ある日、90歳を超える母が目を丸くしてこう云うのだ。
「夜中に目が覚めるとね、黒い蝶が飛んでいたの」
母は、認知症の症状は一切ない人である。
多少神経質で心配性ではあるが、日常生活に差し障りがあるわけではない。
肉体的には弱ってきてはいるが、自立した生活を送っている。
ただ心配事が多く、ストレスも一人で抱え込むタイプである。
なかなか寝付けなく、処方してもらった睡眠薬を飲まないと眠れないとも言っていた。
私は、夢でも見たのだろうと、軽く受け流した。
その日母もそれ以上はそのことに触れなかった。
それから数日して、母は再び同じことを言った。
「黒い蝶がひらひらと飛んでいるのよ。本当よ」
何か訴えているかのようでもあった。
母は2ヶ月に一度のペースで通う内科の主治医がいる。
私は次に先生に会う時に話してみようと母を落ち着かせた。
何の心配もいらないという態度を見せながら、私の頭の中は、認知症の予兆なのかと不安が横切った。
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