分もあるのです。

しかしやはり「墨に五彩あり」の本当の意味は、

鑑賞者の心のひだで感じる色のことだと思います。

それはモノクロ写真に感じるものに近いのではないでしょうか。

カラー写真よりも、モノクロ写真に

より多くのドラマを感じることはないですか?

情報が少なければ、人の心は欠けた部分を補おうとします。

その心の動きが加わることで、作品をより印象深く感じるのかもしれません。



さて、次回は紙(和紙)についてお話します。



にじみ舟wm



#樋口鳳香 #水墨画 #夏休み自由研究 #夏休みの宿題 #日本の伝統文化 #墨絵師
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夏休みの自由研究に『水墨画』を!〈その2・墨〉

2019-08-18 06:30:31 | すみe-ART


水墨画は、『墨』と、『硯(すずり)』と、『筆』と、『紙(和紙)』と、『水』

を使って表現する芸術=絵画です。



『墨』、『硯(すずり)』、『筆』、『紙(和紙)』は文房四宝(ぶんぼうしほう)と呼ばれ、古くから大切に使われてきた道具です。

今日からは、それぞれの道具について解説していきます。



まずは水墨画にとって肝心かなめの『墨』についてです。

現代の文房具の代表『鉛筆』は、その名の通り、鉛(黒鉛)を使ったものです。

では墨は?

墨は『煤(すす)』と『膠(にかわ)』で作られています。

今の時代で『煤(すす)』を想像するのは難しいかもしれませんね。

歌の中でも煙突掃除屋さんは煤だらけになったものですが、

現代はサンタクロースも煙突から入ってくることはないですものね。

『煤(すす)』とは、油や、木材を燃やした時に壁や天井に溜まる黒い物質。

いわゆる炭素の微粒子です。



そして『膠(にかわ)』とは

この煤の粒子をつなぎ合わせる接着剤の役割となるものです。

動物の骨や皮を煮込んで取れるタンパク質、ゼラチンです。



ちょっと化学的要素も入ってきて、自由研究らしくなってきたでしょうか。



さて、この『煤(すす)』と『膠(にかわ)』を混ぜ合わせて、墨ができます。

できたては、柔らかい状態なので、それを乾燥させます。

そのため、墨作りは冬。寒い乾燥地帯が適しているそうです。

墨といえば奈良が有名ですが、それには歴史的背景もあるようです。

古くは都であったことで、多くの寺社が集まり、

写経や学問に必要とされた墨の生産が盛んになったようです。



『墨』には、大きく分けると『松煙墨』と『油煙墨』の2種類があります。

それは原料の『煤(すす)』が何から取れるかの違いです。

『松煙墨』=松の幹など

『油煙墨』=菜種油など植物油など




この2つの違いは水墨画の表現に深く関わってきます。

そのため、芸術鑑賞の観点も加えながら、次回解説を続けます。

今日はここまでです。


自由研究2



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夏休みの自由研究に『水墨画』を!〈その1・文房四宝〉

2019-08-17 08:46:55 | すみe-ART

「夏休みの自由研究に『水墨画』を選ぶ小学生は、いないのではないだろうか」

と、ふと思いました。

墨を用いた芸術表現は、日本の伝統文化なので、

自由研究にどんどん使って欲しいテーマです。

しかし、子ども向けの「水墨画で自由研究しよう」なんて本も、

「レッツチャレンジ水墨画!」なんて水墨画教材も、ありません。

そこで、せっかく夏のこの時期なので、

お子様向けに、水墨画のことを少しわかりやすく解説してみようと思います。

で、これは佳いテーマだと思ったら、

ぜひ自由研究レポートにまとめて、学校で発表してみてください。




一度にいっぱい伝えると「あ〜、もうめんどくさい」となってしまうと思うので、

今日はまず、一つだけお教えします。



水墨画は、『墨』と、『硯(すずり)』と、『筆』と、『紙(和紙)』と、『水』

を使って表現する芸術=絵画です。

『墨』、『硯(すずり)』、『筆』、『紙(和紙)』は

文房四宝(ぶんぼうしほう)と呼ばれて古くより大切に使われてきた文房具です。

現代では文房具は多様化して、たくさんの種類がありますが、

強いて文房四宝に代わるものを挙げるなら、『鉛筆』『鉛筆削り』『ノート』でしょうか。

鉛筆は、さっと取り出せて、すぐに書くことができますよね。

墨を硯(すずり)で擦って、それを筆につけて描くなんてめんどくさい!

と思うかもしれませんが、

日本で鉛筆が本格的に使われ始めたのは明治維新後なので、150年ほど前です。

その前の時代の人々は文房四宝でもって、文字や絵を書いてきました。

水墨画はもちろんですが、彩色した絵であれば、その下絵は墨で描いていました。

日本を代表する映画監督のひとり、市川崑監督の『黒い十人の女』(1961年公開)には

主役の女性が、墨をすずりで擦って帳簿をつけるシーンが登場します。

昭和の中期には、文房四宝はまだ生活の中で生きていたんですね。

さて、今日はここまでにします。

次回は、文房四宝のひとつずつの道具について解説していきます。


水墨画のこと1WM



#樋口鳳香 #水墨画 #夏休み自由研究 #夏休みレポート #日本の伝統文化 #墨絵師


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