「トランプ人気について」
我々日本人から見るとトランプというのは言うことなすこと無茶苦茶で、なぜこのような人物が米国で今回も大統領候補として人気があるのか不思議でならない。
そこで新聞や雑誌、ネットなどでその要因として記載されているものを整理してみた。
(当方これ迄トランプの支持者は、中西部及び南部の農民及びブルーカラーで非知識層がほとんどだと思っていたが、必ずしもそうとは言い切れないようである)
トランプは「反エスタブリッシュメント」「反移民」「反グローバリゼーション」というスローガンを掲げている。
「反エスタブリッシュメント」
トランプは自らを政治的なアウトサイダーとしてキャンペーンを展開し、これは既成政治に不満や反感を持ち、政治の変革や刷新を求める人々を引き付けることに役立った。
*(エスタブリッシュメントとは、「社会的に確立した体制・制度」やそれを代表する「支配階級」を言う)
*(2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンがトランプに敗北したのは、メール問題に加えエスタブリッシュメントの代表と見なされていたことがその一因とされている)
「反移民」
メキシコとの国境に壁を作り移民の流入を阻止するとしたが、これは移民により自分たちの雇用は狭められ、移民保護に自分たちの税金が無駄使いされているとする人々の不満を吸収することに成功した。
「反グローバリゼーション」
経済のグローバル化や技術革新の影響で雇用や経済的安定性に不安を感じている人々の支持を取り付けた。
*(従来、共和党は保守・金持ち、民主党はリベラル・弱者の味方と見られていたが、近年はこれが逆転し、民主党は富裕層、高学歴のエリート集団と見なされ、労働者層の支持は共和党に流れるようになった)
(「リムジン・リベラル」という言葉があるが、これはリベラルな政策や価値観を表明するがそれは口先だけで、高級なリムジンに乗っているなど実際の行動が伴わない人々を指す)
*トランプは「Make America Great Again(アメリカ合衆国を再び偉大な国に)」としきりに口にしており、これは弱者である人々を引き付け、将来に希望を持たせることに成功している。
(一般的に米国民は他国のことには関心がなく自分第一と思うところがあるので、トランプの言動が他国で顰蹙を買っても意に介さないと思われる)
現在トランプは「連邦議会襲撃事件」「機密文書持ち出し」「不倫口止め問題」など様々な問題で刑事告訴されており、世論調査でも半数以上が「大統領として不適格」と答えているが、それでもトランプ人気は衰えていない。
ではこのようなトランプ人気の背景には何があるのだろうか。
朝日新聞に大統領選挙について取材した連載記事があり、トランプを支持している人々の様子および声を次のように伝えている。
・「世論調査では共和党員の6割はトランプ支持だが、トランプ支持者はニューカマー(新参者)が多い」
そして幾人かの次のような発言を紹介している。(アイオワ州の共和党事務所で)
「政治に興味を持ったのはトランプが登場してから。甘い言葉でごまかすことなく、本気で話をするのがいい」(57才)
「トランプが大統領だった4年間、メディアも司法省も、ウソの主張でトランプを攻め続けた。あれを見て「我慢できない。トランプの助けになるために何かをしないと」と考えた人たちが、次々と事務所のドアをたたいた」(67才)
「トランプは金持ちなのに我々と同じような言葉遣いをする。選挙後も態度は変わらない。そんな人物を、どうして悪いヤツだと言うことができるんだ」(64才)
・「トランプの選挙運動の特徴として、個人の小口献金の多さがある。トランプ支持者には「政治が一部の富裕層や特権階級に牛耳られている」という不信感を抱く人が実に多い。トランプ自身もカネを追い続けてきた大富豪ではないか。だが、トランプに対しては、逆に「大口献金者に頼らない政治家だからこそ正しい政治をしてくれる」という有権者の期待につながっているのだ。」
・(トランプ支持者の多くは大手メディアに不満や不信感をもっている)
「(米主要メディアの)ABCやCNNは考え方を押し付けてくる。偏向報道にお金を払うのはもうやめようと決めた」(主婦64才)
代わりの情報源はインターネットだ。保守系ネットメディアの見出しをチェックして、SNS「テレグラム」で気に入ったチャンネルを回遊するのが日課だ。
「私の妹のように、仕事が忙しくてCNNを信じる人もいる。それは仕方がない。でも私は、新型コロナで休校中にパソコンで自ら調べることを覚えて、いかにメディアが信用できないかを知ることができた」(元教師60才)
言葉の端々ににじみ出るのが、既存の政治やエリート層に強い不満を持っていることだ。
以上、これらトランプ支持者の発言を見てみると、富裕層や既存の特権階層に対する反感が強く、彼らは大手メディアの言うことは信じないということで一致しており(本当にそのように思っているので始末が悪い)、インターネットで自分が信じたい情報だけを得ているようである。また物事の一面だけを見て単純に考える(私に言わせれば単細胞な)人が多いようである。
なぜそうなってしまうのか。
その答えとして、NHKの記者が米国保守系メディアの創設者と話した下記記事が参考になる。
「彼は、トランプ氏が支持者に対して自分の言うこと以外信じないよう仕向けてきたと指摘した。それは私自身も何度も経験した、トランプ氏が大規模な集会での演説で毎回繰り返してきたパフォーマンスだった。
「Turn the camera. Turn it.(カメラを振るんだ)」
トランプ前大統領は演説を撮影しているテレビカメラの放列に向かってこう発言する。
カメラを左右に振って会場を埋め尽くす支持者を撮影して、どれだけ多くの支持者が集まっているかを伝えるんだ、と要求するのだ。しかし、演説を取り逃すわけにはいかないメディアはカメラを動かさない。
そこで前大統領は「待ってました」といわんばかりにこう発言する。
「メディアはどれだけ人が集まっているか見せたくないんだ。とんでもないフェイクニュースだ」
支持者は大いに盛り上がる。
「なるほど、トランプの言うとおりなんだ。メディアは本当のことを伝えないんだな」
というわけだ。
そして、数千人規模の人々が一斉にテレビカメラの方に向いて顔を真っ赤にして「出て行け」と叫ぶ。カメラの脇に立っていた私は何度もその迫力に気圧されんばかりの感覚を覚えた。こうした手法を積み重ねて大統領はメディアへの不信感を植え付けてきたというのだ。
トランプ支持者が好む、「メディアが伝えない本当の現実」の構図が出来上がり、人々はそこに吸い寄せられていく。
また彼は次のようなことも述べていた。
メディアの人間は、人々が報道で事実を知り、それを元に何が正しいのか判断すると思い込んでいるが、現実はその逆だという。
分断されたアメリカでは、まず人々の立場が予めあり、その立場を守るための主張や言説を信じるというのだ。
(アメリカ社会は今二極化していると言われているが)価値観が激しくぶつかる中で、トランプの敗北を認めることは、自分の価値観、ひいては自分自身の否定につながってしまうという。」
そして、ここで最後に藤原帰一氏の下記記事を記しておく。(朝日新聞「時事小言」2024/3/13)
「州予備選挙を前にした米国ジョージアでトランプが演説した。2020年大統領選挙は不正だったとか越境する移民がわが国を征服しているなどの誤りと誇張に満ちた演説のなかで、見ていて苦しくなったのがバイデン米大統領の物まねだった。バイデンが吃音(きつおん)に苦しんできたことはよく知られているが、トランプは吃音を再現、というより子どもが吃音者をいじめるように、大げさに演じたのである。
体に不自由を抱える人をトランプが物まねするのは初めてではない。それでも、人の苦しみに寄り添うのではなく嘲(あざけ)りの対象にする人間が再び米国大統領になる可能性を考えると、胸が苦しくなった。」